5-11
次の日からはまたお店の石釜オーブンでのパン焼きの訓練、レシピの微調整、広場でのパン配り、そしてお店作りの仕上げをする毎日。
パン配りを神殿の子供たちじゃなくてアレンさんに手伝ってもらったことがあったんだけど――そのときはたいへんだった。一瞬で広場がフェス会場みたいになっちゃったもの。もしかしたら、街中の女性が集まってたんじゃないの? ってぐらい。おおぅ、奇跡の顔面の効果すごい……。
そうして――あれよあれよと一週間。ついにパン屋のオープン日を迎えたわけなんだけれど。
夜が明ける前から、パンを焼いて焼いて焼きまくって――いつもパン配りを協力してくれている孤児院の子たち(今回は年長さんだけ)も朝早くから来て、いろいろと手伝ってくれたおかげで、予定よりも余裕をもって午前の分を焼き終えることができたから、ビラ配りでもしようか~なんてリリアたちと話しながらと売り場に行ったら、窓の外に見えた分厚い人垣!
綺麗な二度見を披露したあとに、目を擦ってさらに三度見してみたけれど――消えない。人! 人! 人! えっ!? 嘘! これ現実なの!?
それで、リリアとマックスと一緒に、呆然と立ち尽くしてしまったわけ。
「あ、アレンさん~~~~っ!」
「アレンのお兄ちゃんーっ!」
「アレンの兄ちゃんーっ!」
私とリリア、マックスが同時に声を上げて助けを求めると、奥からアレンさんがすっ飛んでくる。続いて、アニーも。
「ティア!? みんな、どうしまし……はっ!?」
「え、ええっ!?」
アレンさんとアニーもまた、窓の外を見て驚愕する。
窓の向こうでわさわさ動くたくさんの人の頭。ちょっとしたホラーだ。
「も、ものすごいことになってる……」
「ねぇ、これ、全部お客さんなの……?」
「た、多分……?」
「広場のパン配り、し過ぎちゃった……? こ、こんなにお客さんが来るなんて……」
「お、お嬢さま、これ……パン足りるのか?」
思わず、全員が顔を見合わせる。
いや、めちゃくちゃたくさん焼いてるのよ? オープン日って多くの人が来てくれるものだもの。そのときに売り場がスカスカしてたら、人気がないみたいでカッコ悪いし、嫌だから、思い切ってかなり強気な数を焼いてるの。間違いなく余っちゃうけど、売れ残りは孤児院に寄付すればいいし、無駄にはならないからって。
それでも、これは……。
「ティア、今からパンを追加することは可能ですか?」
「お昼とお昼過ぎに焼く分以上にってことですか? それは無理です……」
私のパンは天然酵母を使っている。
天然酵母には、元種作りという作業があるの。
簡単に説明すると、酵母液に小麦粉を混ぜて何時間も放置して倍の量に膨らませるっていうのを三日間続けてやって、発酵力を最大限高めたもの。
それを使ってパン生地を作り、それをさらに一次発酵させて、成形して、二次発酵させてと――それだけの手間と時間をかけてようやくできあがるの。
「元種はありますが、一次発酵が間に合いません」
一次発酵は――これはパンの種類によっても違うけれど、だいたい六時間から七時間はかかる。今から仕込んだとして、閉店時間に間に合うかどうかってところだ。
「問題はそれだけじゃありませんね」
「はい、あの人数がお店になだれ込んだらトラブルは避けられません」
私のお店は小さい。だって、もともと一人でやる予定だったんだもの。五人も入ればいっぱいだ。
五名ずつ入店してくださいって誘導するにも、人が足りない。
そもそも、五名ずつ捌いていたら、すべて捌き切るのにどれだけがかかるか。
どうしよう……!




