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第19話






■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 清水 冬華






「……」


 防御用のマントごと左腕を綺麗に切られた衝撃に驚きながらも、何とか距離を取ることに成功する。

 まるで紙を斬るように抵抗無く切られたために伝わってくる衝撃も最小限のものだった。

 ここまでの一撃は、夏美以外に受けたことがない。

 相手は余裕があるのか、刀を構えたまま様子見をしている。


「……これは厳しい」


 そもそもダーインスレイヴは、両手で大剣を扱うように設計されている。

 片手でも扱えるのは二刀流を前提としていたり、防御面を考えた結果だ。

 その防御が抜かれ、片手になった時点でどうしようもない。


 ―――ここで負ける?


 ふと過る想いに頭を振る。

 弱気になってはダメだ。

 いつもそうして諦めてきたからこそ、私は未だにこうしてしっかり向き合えていないのだから。

 だからこそ。


「ここで、負ける訳にはいかない」


 片手で持つ大剣を地面に突き刺す。

 隙だらけの行為だが、相手は何をするのか待ってくれている。

 なので遠慮なく準備を行う。

 本来なら二刀流の際に使うショートソードを抜くと大剣の前に突き出す。

 するとプログラムが走って大剣の横に差し込み口が出てくる。

 そこにショートソードを差し込む。

 そして大剣を再び構えた。

 大剣は、少しだけその形状を変化させると刀身が赤みを帯びる。


「へぇ、面白いカラクリやねぇ」


 相手から通信が入る。


「……待って頂きありがとうございます」


「ええよ、ええよ。ウチも何をするのか興味あったし」


 それ以上の会話は不要だとばかりに、お互いそれ以上の会話はなかった。

 ただジリジリと間合いをはかる。


 恐らくまたあの連撃が来るだろう。

 最初の4連撃は、あくまでこちらの動きを誘導するためのもの。

 それで決まればいいし、決まらなくても問題ない。

 本命は最後の一撃。

 あの神速の一刀。

 そこにこそ逆転の活路が存在する。

 あれを正面から堂々と破る以外に方法はない。


 大剣を正面に構える。

 まずは連撃から。

 それを全て捌き切ったのち、本命に対して一撃にて対抗する。

 そのために私自身も動きを誘導されているように見せかけて逆に誘導し返さなければならない。

 非常に難易度が高い話。


 でも。

 それでも。


「私は―――もう、逃げない」






■side:兵庫姫路国際女子高等学校 1年 草薙(くさなぎ) 神楽(かぐら)






 VR装置の中で精神統一をする。


「おもろいやあらへんの」


 思わず口から言葉零れる。

 凡人て聞いて、アレの姉妹て聞いて、準備運動のつもりやった。

 でもまさかここまでとは思うてへんかった。

 まさか必殺の一撃で腕1本とは……。


「しかも全然心折れてへん」


 何やら武装を強化するようなカラクリを披露したか思たら、片腕で大剣を構える。

 そもそも左右非対称な腕に片手1本で振る大剣やら、おもろい要素が多い。


「ほんで何よりも」


 そう、何よりここまで純粋な近接戦闘やら久々やった。

 それだけでも今回参加した意味があった言えるほどに。

 やけど、そやさかいこそ。


「悪いけど勝つのんはうちや」






■side:東京都立文化高校 1年 玉木(たまき) 志乃(しの)






「まあ、暇つぶしにはなってるか」


 お菓子を食べながら目の前の試合を見ている。

 元々は『姫路のお姫様』と一部で言われてる実力があるのに出てこないニート選手の情報を確認するために見ていた。

 というか監督の一声で見るハメになったというべきか。

 それなりに強いという話は聞いていたが、私からすればちょっと動きが良いだけの雑魚だ。

 対戦相手など更に輪をかけた雑魚。

 これがあの「天才」の妹だというのだから、やはり噂通りの凡人なのだろう。


「あー、むかつく」


 どうして私はこんな地味なことをさせられているのに、天才様は普段通りの練習なのか。

 確かに3度勝負して全て負けた。

 しかし次こそは私が勝つ。

 そのための準備もしてきたのに、それをするより前にこれである。

 扱いが悪いとしか言いようがない。


「……めんどくさ」


 もう飲み物が無くなっている。

 本来なら試合全て見てなければならないが、こんなどうでもいい試合など放置だ。

 それより優先すべきは飲み物である。

 何もかも面倒だと思いながら席を立つ。





 


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