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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
16歳

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122/259

121:帰り道と危険な兆候

 あれから数日間、私はセルーニャと様々な話をした。

 元の世界での知識を活かす方向や、お互いの新製品の取引などなど。

 翌日以降は、マーロウやリュゼも交えての話し合いになった。

 王太子の補佐として、リカルドもしっかり仕事をしている。

 エミーリャは、キラキラした瞳で大好きな兄王子を眺めており、メリルはといえば、いつもの仰天発言で周囲を困惑させてマーロウにたしなめられていた。


 あと、南の国の料理は、セルーニャが関わっているだけあって絶品だった!

 懐かしい和食も出てきて泣きそうだ。


(この再現度! さすがです、セルーニャ殿下!)


 他のメンバーは、不思議そうに異国の料理を味わっていた。

 ハークス伯爵領も、負けてはいられない。

 時折、リュゼやリカルドが何か言いたそうに私を見てくるのだが……


(どうしたのかな?)


 言いたいことがあるのなら、はっきり言って欲しい。

 しかし、私が目を向けると、彼らはそっと視線を逸らすのだった。


 そんなこんなで充実した時間は過ぎ――とうとう南の国を発つ日がやってきた。

 灰色の雲に覆われた空を見上げ、リュゼが難しい顔になっている。


「マーロウ殿下、天気が崩れそうですね。予定を変更しますか? 来る途中、崖に面した道もありましたし……」

「しかし、いつまでも他国に居座るわけにはいかない。日程を変えれば、南の国側に余計な仕事を増やしてしまう。帰ってからしなければならない仕事も、かなり溜まっているだろう」


 困り顔の彼らに向かって、セルーニャが言った。


「急ぐのであれば……少し遠回りになりますが、安全な迂回路がありますぞ。エミーリャ、そちらの道へ案内して差し上げなさい」

「了解、兄上。その道なら何度も通ったことがあるよ」


 輝く笑顔で返事したエミーリャは、さっそくマーロウやリュゼに移動の計画を相談し始める。

 ふと、リカルドと目が合った。なんとなく近づいて、彼に話しかける。


「リカルド、困ったことになったね。崖の近くだと、地盤が緩んで土砂崩れが起きる危険もあるし」

「そうだな。来る途中で一つ山を越えたが、確かに険しい道もあった。でも、迂回路を使えば大丈夫だろう……問題は、どのくらい時間が掛かるかだが」


 王太子や王女が同行しているのだ。あまり予定にない場所を移動し過ぎるのはよろしくない。

 通常なら、下見をした上で決められた道を通るのだ。

 セルーニャたちの話に耳を傾けると、やはり迂回路を使うことになりそうだった。


(エミーリャ殿下も使い慣れている道みたいだし、安全だとは思うけど)


 しばらく二人で様子を見守っていると、思いつめた表情のリカルドが私に視線を移した。


「なあ、ブリトニー」

「どうしたの?」

「その……」


 物言いたげなリカルドが、口を開いた瞬間――


「リカルド! 迂回路の道なりに、養蜂で有名な村があるんですって! セルーニャ殿下がお料理のためによく立ち寄られるそうよ! ブリトニーも気になるでしょう!?」


 乱入したメリルによって、会話がぶった切られる。

 私への質問を取り下げたリカルドは、何事もなかったかのように微笑んだ。


「さっき、何を言いかけたの? リカルド?」

「なんでもない。また、今度話す」


 急ぎの用件ではないらしい。

 私たちは、そのままメリルを交えて蜂蜜の話題に花を咲かせた。



 結局、セルーニャの案が採用され、迂回路を通って中央の国の王都へ戻ることが決まる。

 もたもたしている間に雨に降られたら大変なので、素早い判断が下された。

 途中までの道のりは、来た時と同じ。

 山に入って少し進むと分岐点があり、そこを右に曲がると迂回できるみたいだ。ちなみに、左だと行きに通った崖沿いの近道に出る。

 セルーニャ御用達の養蜂村から少し先の街で一泊し、そのまま元の道に合流する流れとなった。

 私は行きと同様、メリルと一緒に馬車に乗り込む。彼女とは、だいぶ打ち解けてきた。

 ガタゴトと馬車に揺られて、なだらかな山道を進む。窓から外を見たが、雨はまだ降らない。

 頬を撫でる風の温度が下がり、鳥の群れが低い位置を飛んでいる。


「どうしたの、ブリトニー?」

「かなり雨が近いなと思って。すぐにでも降り出しそうです」

「天気に詳しいのね?」

「田舎育ちなので、天候は結構重要なんです」


 とはいえ、メリルは雨の話に興味がなさそうだった。

 キョロキョロと窓から頭を出して、山道を楽しんでいる。


「ねえ、ブリトニー。このあたりで美味しい湧き水が取れる場所があるのよ? セルーニャ殿下が教えてくださったの。地元の人も来る水場が……って、あら? あれかしら?」


 メリルの視線を追うと、小さな水場があった。


「ここですか?」

「だと思ったんだけど、水が出ていないわね。全然関係のない地面からは湧き出しているのに」

「本当ですね、道の端から……」


 言いかけて、私はハッとした。これは、土砂崩れの前兆だ。

 同行している王太子の部下に、急ぎ従兄への連絡を頼む。

 私やリュゼの住むハークス伯爵領では山道が多い。大雨が降ると土砂被害が出る場所もあるため、その危険性をここにいる誰より知っているのだ。


「もっとペースを上げて、迂回路へ急いだ方がいいですね」


 灰色から黒に変わっていく空を見て、私はぎゅっと両手を握りしめる。


(何も起こらなければいいけど、嫌な予感がする)


 やがて、そんな私の不安は的中した。


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