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……ここまでの騒ぎになっちゃったら無理だと思う。変態を通り越して人外の域にまで達してるんじゃないかってレベルの親馬鹿のお父さまとシスコンのお兄さまがなにかしてくると思うけれど、どうか強く生きて。
グラストン伯爵がころげまろびつ馬車に逃げ込み、御者に喚き散らす。
「早く! 早く! 早くっ! 帰るぞ! 帰るんだぁぁ!」
馬車がものすごい勢いで走り去ってゆく。
やれやれとそれを見送っていると、さらににゃんこが増える。
「も~っ! 騒ぎを起こして!」
「ア、アレン以外の人の前には姿を現さないでって……ティア、言ってたじゃないか……」
シルフィードとグノームまで……。そっかぁ……。みんないたんだぁ……。
「お、おい……。増えたぞ……」
「またどえらい色の猫だな……。アレは……?」
う。
「ティア、大丈夫か? ご、ゴメンな? こっそり見に来てたこと、怒ってるか?」
「わ、悪かったわ。でも、アタシもイフリートも、ティアのお店が見たかったのよ……」
アレンさんが人々にシルフィードとグノームの紹介をする傍らで、イフリートとオンディーヌが耳をペタンと寝かせて上目遣いで私を見る。
くっ……! うるうるした大きな目も、しょぼしょぼしたその感じも、可愛いっ!
「ううん、怒ってないよ。怒るはずがないよ。助けてくれてありがとう」
助けてくれたんだもんね。
そもそも、『家にいて』とか『人前に出ないで』とか――私が勝手すぎたんだよ。
みんな、私のパンが大好きなのに。私のことも好きでいてくれて、お店のことも応援してくれていたのに。
「大好きよ」
みんな――あ、みんなじゃないか。逃げちゃったからシルフィード以外――を順番に抱き締めて親愛のキスをする。
「みんな、台から降りて。ここは食品を扱う場所だから」
陳列台を片づけて、綺麗に拭く。試食籠は新しくするために一度全部店内に下げる。
そうして、私はお客さまに深々と頭を下げた。続いて、アレンさんも。
「みなさま、お騒がせして申し訳ありませんでした。こちらにお並びくださいませ。すぐに販売を再開いたしますね」
お客さまたちがホッとした様子で、また列を作る。
「ティアのパンはすっごくおいしいんだぞ!」
「アタシはねぇ、クリームパンとハニーバタートーストが大好きなの!」
「ボ、ボクもクリームパンが好き。あんバターも好きだよ。食べてほしいな……」
「俺は甘いものよりカラいもののほうが好きだった。焼きカレーパンも食べてみてよ」
精霊たちがお客さまを見上げて、尻尾をフリフリしながら自分たちの好きなものをオススメする。
その愛らしすぎる姿にみなさん胸を打ち抜かれて、デレっと目じりを下げる。
「可愛いっ! 聖女さまが大好きでいらっしゃるのね!」
「嬉しいわ! まさか、精霊さまとお話ができるなんて!」
「聖女さまが焼いたパンを食べられるなんて、すげぇ幸運じゃないか!」
「すみません! 俺はクリームパンとあんバターと焼きカレーパンを一つずつ!」
「私も!」
「僕も!」
「はい、ただいま!」
追加で焼いたパンたちはもう冷めただろうから、すぐにお出ししよう!
私はお客さまに頭を下げて、店内へ――そのまま厨房に駆け戻った。
そして、厨房の一番奥の壁に頭をつけて、地の底よりも深ぁ~いため息をついたのだった。
ああ、どうやら私――悪役令嬢から聖女にジョブチェンジすることが決定してしまったようです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
一旦一区切りです。
あ! もちろん終わったわけじゃないです。ここから物語はまだまだ続きます!
ただ、書き溜めておいた分が一旦尽きたということです。
続きは、来年1月のどこかで再開できたらなぁと思っています。
少し長く空いてしまいますが、お待ちいただけましたら幸いです。




