第17話
■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 清水 冬華
全国大会は順調に進んだ。
1回戦・2回戦と順調に勝ち進み、そのまま準決勝ぐらいまでは行けるのでは?という空気にもなっていた。
それが良くなかったのだろうか。
それともこれが全国大会に潜む魔物と呼ばれる噂の番狂わせなのか。
兵庫代表:姫路国際女子高等学校
3回戦目の相手は全国大会初出場。
特にマークされるような所でもなかったはず。
しかしそれは起きた。
市街地戦マップ。
鹿島先輩が操るストームトルーパーに押し込まれそうになった相手によるミサイルの飽和攻撃。
狙いが滅茶苦茶ではあるものの、かなりの数のミサイル。
流石の先輩もその攻撃にマシンガンで応戦しつつも後ろに下がる。
何の問題も無い対処の仕方だ。
だが、ここで魔物が牙を剝く。
左右のビルに当たったミサイル。
それによって壊れたビルから飛び出してきた大きな鉄骨が、トラップのように飛び出してきたのだ。
まるで物理的なミサイルのように左右から飛び出してきた鉄骨が、吸い込まれるようにストームトルーパーを狙う。
咄嗟に回避行動を取った先輩だが、左右からの攻撃に加えてビル群の中ということもあって機動力を生かしきれずに数発が命中。
更に悪いことに命中したのが脚部だというのだから絶望的だ。
ホバーどころかその場から動けなくなってしまった所を相手に狙われる。
先輩も最後のあがきと撃ちまくったが、相手は冷静に倒れかけのビルを攻撃して倒壊させた。
それによってストームトルーパーは倒壊に巻き込まれて撃破判定となってしまう。
あまりにも運の無い展開に、先輩が悔しさを爆発させて叫ぶも、誰も声をかけられない。
ただ早乙女さんだけは、淡々と次の試合に向けてVR装置に入っていった。
■side:兵庫姫路国際女子高等学校 3年 大国 友子
璃々の奴が先制勝利を決めた。
運によるところも大きいが、あのストームトルーパーを撃破出来たのは大金星だ。
この流れに乗って次も勝つ。
VR装置が起動して戦場に飛び出す。
マップは、巨大な屋内施設。
高低差が使いにくい場所ではあるが、大きい施設故にそこまで速度が死ぬ訳ではない。
確か相手は重量級のタンクだったはず。
なら私の高機動型第3世代機相手には旋回速度で追いつけないだろう。
屋内だろうが水平移動を駆使して背後を取れば火力差など、どうとでもなる。
―――試合開始
アナウンスが鳴り響いた瞬間に移動を開始する。
まずは相手がどこに居るかだが……。
とりあえず先手を取りたい私は、相手を探す。
「は?」
慎重に捜索していた時だった。
レーダーに表示されるのは、真正面から飛び込んでくる相手の表示。
でも明らかに早すぎる。
まだミサイルが飛んできていると表現した方が良いだろう。
まさかミサイル系のデコイ?
それともレーダーを誤認させるような長距離兵器?
相手がタンクである以上、高機動を超える速度なんてあり得ないと考えていたのが悪かった。
念のためにとライフルを構えて相手が来る方向を見つめる。
すると爆音と共に相手が現れた。
「―――何、アレ」
確かに相手はタンクだった。
しかし背中に自身を超えるサイズの超特大の外付けブースターを搭載しており、文字通りミサイルを超える速度で飛んでいた。
あまりの姿と速さに驚いた私は、咄嗟に構えていたライフルで迎撃しようとしてしまう。
……後で思えば、そんなことは不可能だったはずなのに。
相手は左に大型シールドを構えており、ほとんどの攻撃をそれで受け止めながら突っ込んでくる。
そして右には巨大なランス。
次に撃ち込んだミサイルもダメージを受けている様子が無い状況に、ようやく逃げなければという気持ちになる。
だがそれは既に遅い。
逃げようにも相手の突撃の方が圧倒的に速すぎて、私は何も出来ずに突撃されてコックピットをランスによって貫かれた。
試合時間、僅か3分。
その衝撃的な展開に観客たちですら騒めいていたほどだ。
試合終了後、VR装置が切れて現実に戻ってきた私だが放心状態で動けなかった。
今何が起こったのかを脳内で処理しきれなかったのだろう。
しばらく茫然としていると、声が聞こえてきた。
「はぁ、うちの出番はあらへんって話どしたけど?」
めんどくさそうな声の京都弁がベンチに響く。
「まさか3回戦目でなんて思いもしいひんかったわ」
彼女には私たちの切り札として入って貰った3人目だ。
本来なら2戦目に出て欲しかったのだが、交渉の末に3番目ならということに。
そして極力出番が無いようにするという話もされていた。
そうまでしても出てくれと頼み込んだのは、彼女の強さ故だ。
彼女は今、BattleDollsの天才と呼ばれる清水 夏美を倒せる可能性がある1人として名前が上がるほどの選手である。
ただあまりやる気が無いのか、練習にも公式戦にもあまり出てこない。
そんな彼女を引っ張り出したのだ。
絶対に優勝するために。
だから何を言われても我慢だ。
「まあ腕落ちひんための練習とでも思て出たるわ」
そう言いながら寝そべっていたソファーから立ち上がると、制服の上から着物を軽く羽織りながらVR装置の中へと入っていく。
■side:兵庫姫路国際女子高等学校 1年 草薙 神楽
VR装置の中で精神統一をする。
思い出すのんは、去年のとある大会。
己の技を全て出し尽くしたけど、その全てが届かへんかった。
ずっと天才や言われ続け、何しても優秀やった。
京都の家が煩過ぎて一時的に距離を取ってはいるものの、当主としての教育も完璧や言われてる。
一子相伝の草薙流剣術も今年免許皆伝で、その技をBattleDollsで再現することも出来た。
そないな意味ではうちは歴代でも最高の当主になる言われ続けとった。
そやけど、それもあの戦いで終わった。
清水 夏美。
あの女の槍の前に屈してもうた。
うちの剣が届かへんかったねん。
やさかい
「今年は3番目なんやろ?」
やさかいこそ
「今年こそは必ずその首貰い受けるで」
刃物のように神経を研ぎ澄ましながら機体を出撃させる。
うちの機体は第3世代機の接近向け機体や。
それ各関節やらの稼働部位を中心にトコトン改造した専用機。
草薙流を完全に再現するために必要な機体でもある。
武装は、大き目の刀を1本手に持ち、腰にもう1本と短刀が1本だけ。
遠距離攻撃武器なんて無粋なものは使わへん。
―――そういうたら
ふと、思い出したことある。
やさかい試合開始のアナウンスと共に相手の前に堂々と姿を見した。
堂々と出てきたことに驚く相手に対して通信を入れる。
「アンタ、確か清水 夏美の双子の妹なんやってね?」
「そ、そうですけど……アナタは?」
「こら申し訳あらへん。うちは草薙 神楽。今年こそアンタのおねえを潰す相手や」
「―――確か、去年の」
「そう。そやさかいまあ、こら半分八つ当たりや思てくれてええわぁ」
そう言いながら巨大な日本刀を構える。
「妹を無残にやられたら、どないな顔するやろうな」
*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。




