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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
16歳

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116/259

115:誤解と二人きり

 午後の中庭は、穏やかな空気に包まれていた。

 しかし、私の心の中では季節外れの大嵐が吹き荒れている。


 エミーリャに連れられ、私は、リカルドたちの元に到着した。

 リュゼのこともあり、彼と顔をあわせるのは気まずい。


(挙動不審にならないように気をつけよう。リカルドは、リュゼお兄様との間にあった話を知らない)


 ただでさえ心労の多い彼に、余計な心配はかけたくなかった。

 エミーリャ王子が、談笑中の三人に声をかける。


「やあ、楽しそうに何を話しているんだい?」


 すると、三人が同時に振り返った。


「エミーリャ王子にブリトニーじゃないですか。こんにちは」


 人の良さそうな笑みを浮かべたルーカスが、私たち二人を歓迎する。

 私を見て柔らかな笑みを浮かべたリカルドの反応に、心臓の鼓動が自然と早くなる。

 私も、彼に小さく微笑みかけた。


「こんにちは。偶然窓から三人が見えたもので」


 話し出すと、横からエミーリャも加わる。


「そうそう。それで、思わず来ちゃった。本当はアンジェラ王女と話をしようと思ったのだけれど、また怒らせちゃって……締め出されてしまったんだ」


 肩をすくめるエミーリャに向けて、ルーカスが静かに笑った。


「またですか。あなたも懲りない人ですね、どうせ彼女をからかったのでしょう?」

「そんなことはしていないよ。今日も美しいねと褒めただけなのに。真っ赤になって怒ってくるんだから」


 ……と言いつつも、エミーリャ王子は、アンジェラの反応を楽しんでいるようだ。彼の飴色の瞳は笑っている。

 話を聞いたルーカスは、呆れた表情を浮かべ口を開いた。


「ほら、そういうところが駄目なのです」

「これでも進歩しているのになぁ。前は二十秒で追い出されたけれど、最近では二分程度一緒にいられるんだよ?」

「……それは、進歩というのでしょうか?」


 この二人は、なかなか仲が良いようだ。漫画の中でも、仲良しな良きライバルという関係だったので、もともと気が合うのかもしれない。


「ところで、楽しそうになんの話をしていたのかな?」


 エミーリャの質問には、メリルが得意げに答えた。


「ふふ、国王の直轄領の運営についてよ。アスタール伯爵領が、どんなことをしていたのか、リカルドに聞いてみたら、すごく面白くて!」


 それでメリルは興奮していたらしい。


(……嫉妬していたのが、バカらしくなってきたわ)


 しかし、彼女はその後に微妙な言葉を続ける。


「リカルドってば、なんでも詳しく教えてくれて。とっても誠実で素敵よね!」


 メリルの言葉を聞いて、モヤモヤが再発した。しかし、横から声をかけられ、それらは霧散する。


「しばらくぶりだな、ブリトニー。最近変わりはないか?」


 話しかけてきたのは、リカルドだった。

 彼と会えて嬉しいが、胸のうちには複雑な思いがある。


「うん、元気だよ、リカルド。特に……変わりはないかな?」


 私は、曖昧な笑みを浮かべて返事をした。


(駄目だ、かなり気まずい……!)


 リカルドのことは好きだし、一緒に話ができて嬉しいのに、頭のどこかで彼との婚約反対という現実が浮かんでくる。


「……どうした、ブリトニー? 様子がおかしいが」

「なんでもない。ぐふふ」


 不自然な笑いを見抜いたのか、リカルドの緑色の目が細まる。


「どう見ても、なんでもないという態度じゃないだろ。何があったか知らないが、遠慮せずに言え」

「いや、あの……」


 うまく取り繕えずに焦っていると、リカルドが強引に私の手を引いた。


「申し訳ありません。ブリトニーと話があるので少し外します」


 馬鹿正直なリカルドの言葉に、ルーカスが頷いた。


「お好きなだけどうぞ。僕らはここにいますから、まだまだ話したいこともありますし」

「すまない、すぐ戻る」


 私の手を握ったままのリカルドは、中庭を抜けた先にある回廊に私を連れ出した。

 回廊の柱に背を預け、二人並んで立つと、リカルドが気まずげに切り出す。


「俺が、なにか気に触ることをしたのか?」


 予想外の反応に、私は慌ててそれを否定した。


「ち、違う! そうじゃない、リカルドは何も悪くないよ!? 無実です!」

「だが……」


 これ以上隠し立てすれば、リカルドがあらぬ方向に誤解しそうで困る。


(黙っているつもりだったけど)


 動揺をうまく隠せない私は、誤解を避けるために洗いざらい全てを話す他なかった。


「実はね……」


 私は、リュゼとの間にあったことを告げる。


「ごめんね、リカルド」


 こんな話を聞かせて、さぞ傷つけてしまっただろうと申し訳なく思ったが、その話を聞いたリカルドは案外落ち着いていた。


「やっぱり、そうだったか。少しだが、リュゼがブリトニーを想っている気がしていた。本人は否定していたが」

「……えっ、いつの話?」

「十四歳の夏のことだ。あれは、婚約保留の話が出た時だった」

「そんなに前から!?」

「確信はなかったが。一緒に暮らしていたのに、全く悟らせないリュゼはすごいな。俺には、できそうにない……思い切り態度に出てしまいそうだ」


 素直さが、リカルドの良いところだと思う。


「でも、そうか。嫌われたわけじゃなくて安心した」


 微笑むリカルドだが、安心できる状況ではない。

 リュゼは、私たちの婚約をなかったことにしようとしている。というか、してしまった。

 心の中で、焦りだけが募る。


「さっき、他言無用ということで、エミーリャ王子に相談したのだけれど。一度、広い世界を見たほうがいいと言われたわ。詳しく聞いていないけれど、彼なりの考えがあるみたい。私は、その話に乗りたいと思っている……お兄様の許可が出れば」

「話からすると、エミーリャ殿下は、ブリトニーをどこかへ向かわせるつもりだろうか。だとすれば、俺も同行したい。彼に言ってみるか」

「でも、いいの?」

「ブリトニーが心配なのもあるし、俺もお前と一緒にいたい。ブリトニーは無自覚だが、結構男に人気がある」

「いや、それは勘違いだから」


 確かに、一時期痩せた時は化粧詐欺効果も相まって、男性から注目を浴びた時期がある。

 しかし、その後リバウンドして真相が広がり、当時私に関心を持っていた男性陣は、白豚令嬢にすっかり興味をなくした。ルーカスが良い例だ。


「だが、リュゼだって、マーロウ殿下だって、ブリトニーを気に入っている」

「……マーロウ様は、単にデブ専なだけだと思う。リュゼお兄様は……まあ、驚いたけれど」

「リュゼには、なんと言ったんだ?」

「まだ、何も。リカルドとの婚約を否定されたことで、私が動揺しちゃったから、少し考えて欲しいって……お兄様にも悪いし、ちゃんと向き合わなきゃと思ってはいるのだけれど」

「そのことも含め、エミーリャ王子の提案に乗ってみるのもいいかもな」

「うん……」

「俺も、もう一度リュゼに会って直接話をしようと思う」

「ありがとう、リカルド」


 誤解が解け、結論が出たところで、二人揃ってルーカスたちのところへ戻る。

 少女漫画の主役メンバーたちは、まだ楽しそうに会話を続けていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 変な誤解が広がらないように言いづらくてもちゃんと話すところがブリトニーの偉いところですよね。
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