第14話
*いろいろとありまして、本作の更新を一時的に中止します。
読んで下さったファンの方々には申し訳なく思っております。
完全に停止するのではなく優先順位的に下がってしまっただけで再会予定ではあります。
ただ修正したい箇所が多いため、完全にリメイクすることになるのでかなり更新が遅れると思って頂けると幸いです。
大迫力の接近戦。
技量と技量のぶつかり合いに会場の熱気は凄まじいものになっていた。
双方を応援する声。
その中でも一部詳しい人間は、あまりにも異様な試合に不安そうな声を上げていた。
実際、京都府立田神高校サイドでは吉田がVR装置のドアを叩き、泉が大会関係者と話をしていた。
パイロットの意識が無いならともかく、意識があれば外部からのアクセスを遮断するなど簡単なことだ。
勝利しか見えていない藤崎からすれば、今更リタイアなどあり得ない。
BCSというのは確かに初心者だろうが一瞬でベテランクラスの動きに追い付くこと出来る技術である。
特に手動では操作不可能な操作を平然と行うことが出来る。
しかし全てを脳で処理する関係で負担が大きすぎるのだ。
だからこそ『1分制限』というリミッターがついている。
これはあくまでメーカー側が『1分までは保証するがそれ以上は責任を負えない』というものであり、リミッター自体を外すことが違法という訳ではない。
だが現実問題として1分を超える使用は、よほど装置との相性が良くなければ強烈な頭痛や吐き気、全身の倦怠感や激痛など下手をすれば命の危険すらある。
なので賛否両論存在し、メーカーとしてもリミッターで制限することで批判を避けている形だ。
―――つまり
■side:京都府立田神高校 1年 藤崎 美潮
身体中が痛い。
頭なんてもう感覚がおかしくなるほど痛い。
それでも私は負ける訳にはいかない。
試合を放棄することなど出来ない。
もうどれだけの時間が経ったかなんて解らないけど、少しづつ相手を追い込んでいることだけは解る。
本当ならもっと早く決着がついたはずだった。
なのに相手はずっと粘り続けている。
「はぁ、はぁ、はぁ。……何で。どうして。アナタは天才の方じゃないでしょ!凡人なんでしょ!なんで粘るのよ!なんで粘れるのよ!」
私は思ったことを叫び続ける。
「アナタ達には来年があるでしょ!先輩達には今年しかないの!今回が最後なの!勝たせてくれたって良いじゃない!勝たせてよ!負けてよ!倒れてよ!……いい加減倒れろよっ!!」
右腕を失ったことは非常に痛かったが、それでも3腕で相手を圧倒する。
……圧倒しているはずなのに、どうしてこうも倒せない。
何で?どうして?
「邪魔しないでよ!……クソッ、いい加減にしろよっ!!」
常に鳴り響く警報音なんてとっくに気にならなくなっている。
身体ステータスが表示されて鬱陶しいので非表示に変更した。
BCSのせいで、痛みのせいで何も考えられなくなってくる。
それでも私は、勝つんだ。
倒れろ!痛い!勝たせて!苦しい!負けてよ!吐き気がする!お願いだから……勝たせてよッ!!!
■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 清水 冬華
「はぁ、はぁ、はぁ」
一瞬でも気を抜けば終わってしまう攻防が既に5分ほど続いていた。
流石にエネルギー的にも損傷的にも勝負を決めなければならなくなっている。
しかし相手はBCSのリミッターを切っていて暴走状態のようなもの。
今頃あり得ないほどの苦痛を伴っているはずなのだが、それを感じさせない攻めを見せていた。
「……勝ちたいよね。報われて欲しいよね。解るよ、その気持ち」
かつて挫折していた頃。
相手の『勝ちたい』という想いにまで負けて勝ちを譲ってしまっていた。
だからこそ理解出来る。
今、相手がどれほど勝利を渇望しているかということが。
「だからこそ、私はきっと―――逃げちゃいけない」
相手が連撃の構えを取ったのを見て、私は初めて攻撃の構えを見せた。
『清水 冬華』
彼女のことを誰もが……そう、本人すら誤解している。
確かに彼女は凡人かもしれない。
姉が10覚える間に1~2しか覚えられないのだから。
しかしそれは『天才と凡人を比べた結果』である。
それを誰もが忘れていた。
誰しも圧倒的天才と比べれば凡人であり、パッとしないのは当たり前の話だ。
仲の良かった双子の姉妹は、ずっと一緒だった。
だから誰もが姉妹を見比べた。
だがもし、見比べることなく清水冬華だけを見たらどうだったのか?
彼女は姉を見返したくてBattle Dollsをやってきた。
それはつまりずっと天才である姉を相手にしてきたということ。
暇さえあれば2人で戦い、何度も何度も負け続けても諦めずに勝利を模索し続けてきた少女。
単純な技術で勝てないならと内部プログラムや武装構成に機体性能など少しでも自分に優位になるようにと全ての時間を研究に注ぎ込んできた。
完全に心が折れるまでの間、ずっとそうしてきた少女が……果たして凡人でありパッとしないのか?
少女を知る周囲も心が折れて誰と戦っても負け続けた少女だけを見て、天才と凡人などと言いだしたのではないのか?
そうでなければ未だ3腕を使い、まるで人間のようにヌルヌルと動きながら連続攻撃をしてくる相手と戦い続けられる訳がない。
天才と呼ばれた姉は、巨大な槍を使用する。
その圧倒的威力と神速と呼ばれる速度による連撃は、ただの攻撃にもかかわらず『ライトニングスピア』などと呼ばれている。
何故ならそれを防ぎ切った相手が居ないからだ。
とあるテレビの企画でプロと対決をした際も、この連撃をプロは防ぎ切ることが出来ず敗北している。
では、これを何度も何度も受け続けた……戦い続けた妹は、本当にこれを防ぎ切れなかったのだろうか?
例え凡人だろうが天才と何度も何度も、それこそ嫌になるほど戦い続けても成長しないのだろうか?
―――答えは、否である。
ライトニングスピアと呼ばれる超高速の連続攻撃を受け続けたからこそ、BCSによる連続攻撃にここまで対応しきれている。
機体特性を調べ尽くして、長所と短所を戦いに利用出来ないかと知識を蓄え続けたからこそ『ツインマスター』の動きを見切れているのだ。
各種部品の可動域、そしてある程度出てしまうソフト制御の癖にBCS制御の欠点を的確に知っている。
自身の相棒の動きや癖、どこまでやれるのかという限界を知っている。
何より天才と呼ばれ何をするのか解らない双子の姉をずっと観察し続けてきた『観察眼』とその場で対処してきた『判断力』により初めて見る動きにも対応出来ている。
そう、結局は姉妹2人だけがひたすら練習をしていた風景を誰も見ていないが故に。
周囲の人間が見たのは、天才である姉と強制的に見比べられた妹。
そして既に心が折れていた妹の姿だけだった。
だからこそ周囲は『天才の姉と凡人の妹』などと評したのだ。
確かに『清水冬華』は天才ではないかもしれない。
しかしどこにでもいる凡人では決して無いのだ。
本当に彼女が凡人であるのなら、もっと早く心が折れていただろう。
姉を相手に勝ち目のない試合を何百・何千と負け続けても勝利することを諦めず、技術だけでなく知識まで手を出すはずがない。
何より、またこうして再び天才に挑もうと立ち上がるはずなど無いのだから。
■side:京都府立田神高校 1年 藤崎 美潮
相手が初めて見せた攻撃の姿勢に思わず舌打ちをする。
やっと終わる気になったのかと。
確かにそろそろエネルギーなども危ない。
何度も何度も衝突する関係で機体の各種も異常を示し始めていた。
「―――これで終わりにしてやる」
ジリジリと距離を詰めて……そして一気に飛びかかった。
その瞬間、相手側のあの硬かったマント型の盾がヒラリと宙を舞う。
やっと潰れてくれたかと歓喜しつつも、あくまで冷静に仕留めにかかる。
相手の右腕にある忌々しい大きなロングソードが迫るも、それを左腕と左背中の2本腕のソードで挟み込むように止める。
かなりの衝撃が入るも、何とか勢いを殺して止めることに成功した。
こうなればあとは簡単。
右腕は無いが右背中からの腕はある。
なので右背中の腕が持つソードを相手コックピットに向けて突き―――
金属の甲高い音と低い音が同時に鳴り響く。
そして僅かな振動と共に動かなくなる機体。
一体何が―――
「―――えっ?」
モニターには自身のコックピットに深々と刺さるショートソード。
私にはそれが理解出来なかった。
それもそのはず。
清水冬華のソードナイトは、右腕でロングソードを振り回せるように改造されており、左腕の方はマント型の盾に覆われている。
しかしそれは左腕が無い訳でも使えない訳でもない。
単純にマントによって使用不能になっているだけなのだ。
そのマントが無くなれば普通に可動するし、武器を持って戦うことだってできる。
腰にあるショートソードを装備すれば二刀流だって可能なのだ。
藤崎美潮は、それを忘れていた。
自身の機体が最大四刀持てるということを棚に上げて。
ずっと相手がロングソード1本だけで戦うからと。
本来ならマントが宙を舞った時点で、気づくべきだった。
マントは破壊出来たのではなく、パージされただけだったことに。
左腕に握られたショートソードが自身の機体を貫くまで、その可能性に気づくことはなかった。
そしてゲームは無常にも終了する。
彼女の前に大きく『敗北』という文字を突きつける形で。
「―――ふふっ、ふふっ、アハハハハハッ!!」
負けたということが理解出来ないのか、それとも理解したくないため拒絶しているのか。
ひたすら笑い始める。
そしてシステムが終了し、外への扉のロックが外れた。
するとスグにドアが開き、心配した吉田と泉がやってくる。
2人を見た瞬間、藤沢は負けたことを意識してしまう。
「―――あ、ああ、あああっ!!嫌ッ!!何でぇッ!?ごめんなさいッ!!ヤダヤダヤダッ!!!」
涙をボロボロと流しながら頭を抱えて錯乱する少女に2人は必死に抱きしめて止めようとするも、予想外に暴れる藤崎を止めきれない。
BCSの長時間使用という異常行為のために待機していた救急隊員が入ってきて彼女を強制的にストレッチャーに乗せつつ安全のために拘束する。
そして彼女は病院へと搬送されていった。
…………………
……………
………
その後、大会では表彰式が行われるも準優勝校の不在のため盛り上がりに欠けてしまう結果となった。
しかしそれでも優勝したことで早乙女は何とかなったとため息を吐き、鹿島は早くも全国へと想いをはせる。
純粋に喜んで飛び跳ねていたのは四葉と鈴だけだった。
京都私立華聖女学院高等学校による創設したてのBattle Dolls部による全国大会出場。
その話題は全国の強豪校の耳にも入り、中でも清水冬華の名は警戒されるに十分だったのだが……
一方その頃。
双子の姉であり強豪校に進学した清水夏美は監督に予想外の提案をしていた。
「……どうしてまた3番手が良いんだ?」
「私だけが強くて勝利するのでは意味がありません。なので他にチャンスを与えて育てるというのも良いのではと思いまして。……まさか私が3番手になったらストレート負けするほど弱い部ではないでしょう?」
「―――アッハッハッハッ!言うじゃないかっ!!」
パンパンと手を叩いて部員の注目を集めた監督は、獰猛な笑みを浮かべて話をする。
「清水の奴がお前らにチャンスをやるってよ。悔しかったら清水の出番が来ないぐらい連勝しまくってやれッ!!」
「はいっ!!!」
流石は全国大会常連の強豪校である。
どの部員もギラギラとした目で返事をしていた。
誰もが『チャンスを与えたことを後悔させてやる』といった感じだ。
天才と呼ばれ今年の全国大会の目玉だと思われていた清水夏美が、まさかの3番手。
どこからともなく流れてきたこの噂に、全国では大騒ぎとなり早々に清水冬華の話題など掻き消されてしまった。
強豪校の驕りであると苛立つ者も居れば、逆にその隙を突いて勝利を目指す者。
そして何より戦えるかも解らないのに自ら3番手に名乗りを上げる者。
噂の天才が投げた話題は、大きな変化を呼ぶことになる。
それがどういう影響を与えることになるのか、当然ならがこの時点では誰も解らなかった。
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■あとがき
ようやくBattle Dollsの序盤というか、世界観とか面白い所とかを何となく出せたんじゃないかなという感じでしょうか。
これから全国編に移行し、冬華達はどうなるのか?
そして夏美との対決はあるのか?
といった所です。
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