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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
16歳

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124/259

123:雨と遭難と第一発見者

 しばらく転がった後、大きな草の茂みに激突して私の体は止まった。全身が泥だらけだ。


(うう……痛い。硬い木や岩にぶつかっていたら、やばかったかも)


 ゆっくり地面に手をついて体を起こすと、自分の居場所がわからなくなっていた。


(転がっているうちに、みんなのいる崖の上から少し離れちゃったみたい。山の木で崖が見えないな)


 一応「無事ですよー!」と叫んで見たものの、返事は聞こえてこない。雨音に声が掻き消されているのだろう。


(一体、どこまで転がったの? 早く戻って無事を伝えないと……)


 しかし、歩き出そうとした私の足に突如激痛が走った。


「な、何?」


 見ると、膝から下が赤く膨れている。


(ええっ、なんかヤバそうなんだけど!? と、とりあえず足に負担をかけないように移動しよう)


 雨はますます激しさを増し、周囲も暗くなってきた。

 腫れ上がって動かしにくい足を庇いつつ、雨宿りができる場所を目指して歩く。

 不運な己の境遇を嘆きたくもあるけれど、今はウジウジ立ち止まっているわけにはいかない。

 暗所での活動は危険だし、捜索されるにしても明日以降になるだろう。

 山道を移動して元の場所に戻るのは、この足では無理だ。道もわからないし暗くなれば動けない。

 あまり動かず、一晩を無事に乗り越えた方が良いと思う。たった一人で心細いけれど。


(マーロウ様やリュゼお兄様に迷惑をかけてしまったな……)


 きっと彼らは、私のせいで足止めを食らっている。

 急いでいる様子だったのに、ただひたすら申し訳ない。


(捜索隊だけ出して、さっさと帰ってくれていたらいいな。これ以上、迷惑をかけたくないもの)


 足の腫れがますますひどくなってきたので、近くにあった枝とドレスのリボンでまっすぐ固定しておく。


(骨折だったら困るからね)


 護身術の他に身を守る術として、私は祖父にもしもの時の応急手当てを学んでいた。

 ハークス伯爵領が北の国の兵士に襲われた時、怪我の初期対応の大切さを思い知ったのだ。


 幸い、近くに雨風をしのげそうな大木があった。入口は狭いが、朽ちて中が空洞になっており、大人が二人入れそうだ。

 ギュウギュウと中に体を押し込んで雨をやり過ごす。


(よし、なんとか尻が入ったぞ! 詰まって動けなくなったらどうしようかと思った)


 泥だらけのドレスを絞り、重くなった上着を脱いで木の中にどっかりと体を預けた。

 雨に濡れて寒いけれど火を起こす道具は持っていないし、薪になりそうな木の枝は雨で湿気ている。

 そんな状態で火を起こす方法なんて知らない私は、ただ丸くなって朝が来るのを待った。



 どれだけ時間が経ったのだろう……

 夜も更け、完全に周囲が暗くなった頃、わずかに生き物の気配を感じた私は、ゆっくり顔を上げた。

 何かがこちらに近づいて来る。雨音に混じって、小さな足音が聞こえたのだ。

 怖くなった私は、さらに身を縮めて空間の奥で震えた。


(野生の獣だったらどうしよう。こんな丸々と太った獲物、見つかったらひとたまりもないよ)


 誰にも知られず、一人山の中で獣の餌になるなんて絶対に嫌だ。

 不安な気持ちや、原因となったメリルに物申したい気持ちなど、様々な感情が嵐のように吹き荒れる。

 けれど、一番強い気持ちは、誰かに会いたいというものだった。


(……リカルド)


 足音が木の近くで止まった。もう駄目だ、この足では戦うことも逃げることもできない。

 覚悟を決めて入り口を振り返ったその時、聞き慣れた声が私を呼んだ。


「ブリトニー?」


 驚いて入り口から外を覗くと、闇の中に明かりを持った人物が立っていた。背中には、何やらとても大きな荷物を背負っている。


(嘘、どうしてここに彼がいるの?)


 闇夜に溶け込むような濃い色の雨避け用フードを被っているのは、先ほど心の中で呼んだ――リカルドだった。


「なっ、リカ……ど、して、ここに?」

「お、落ち着け。大丈夫だから」


 混乱する私の頰に手を当てたリカルドは、「無事で良かった」と言い、今にも泣き出しそうな顔で微笑んだ。


「ずっと探してくれていたの? なんで私のいる場所がわかったの?」

「ああ、転がり落ちた地点から、大体の目星をつけていたんだ。メリル殿下が、状況を詳しく説明してくれたから。でも、ここまで下りるのに少し時間がかかってしまった」


 思い切り突き飛ばしてしまったが、メリルが無事そうで少しだけ安心する。


「山に入って教えられた辺りを探していたら、運良く新しい足跡を発見した。で、この木の下にもたくさんあったから」

「暗い中で足跡を探すのは大変だったでしょ? 雨も降っていたのに……本当にありがとう」


 一つ違えれば、リカルドだって遭難していたかもしれない。


(いや、私と違って大荷物を背負っているし、準備万端だったかもしれないけど!)


 大荷物をドサリと地面に下ろし、リカルドは中から簡易の組立式天幕を取り出した。

 小さいサイズなので、木々の間でも組み立てることができそうだ。

 木の中にいる私は明かりを受け取り、彼の手元を照らした。外に出るべきなのだろうけれど、出入りのたびに巨大なお尻が入口に引っかかるし、足も痛いのでこの体勢が限界だ。

 足のことは心配だけれど、一人ではない安心感で自然と元気が出る。


「リカルド、一人だけなの?」

「ああ、他のメンバーは来られないだろ。王太子に領主、第二王子に姫だぞ? リュゼは行くと言ってきかなかったが、マーロウ殿下に止められていた」

「……そ、そうだね。お兄様に何かあれば、ハークス伯爵家はただでは済まないもの」

「その点、今の俺は身軽だからな。止められたけど強行してきた。捜索隊は、明るくなってからしか動けない」


 天幕を貼り終えた彼は、今度は筒状の物体を取り出し、持って来ていた石でそれに火をつけた。


「それは?」

「狼煙のようなものだな。ブリトニーを発見するか、自分が遭難したら上げるようにと言われていたんだ。この暗さじゃ見えないかもしれないから、明日の朝にも上げる。全部で五本くらい持って来た。俺は先行してここへ来たが、明日には他の救援も来る」

「あっちは?」

「携帯食だな、騎士たちが持たせてくれた。マーロウ殿下が荷物の中に大量の菓子を詰め込もうとしていたが……」

「う、うん」


 ちょっと潰れているけれど、それらしき物体も詰め込まれている。なんだか気が抜けた私は、こんな時だというのに笑ってしまった。

 天幕の中に大量の荷物を放り込んだリカルドが、木の中から明かりを照らす私に向き直る。


「ブリトニー、そっちへ行っていいか? 敷物を敷けば、天幕より木の中の方が落ち着けそうだ」

「もちろんだよ、大きな荷物は無理だけど、二人くらいなら入れるから」


 奥へ退くと、ずぶ濡れのフードを脱いだリカルドが、敷物を持ってスムーズな動きで木の中に入って来た。入り口で尻がつかえていた私とは大違いだ。

 中は二人が入って少し余裕があるくらいの広さしかない。すぐ近くにリカルドの存在を感じて、先ほどから心臓がうるさいくらい大きく脈打っていた。

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― 新着の感想 ―
これはリカルドで決まりかなぁ。 リュゼ〜(T ^ T)
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