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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
16歳

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113:意外な相談相手

 リュゼから婚約話を持ち出された私は、悩みの尽きない日々を送っていた。

 毎日、自室で悶々と仕事をしている。


(誰にも相談できないところが地味に辛い)


 リカルドにこんなことを言えないし、私を溺愛している祖父に言えば大賛成されそうだ。マリアもおそらく賛成するだろう。

 祖父は私が他所に嫁入りすると寂しがるし、マリアたちメイドは、リュゼ信奉者が多い。

 普通の悩み事なら相談できるノーラだが、彼女に婚約のことを言うのは怖すぎる。リリーも同じだ。

 なにしろ、二人とも、リュゼに惚れている。


 かといって、マーロウ王太子やアンジェラに相談なんて無理だ。

 王族相手に、何を言っているのだという話である。


(自分で考え抜いて結論を出すしかなさそう)


 唸りながら、卓上に置かれたドーナツをつまむ。

 これは、先日リュゼに会いに来たマーロウ王太子の土産だ。なぜか笑顔で手渡されたので、そのまま部屋に持ち帰っていた。

 彼は、やたらと私に甘い食べ物を渡したがる。


(とはいえ、自分のことばかり考えていられないな。他にも、考えなければならないことが出てきたし……)


 その筆頭は、少女漫画の主人公の行動である。

 王女メリルの言動は、早くも王宮内に数々の波紋を呼び起こしていた。

 男性ウケは非常に良いのだが、そのぶん多くの女性の反感を買っている。同性の敵を作りやすい性格なのだ。


「アンジェラ殿下がおかわいそうですわ。あんなに、苦労をされて」

「あの方の態度には、我慢なりませんわ!」

「アンジェラ様のために、私たちが動くべきじゃないかしら。一度、王宮で暮らす者のあり方というものを知らしめてやったほうが……」


 城内では、そんなことを言う令嬢も出て来ている。

 そういう話を聞かされるたび、私はやんわりと彼女らを押しとどめた。

 下手を打つと、アンジェラ様の責任になるかもしれないと。


 今も、アンジェラは、一生懸命メリルを指導している。効果は今ひとつのようだが……

 現状、メリルは着々と敵を増やしており、第二王女に反感を抱く令嬢たちは、手っ取り早い対抗馬のアンジェラに擦り寄り、無意識に彼女を担ぎ上げようとしている。


(まったく、アンジェラの名前を勝手に使わないでよね)


 これでは、まるで第一王女自身が彼女たちを誘導し、妹をいじめているように見えてしまう。


(城でよく会うメンバーは平気だと思うけれど、他の令嬢の行動はわからない)


 早まってメリルに喧嘩を売るものが出なければ良いが、すでに行動に出ている者がいるかもしれない。


(これじゃあ、原作みたいなイジメ展開になってしまうかも……)


 そして、最悪の場合、アンジェラは断罪されてしまう。彼女と親しい私やノーラも危うい。

 そんなことを考えると、私の手はまた無意識にドーナツへ伸びるのだった。


(い、いかん! またリバウンドしてしまう!)


 胸の内にうずまくモヤモヤを断ち切るため、私は昼過ぎに城内へ向かった。

 仕事もひと段落したし、リュゼと会っても、どう接すれば良いのかわからない。

 いや、向き合わなければならないと頭では理解しているのだが、そのために考える時間が欲しかった。



 城の東側に足を踏み入れた私は、すぐ知った声に話しかけられる。


「お、ブリトニーじゃん! いいところへ来たね!」


 声のする方を見ると、笑顔のエミーリャ王子が立っていた。


「こんにちは、エミーリャ殿下も東の建物に用事ですか?」

「ああ、うん。アンジェラ王女に会いに来たんだけど……また締め出されちゃった」

「……そうですか」


 南の第三王子エミーリャは、アンジェラの婚約者候補だ。

 彼は第一王女アンジェラに好意を持っており、アンジェラもまんざらではない様子なのだが、素直でない彼女は、意地を張ってエミーリャに度々心にもない言葉をぶつけている。

 もっとも、寛容な赤髪の王子は全てをお見通しなので、大きな問題は起きていないのだが。

 今日も、彼はアンジェラにちょっかいをかけて追い出されたらしい。

 エミーリャは、それすら楽しんでいる節がある。


「ところで、ブリトニー。交易の件、君の従兄に頼んでくれたのだね、感謝するよ。君自身が動くのかと思っていたけれど」

「私が表立って動くより、従兄に頼んだ方が早いので」

「……この国も、大変だね。ブリトニーは、南の地で生活する方が向いていそうだな」


 外国へ行くよりも、ここでのんべんだらりと生きている方が性に合う。

 そう言おうとして、私は気がついた。

 そんな生活を続けるためには、リュゼと婚約するのが一番だということに。


(よそへ嫁に行っても、今の生活を続けられるかわからない)


 リカルドと結婚しても、その先にあるのは今とは違う世界だ。

 宮廷貴族の妻はどんなもので、自分は何をすれば良いのか、将来像が見えず甚だ不安である。


(でも、リカルドのことは好きだし……)


 こちらが思い悩む様子を悟ったのか、エミーリャが気遣わしげな視線を向けてきた。


「どうしたんだ、ブリトニー? 悩み事か?」

「いいえ、大したことではないです」

「俺でよければ聞くよ。ちょうど暇をしていたところだし、こういうのは全く関わりのない第三者に話すと楽になるだろ?」

「……いや、でも」

「えっ、もしかして、俺に関わりのある話!?」

「ち、違います! エミーリャ殿下は全く無関係です!」

「なら、話せるよね?」


 結局、追い詰められた私は、他言無用を条件に彼に悩みを打ち明けたのだった。


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