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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
16歳

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120:第二王子と奇妙な質問(リカルド視点)

 ブリトニーが、セルーニャに面会する一日前。

 境界の街に到着した初日に、俺――リカルドは、リュゼと立ち話をしていた。

 リュゼは良い奴だが敵に回すと怖い。今回の旅で、それを痛感させられた。


「……というわけで、リカルド。僕はブリトニーに婚約の話を持ちかけたよ。本人は、君との関係を諦めてはいないようだけれど」

「そ、そうか」 


 微妙に牽制してくるリュゼは、いつもと違って大人気ない。


(余裕のある年上だと思っていたが、こんな一面もあるのか)


 俺は無意識にリュゼに憧れ、彼を目標としていた。

 しかし、今をときめく北の伯爵も人間なのだ。

 

(リュゼは、ああ言っているけれど、ブリトニーは心変わりせず俺を想ってくれている)


 それがはっきりとわかり、少しだけ気持ちが穏やかになった。

 気づかず、心がささくれだっていたようだ。

 行きの馬車の中、なかなかブリトニーと話せず、悶々としていたからだろう。


 話をしているタイミングで、南の国の第二王子であるセルーニャが現れた。

 エミーリャの兄であるセルーニャは、今回俺たちを招待してくれた相手だ。

 会うのは初めてだが、彼は親しみやすい微笑みを浮かべている。


「ようこそ、南の国へ。リュゼ殿にリカルド殿とお見受けしましたぞ。私は、ここの第二王子でセルーニャと申す者」


 親しげに語りかけてくる王子に対し、こちらも笑顔で挨拶と自己紹介を返した。

 セルーニャはメガネをかけていて、弟と同じく人懐っこそうだ。

 行く前に調べた情報によると、マーロウ王太子やリュゼと同年代らしい。


「この度は、お招きいただきありがとうございます」


 リュゼと共に、俺は彼に挨拶した。他国の王族なので、少しだけ緊張する。


「堅苦しいのはここまでにしましょう。せっかく会えたのです、仲良く楽しく過ごしたいですぞ」


 そこで、俺たちは「仲良く」話し始めたわけだが、話題はやはり互いの国のことや、領地経営の新情報になってくる。


「ところで、リュゼ殿の従妹君は、面白い発明をたくさんしているらしいですな」

「ええ、ブリトニーには、いつも助けられています。自慢の従妹ですよ」


 にっこりと笑うリュゼ。意味深だ。


「それは良いことですなあ。ただ……」


 そこで、一度声を落としたセルーニャは、含みのある視線を俺たちに向けてきた。


「少し込み入った話になりますが、お二人は、彼女のことをどこまでご存知ですかな?」


 彼の言っている意味がわからず、俺は首を傾げる。

 リュゼも、片眉を上げてセルーニャに問い返した。表情は、あくまでも柔らかい。


「失礼ですが、おっしゃっている意味がよくわかりません。どこまで……と言われましても。なんの話か具体的に教えていただけますか?」

「申し訳ない、質問を変えましょう。あなた方は、彼女の前世――『過去の記憶』について何か聞き及んでおりますかな?」


 相変わらず首をかしげる俺だが、この質問にリュゼが反応した。

 自然体を装っているが、彼をよく知る俺の目には、わずかに王子を警戒しているように映る。


「過去の記憶、ですか?」

「ええ、弟から聞いた話を総合すると、彼女は私と同じでして。前世の知識があるようなのです」


 リュゼは笑みを崩さない。

 だが、セルーニャ王子の荒唐無稽な話について、何かを知っているように思える。


(……なんなんだ? セルーニャ王子には前世の記憶があるのか? そして、ブリトニーにも?)


 自分だけが知らないということに、奇妙な焦りを覚える。

 前世の記憶なんて本当かどうか怪しい話なのに、リュゼは何も突っ込まない。


(ブリトニーに、一体何があるというんだ?)


 俺たちの様子を見ていたセルーニャは、小さく息を吐いて言葉を続けた。


「余計なことを申し上げましたが。ブリトニー嬢と親しいあなた方には、彼女のことを知っておいていただきたいと……その上で、彼女を助けて欲しいと思ったのですぞ」


 正直言って、良い気分ではなかった。

 なぜ、赤の他人であるセルーニャに、ブリトニーのことを色々言われなければならないのだという気持ちが強い。


(……あいつに直接会ったことだってないくせに)


 まるで、全てを知っているかのような第二王子の余裕に、複雑な思いを抱いた。


(ブリトニーには、俺に言っていない何かがあるのか? そして、リュゼは知っているのか?)


 その後、他に用事のあるセルーニャは去って行った。

 一連の話は、ただの冗談にしか思えない。けれど……

 なぜか、自分だけが取り残されたように思えて、説明のつかない焦りが募っていくのだった。


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