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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
15歳

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101/259

100:原作開始に向けて

 北の国を撃退してから半年が経ち、季節は冬になった。

 ハークス伯爵専用の仕事部屋は、今やすっかりリュゼの居場所になっている。

 古びた棚や机の上には、整えられた書類が山ほど積まれていた。

 祖父が伯爵だった時は、書類はあちらこちらに散乱し、見つからないことが多かったけれど。


 リュゼの部下たちもキビキビと働き、どんどん書類を処理していく。

 かつて私が勉強を教えた使用人の子供――ライアンも、見習いとして仕事を頑張っているようだ。


 もうすぐ十六歳になる私は、従兄の仕事部屋を訪れた。

 少し前から、リュゼに相談していることがあったのだ。


「ブリトニー。春から王都へ行きたいというのは本気なのかい? あれだけ嫌がっていたのに……」

「はい、アンジェラ様から勧誘がありましたので。彼女と仲良くなることができましたし、お受けしようと思います」


 次期領主の地位を失ったリカルドは、アスタール伯爵領での仕事を終えて王都に戻るそうだ。

 そこへ行けば、私は彼と会える。

 自分から動かなければ、伯爵令嬢である私がリカルドと出会う機会はほぼなくなるだろう。


 あんな状態になってしまった以上、用もなしに王都にいる彼に会うのは難しい。

 そのまま月日は流れ、私は別の相手と婚約する……という流れになるはずだ。

 相手が、どこの領地の誰になるのかまではわからないが。


(リカルドに会えたとしても、婚約は難しい。それは、わかっている)


 簡単に彼のことを「好き」だとか、「婚約を諦めたくない」だとか言っても、現実はシビアだ。

 けれど、このまま後悔したくない。


(原作で死亡する、マーロウ様のことも心配だし)


 かつての従兄は、私が王都へ行こうが行くまいが、どちらでも良いという雰囲気だった。

 しかし、今目の前にいるリュゼは、難しい顔をしている。


「話はわかった。で、いつまで向こうにいるつもりなんだい?」

「特に決めていないです」

「ブリトニーの社交デビューのため、どのみち王都に行かなければならないとは思っていたよ。けれど、君はこれからハークス伯爵領で活躍するものとばかり……」


 澄んだ青い瞳に見つめられ、私は居心地が悪くなった。

 確かに、私にはハークス伯爵領での仕事もあるのだ。

 それらを放り出し、ずっと王都に滞在するわけにはいかない。


「そうですよね」

「春から領内の水路の建設が始まるし、アスタール伯爵領から『一緒に新事業を始めないか』という誘いも来ている。あちらの資源は魅力的だよね」

「……確かに」


「ブリトニー、君が望むのなら。ずっと、ハークス伯爵領にいてくれて構わないんだよ? その方が、僕も助かるし」

「お兄様、それは駄目です。私が嫁に行き遅れてしまいますよ」

「行き遅れたなら、僕がもらってあげる」

「また、そんな冗談を」


 西の町での、リュゼとミラルドの会話が脳内で蘇り、落ち着かない気持ちになる。


(いやいや、絶対ないから! お兄様が私と婚約したがるなんて、ありえないから!)


 年齢は五歳離れているし、従兄は他の令嬢にモテモテだ。

 ノーラやリリー、アンジェラまでもが彼にときめいている。


(そんな人物が、白豚令嬢に……なんて、ないない。何を自意識過剰になっているの)


 冷静に考えると、ドギマギしているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。 

 私はリュゼの言葉を軽く聞き流す。


「それでは、王都には滞在できませんか?」

「こちらに戻ってもらうこともあるけど、それで良いなら構わないよ。僕も、王都とこちらを行き来することが多くなると思うし」


「住む場所は、アンジェラ様が用意してくださるみたいです。お金はあまりかかりません」

「お金のことは心配しなくていいよ。復興に予算を割くから、贅沢はさせてあげられないけれど。令嬢として恥ずかしくないように、出すべきものは出せるから」

「ありがとうございます」


 歯切れの悪いリュゼの同意を得た私は、領地の仕事をしつつ、王都へ向かう準備を始めた。


 もうすぐ、私は十六歳になり、春から物語の原作が始まるだろう。

 少女漫画の通りなら、危険が待っているかもしれない。

 でも、そうではないかもしれない。


 リカルドは原作通りになってしまいそうだけれど、違う点もある――リュゼは死んでいないし、アンジェラの性格は改善された。


(大丈夫、私は処刑されない。アンジェラ様も、今ならメリルに意地悪なんてしない……はず)


 希望はある。

 そう信じつつ、私は再び仕事に取り掛かるのだった。


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― 新着の感想 ―
ついにきたー!! 原作が始まるまでのここまでが、こんなにも長いのにこんなにも面白いなんて!用事しなきゃいけないしそろそろやめなきゃと思うのに辞められない。罪作りな女、ブリトニー! ここからどうなるか…
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