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私は立ち上がって、戸棚からはちみつの瓶を取り出した。
「ここに取り出したるは、はちみつ。イフリート、これは知ってるんじゃない? 子供たちがよくホットミルクに入れて飲んでるでしょう?」
「知ってるぞ! 甘くて美味しいんだろ?」
イフリートがぱぁっと顔を輝かせて、元気よく尻尾を振る。
「そう。これをバターというしょっぱいものを塗ったトーストにたっぷりとかけて……あぁっ!」
そこまで言って、私は重大なことに気づいて悲鳴を上げた。
「な、なんだよ?」
「そうだ! 忘れてた! 石釜オーブンにばかり気を取られてて、トースターの開発してない!」
ああ! 私の馬鹿っ! 食パンを売り出す以上、それは必須でしょうよ!
「な、なんだ? じゃあ、その『アマジョッパイ』は作れないのか?」
頭を抱える私に、イフリートが心配そうに言う。
「いや、作れるよ。フライパンで作れるんだけど……」
「じゃあ、いいじゃないか。なにが問題なんだ?」
いや、今から作るハニートーストにかんしてはなにも問題ないよ。フライパンで作るトーストは美味しいし、現在絶賛ニートしてる私は、ずっとそれでもいい。
でも、日々忙しいお母さんたちに、毎朝フライパンでトーストを作らせるなんてありえない! 新しいパンを売り出したせいで、お母さんたちの仕事が増えちゃうなんて絶対にダメよ!
「次の家族孝行が決まったわね」
パン屋のオープンまでに、アシェンフォード公爵家の財力とコネをフルに使ってなにがなんでもトースターを開発・商品化してくれなきゃ、あと十年は家に帰ってあげないから! って脅し……いえ、お願いしよう。きっと喜んで(そしてありとあらゆる無茶をして)やり遂げてくれるはず!
そうと決まれば、気を取り直して調理開始!
スライスした食パンをさらに四等分して、熱したフライパンに並べて、水分を逃がさないように中火でサッと焼く。フライ返しで軽く押さえて、均一な焼き色をつける。
片面が焼けたら、一切れだけお皿に出して、残りの三切れは裏返してバターを乗せて蓋をして、バターが溶けるまでしばらく待つ。間違えないでね? バターはフライパンに落とすんじゃなくて食パンのすでに焼いた面に乗せるのよ。バターは焦げやすいからね。
バターが溶けて、裏面もお好みの焼き色が付いたら完成!
その三切れも、それぞれ別のお皿に乗せる。
そのうち二切れと、先にフライパンから取り出したバターを染み込ませていない一切れに甘~いはちみつをたっぷりとかける。
そしてイフリートの前に、バターだけのバタートースト、はちみつだけかけたハニートースト、バターを染み込ませてはちみつをかけたハニーバタートーストをそれぞれ並べた。
ハニーバタートーストの残りの一切れはどうするのかって? それはもちろんアレンさん用よ。
「お待たせ。さぁ、イフリート。まずははちみつがかかってないもの食べてみて」
イフリートが頷いて、両手――いえ、両の前足で器用にバタートーストを持って、口に運ぶ。
「うん、うみゃいぞ。バターってヤツはさっきの塩に近い味だな。ただこっちはカーってしないし、うみゃい」
「それはよかった。じゃあ、次はこれ」
ハニーバタートーストを示すと、それも間髪入れずパクリ。
瞬間、イフリートは金色の目を大きく見開いた。
「うみゃあぁぁぁっ!」
興奮した様子で足をバタバタさせて、もふもふの尻尾もぶんぶん振る。――ふふ、可愛い。
「はちみつって甘いな! うみゃい! うみゃい!」
「ああ、これは美味しいですね。はちみつとバターの相性がなんとも」
アレンさんもうんうんと頷く。お気に召したようでなによりです。
「じゃあ、最後はこれね」
最後に、バターはなし、はちみつだけのハニートーストを試してもらう。
期待に目をキラキラさせながらそれを食べて――イフリートは「あれっ?」と首を傾げた。
「これも甘くてうみゃい……けど……二番目のバターが入ってるほうがうみゃかった。なんでだ? 甘いのもうまいけど、甘いだけじゃなくてしょっぱい味がするのもすごくうみゃいぞ!」
「そう、それが甘じょっぱい!」
「アマジョッパイ!」




