124:雨の日ドッキリと爆弾発言
リカルドが持って来たランプの灯りが、木の中にいる私たちを静かに照らし出す。
「ブリトニー、足を怪我をしているのか?」
「うん、たぶん。すごく腫れていて、あんまり動かせないんだ」
「あの高さから転がり落ちたんだ、骨折かもしれない」
負担のないように座っているが、足の腫れが引くことはなく……私も彼の言う通りだと思った。
心配して応急処置をし直してくれたリカルドは、ふと私の方を見て思い切り視線を逸らす。
「今気づいたんだが。ブリトニー、その、服……」
リカルドに指摘され、私は自分の格好を見下ろした。雨に濡れ、ドレスの布が少し透けている。
「ひゃあ!」
慌てて両腕で服の前を覆って隠したが、三段腹が見えていたらどうしよう。上着を脱ぐんじゃなかったと今更ながらに後悔する。
紳士的に顔を背けているリカルドは、おずおずと自分の上着を差し出して言った。
「こ、これでも被ってろ……というか、お前全身ずぶ濡れじゃないか。服も持って来ているから、そっちに着替えた方がいい」
一旦木の中から出たリカルドは、天幕内にある荷物の中から、大きめの布と簡単な服を取り出して私の方へ投げた。
「絶対に見ないから、とりあえず着替えろ。俺はこっちの天幕にいるから」
「う、うん。ありがとう」
渡された服は簡単なワンピースと厚手の上着。マリアが用意してくれたらしい。
これらを背負って山道を歩くのは、かなり重かったんじゃないかと思う。
濡れた服を隅に追いやった私は布で濡れた体を拭き、着替えてリカルドを呼んだ。
(前開きのドレスを着ていて助かったよ……この足のせいで、時間がかかっちゃったけど)
天幕の中から厚手の布を二枚持って来たリカルドは、ちょっと恥ずかしそうに木の中へ入って来た。
「これ被ってろ、少しは暖かいはずだ」
リカルド自身も一枚を羽織って隣に座る。
濡れた服を着替えて厚手の布を羽織ったのだが少し寒い。冷え込んで来たようだ。
「えっと、リカルドは寒くない?」
「ああ、まだ大丈……」
「もう少し、くっついた方があったかいかもよ?」
「……っ!? そ、そうだな!」
ゴソゴソと移動した私は、リカルドの隣に身を寄せた。
完全ではないが、単体でいるより暖かい。
ちょっとドキドキする私と同じく、リカルドも照れている様子だ。
「……こうした方が、もっと暖かいと思う」
そう言って、今度はリカルドがより私に密着してきた。
密着というか……後ろから私を抱え込むような形になっている。
(ひゃあああ! ちょっと、どうしよう!!)
嬉しいような、逃げ出したいような面映ゆい感覚と同時に、どうでもいいことまで気になり始める。
(いつもより薄着だし、リカルドが腕を回してくるし!)
もう私は、いっぱいいっぱいである。
服越しに伝わる体温に身を預けていると、そっと頭を撫でられた。
「ブリトニー、本当に心配した。無事でよかった」
少し熱を帯びた吐息と、リカルドの囁きが後ろから降ってくる。
身じろぎした私は、振り返って彼に微笑みかけた。
「ごめんね、リカルド。本当にありがとう」
ふと視線が絡み、どちらともなく口を噤む。柔らかな沈黙が落ちた。
ランプの灯りに照らされた緑色の瞳が近づき、私の唇にそっと暖かいものが触れる。
微かな感触が過ぎ去った後、私はようやくリカルドにキスされたのだと理解した。
突然のことに驚いて、体が固まってしまう。
「悪い、ブリトニー……びっくりさせたよな。お前の顔を見たら、自分の気持ちを抑えられなくなって」
私はすまなさそうにオロオロする彼を見て、パチパチと瞬きした。
「……あの、ぜんぜん嫌じゃなかったけど。なんで謝るの?」
心の中で思っていた言葉が、思わず口をついて出る。
(大胆なことを言ってしまった……! はしたない子だと思われるかな?)
リカルドは再び視線をこちらに戻し、赤くなりながらぎゅっと私を抱きしめた。
「ブリトニー、愛してる。必ず、無事に元の場所へ帰してやるからな」
「うん。ありがとう、リカルド」
「でもな……ほんの少しだけ、このままずっとお前といたいと思ってしまうんだ」
夜の闇に溶けるような、微かな声で彼が呟く。
その顔は、小さなイタズラが見つかった少年のようだ。
(リカルド、いつもより積極的だ)
ちょっと不謹慎だけど、こうして彼と一緒にいられるのは私も嬉しい。戻ったら、こんな風に二人でくっつくこともできないだろうし。
しばらくの間、照れていた私たちだが、不意にリカルドが口を開いた。
「……俺、ブリトニーに聞きたいことがあるんだ」
なんでも聞いてと微笑んだ私は、リカルドの次の言葉で凍りついた。
「ブリトニーは『前世の記憶』を持っているのか?」
「……!?」
どうして、リカルドがそんな言葉を知っているのー!?












