第16話
■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 清水 冬華
全国高校生Battle Dolls大会 女子の部。
野球で言えば甲子園みたいなものだ。
仮想現実全盛期にわざわざ現地集合なんて面倒臭い話ではある。
しかしまあ色々あってそうなったらしい。
どこまで技術が進歩しても最終的にはアナログであるということか。
目の前で行われている箱に手を突っ込み、ペーパーで出来たクジを引くという超アナログな光景を見つめながら呟く。
そんな中で、我らがお嬢様が引いた場所は大当たり。
今回、強豪校のほとんどが片側に集まった地獄のトーナメントで逆側を引くことに成功。
多少は気になる名前が無い訳ではないが、これ以上という可能性もないという位置。
流石は、持っている人間。
そういう運も引き寄せるのかなんてことを考えていたら、会場がざわめきだした。
「―――夏美」
久しぶりに見たのは、BattleDollsの天才プレイヤー。
既に全国大会優勝は当たり前で、世界大会での優勝を望まれている。
この大会では誰もが倒すべき相手と認識している人物。
―――そして、私の半身とも言うべき存在
その堂々とした姿が、周囲に敬意と畏怖をばらまく。
クジによって一番の激戦区を引き当てたにもかかわらず、本人ではなくその周囲を引いてしまった代表達が顔を顰める。
その姿に憧れた。
その姿に嫉妬した。
その姿に絶望した。
胸が苦しかった。
逃げ出したかった。
でも、それは出来ない。
そうしないと決めたのは、何よりも自分じゃないか。
そんなときだった。
―――ふと、視線がこちらを捉えた気がした
ほんの一瞬の出来事。
気のせいだと思えるほどの刹那。
でも。
「確かに今、こっちを見た」
これでも長年彼女と双子として一緒だったのだ。
この感覚を間違えたことは一度もない。
■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 緒方 鈴
全国大会ともなると流石に注目度が違う。
人も多いし、マスコミも大勢いる。
噂によるとスカウトマンまで居るらしい。
まあ私には縁の無い話だけど。
自分を変えたくて入部した部がいきなりの全国大会。
流石に環境変化が目まぐるしい。
何より素人である私がプロの指導を受けるなんて夢でしかない。
そうして私は夢に挑戦して、そして早くも限界を感じていたりする。
誰も何も言わないが、どうしても言われた課題がクリア出来ない。
何度やっても無理で、他の人が出来たことを3倍、4倍の時間をかけて出来るかどうかだ。
そこでスグに理解した。
私には才能が無いのだと。
それでも諦めきれなくて、縋りつくように練習を続ける。
一緒に始めた四葉ちゃんの方が圧倒的に上手いとしても。
まだ始めたばかりだと、経験値が少ないだけだと自分に言い訳して。
そんな私は、最近ではエンジニアの存在を知ってそちらの勉強も始めた。
少しでもこの世界に居たいという気持ちで、早くも保険をかけ始めているのだ。
それぐらいに自分がダメなことを自身が理解しているというのに……。
こんな情けない私でも。
他人に連れてきて貰った全国大会だけど。
熱狂的に応援する大勢の人々の声を受け、ベンチ入りする。
たとえ保険であってもメンバーとして参加する。
憧れの舞台に足を踏み込む。
今はただこの感覚を心から愉しみたい。
「これより京都代表、私立華聖女学院高等学校と―――」
審判の声と共にVR装置が起動する。
鹿島先輩の機体が開始位置に立つと数秒もせずにカウントが開始され―――
―――私たちの全国大会が始まった
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