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5-17

 私は足もとに転がった金貨を見て、小さくため息をついた。


 大金をチラつかせればビビるとでも思ったのかな? ――おあいにくさま。こちとら、元・公爵令嬢なのよね。


「――リリア、ゴメンね? 拾って差し上げて」


「う、うん。わかった」


 リリアが散らばった金貨を拾い集める。


「ありがとう。ちょっとお店の中に入っててくれるかな?」


「だ、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ」


 私が金貨が入った袋を手にしたことで、売る気になったと勘違いしたのだろう。グラストン伯爵がニヤァと笑った。


「そうだ! 素直にさっさと売れば――」


「こちらはお返しいたします」


 私はその袋をグラストン伯爵の胸もとに突きつけた。


「なっ……!?」


「すでに申し上げましたとおり、当店では身分は一切関係ございません。そして本日は完全先着順、お一人さま三つまでとなっております。ご了承いただけるのであれば、最後尾にお並びください。ご了承いただけないのであれば、お帰りくださいませ」


「な……! な……! こ、この女ぁ!」


 グラストン伯爵が怒りに顔を真っ赤にしてぶるぶると身体を震わせる。

 そして、手にしていたゴテゴテと宝石で飾り立てた趣味の悪い金の杖を勢いよく振り上げた。


「卑しい身分の分際でこの私に逆らうな! ゴミは私の言うとおりにしてればいいんだっ!」


 あ。


「ティア!」


 目を見開いた瞬間、アレンさんが素早く私の前に立ち塞がり、グラストン伯爵の腕をつかむ。


 同時に、イフリートがふわりと陳列台に降り立ち、グラストン伯爵に牙を剥いた。


「ティアになにするんだ!」


「ぎゃあっ!」


 イフリートが叫ぶと同時に、グラストン伯爵の立派な口ひげにボッと火がつく。


「ひ、ひぃいぃいい! な、なんで火が! アチ! アチアチアチッ!」


 グラストンが伯爵が尻もちをつき、大慌てで口ひげを叩く。


 ひげに火がついてんのよ? 下手したら大火傷しちゃう。すぐに対処しなきゃいけないんだけど、私とアレンさんは呆然とイフリートを見つめたまま動くことができなかった。


 い、イフリートぉぉぉぉぉ!? ななななななんでここにいるのっ!?


「いいいいいいいイフリート! 家で待っててくれるはずじゃ!?」


「あ……!」


 思わず叫ぶと、イフリートが少しバツが悪そうに首をすくめる。


「ご、ゴメン……。だって、ティアのパン屋が見たかっ……」


 アレンさんが慌ててイフリートの口を塞ぐ。


「むぐぐ?」


 それでようやく、私は自分が犯した失態に気づいて両手で口を覆った。


 あーっ! は、話しかけちゃった! イフリートって呼んじゃったよ!


「お、おい……見たか……? ってか、聞いたか?」


「え、ええ……。今、しゃべったわよね……? あの赤い猫……猫? アレ、猫……よね?」


「めちゃくちゃデカいけど……た、たぶん……そうなんだろうな? 自信ねぇけど……」


「しゃ、しゃべったどころか! なにもない空間からいきなり現れたわよ?」


 人々がざわめき出す。


「って言うか、店主さん……『イフリート』って呼ばなかったか……?」


 あ、あぁ~っ! バッチリ聞かれてた!


「ば、馬鹿言え。イフリートといえば火の精霊だぞ?」


「そ、そうよね? 気のせいよね? そんなわけない……」


「いや、でも……今……たしかにイフリートって……」


「あ、火の精霊にあやかった名前なんだよ、きっと。だって真っ赤だぜ?」


「い、いや、そもそも……真っ赤な猫ってなんだよ……」


「それにあのデカさだぜ……? どう見たって猫じゃないだろ……」


「ねぇ、まさか……魔獣なんじゃないの……?」


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