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第13話






■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 清水 冬華






 観客席から大歓声が聞こえてくる。

 それもそのはず。

 Battle Dollsでは黎明期にこそあったものの、近年では接近戦というものが減っている。

 まあそれは仕方がない話だ。

 機動力がそこまでない状況で銃火器があればみんなそれを使う。

 剣や槍が届く距離まで接近するリスクを考えれば遠距離から大火力でというのは一般的な話だ。

 だからこそ接近主体の機体は少ない。

 それ故に接近戦を得意とした機体で勝利を重ねる者ほど英雄視されがちだ。

 そんな滅多に起きない接近戦が、今目の前で行われている。

 しかもどちらも接近戦を得意とした機体同士。

 これで盛り上がらない訳がない。


 相手はロングソードの二刀流。

 本来二刀というのはどちらかと言えば防御寄りの武装だ。

 機械の腕だから半分微妙ではあるが、普通なら両手で武器を持って振った方が威力も速度もある。

 例え機械の腕でも片腕よりも両腕の方が出力的にも上だろう。

 ならば何故に二刀かと言えば片方で相手の攻撃を防ぎ、もう片方でその隙を狙ってカウンターを放つということが出来るからだ。

 どちらでも防御と攻撃を両立出来るが故に二刀流は攻撃的でありつつ実は防御寄りという側面がある。

 しかし先ほども言ったが機械の腕ならどうだろうか。

 それはもちろん、多少の威力低下などはあるかもしれないが多少である。

 片手でも十分威力が出せるのは自分自身の機体でも証明済みなのだから。

 故に相手の二刀流は本来の防御ではなく―――


 左右から激しく襲い掛かってくるロングソードの連撃にこちらのロングソードを合わせ、時にはバーニアと姿勢制御で回避する。

 既に試合開始から5分が経過しようとしている。

 にもかかわらず最初から全力で連続攻撃を繰り出している相手は、未だその速度と手数を緩める気配がない。


「―――凄い」


 思わずそう呟く。

 簡単に二刀流と言うことは出来るが、それを操作するとなると相当な技量を必要とする。

 多少は自動の姿勢制御に頼れるとは言っても二刀を振り回す関係でバランスを保つのは難しい。

 何より攻撃後の隙を見せることなく次の攻撃へと流れるように動くその技術は、血の滲むような努力の後を感じる。


「恐らく勝負は……一瞬」


 こちらも一切気が抜けない。

 何より防御に徹し続けても勝利は来ないのだ。

 だから反撃のチャンスを待つ。






■side:京都府立田神高校 1年 藤崎 美潮






 なんで。

 どうして。


 そんな気持ちが何度も過ぎる。

 もう5分近くもラッシュをかけているというのに相手の守りを一向に崩せない。

 下手に相手に何かをさせる訳にはいかないと開幕から一気に勝負を決めにいった。


 ―――天才の姉と凡人の妹


 私も聞いたことがあった。

 Battle Dollsで現在最強の呼び声高い『清水夏美』という人が居ること。

 そして彼女には双子の妹が居るということを。


 私は先輩達の足を引っ張る訳にはいかないと、それこそ全ての時間をBattle Dollsに注ぎ込んできた。

 何度も投げ出したくなるような気持ちになっても、それでも先輩達を思い出して努力し続けた。

 もし天才相手なら私がいくら努力したって勝てないだろう。

 でも、でももし相手が同じ凡人なら?

 同じフィールドに居る相手なら私にだって勝てる可能性ぐらいあるよね?


 だからこその開幕ラッシュ。

 初手から自分の全てを注ぎ込んで、僅かな勝利を引き寄せる。

 ―――そのはずだった。


「……何でよ。どうしてよっ!!」


 思わず叫ぶ。

 あの苦しみ抜いた練習の日々は何だったのか。

 同じ凡人にすら通じないのか。


「うあぁぁぁぁっ!!!」


 苛立ちから両手で一気に二刀を振り下ろす。


「―――えっ?」


 渾身の一撃は、相手のマントのような盾に傷を入れた。

 だが同時に二刀は弾かれ両手とも上に大きく跳ね上がる。

 その瞬間。

 鈍い色のような光が閃いたかと思えば、機体に大きな振動が走る。


 鳴り響く警報音。

 そして機体データが空中に浮かぶ。


『右腕大破』


 地面に何か大きなものが落ちた音が響く。

 カメラを向けると、それは自機の右腕だった。

 思わず機体を2~3歩ほど下げる。


 ―――負ける


 嫌な言葉が頭を過ぎる。


 冗談じゃない。

 ここで勝てば先輩達の悲願が達成されるのだ。

 あと1勝。

 私が勝たなければならない。

 何のために努力をしてきたと思ってるんだ。

 どうして私達の邪魔をする。

 もうちょっとじゃない。


 不安だけが広がる中、とあるボタンが目に入る。

 先輩達には内緒で付けたもの。

 出来れば使いたくはなかったもの。


 ―――でも


「私は、負ける訳にはいかないのよぉぉぉぉっ!!!」


 叩きつけるように、ボタンを押した。






■side:京都私立華聖女学院高等学校 1年 清水 冬華






「……ふぅ」


 ようやく一息つけた。

 相手の攻撃を盾でもあるマントで強引に防ぎ、その一瞬出来た隙を突いてロングソードによる一撃で相手の右腕を切り飛ばした。

 これでもうラッシュ攻撃は出来ない。

 精神力も切れる頃だろうし、あとは堅実に攻めるだけだ。


 相手がヨロヨロと2~3歩下がったのを見て、気持ちを切り替える。

 強引な防御でマントの耐久値はほとんどない。

 ここからはこちらが攻める番になる。

 そう思った瞬間だった。


 突然相手の機体の頭部カメラが緑色から赤色に変化したかと思ったら―――


「―――やけに大きなバックパックだと思ったら」


 思わず呟く。

 相手の背中のバックパックが外れる。

 すると中から腕が二本現れ、予備としてあった剣を手にして肩越しに切っ先を向けてくる。

 つまり元々は4本腕だったという訳だ。

 まあ右腕を潰したので3本腕になったが、そういう問題じゃない。

 腕も2本しっかり動かすだけでも結構な技術が必要になる。

 だから単純に腕の本数を増やせば強いなんてことはない。

 増やしただけ操作する技術が大幅に上がってくるのだ。


「ようやくラッシュを潰したと思ったら―――」


 愚痴を言う暇すら与えないとばかりにブースターとスラスターを全開にして突撃してきた。


「嘘でしょ!?」


 思わず声をあげる。

 先ほどまでのどことなく機械的な動きではない、非常に人間に近いヌルヌルとした滑らかな動きで相手が動き出したのだ。

 しかも3本腕もまるで1本づつ専用のパイロットが動かしているかのように独立して動いているにもかかわらず、決して互いの邪魔をしていない。

 むしろ先ほどの何倍も高度な連携攻撃をしてくるのだ。

 とにかく一旦距離を取らなければマズイと判断して後退しようとするが、不気味に追いすがってくる。

 そのあまりにも人間的な動きに、とある制御装置を思い出した。


「―――まさか、BCS」


 『BCS』

 操縦者であるパイロットの脳波で直接武装や機体を操作する装置。

 だがあまりにも膨大なデータ量を処理する関係で脳にかなりの負担を強いる。

 そのため1分以上使用しないようにとリミッターがつけられているものだ。

 まだまだ試作段階であり、賛否両論あるものである。


 恐ろしいほどに精度の増した攻撃に、息が荒くなる。

 ここで集中力を切らせば終わりだ。

 既に30秒以上経過した。

 もう少しの辛抱だ。


 そう自分に言い聞かせて耐え続ける。

 機体には回避しきれず細かな傷がつき始める。

 マントの耐久値も限界だ。

 ロングソードも耐久値が少し心配になってきた。

 それでも希望はある。


 何度目かの3腕同時攻撃を何とか回避し、スグにバーニアで姿勢制御を行いつつ後退する。

 その瞬間、セットしておいた1分経過のアラームが鳴り響く。


「―――終わった」


 思わず気を抜きかけた瞬間。

 何の変化もなく突撃してきた相手に思わず驚く。

 そして何も変わっていない恐ろしい連撃が繰り出され、何とか気合で回避するもロングソードを持つ右肩の装甲の一部が切り飛ばされる。

 咄嗟に機体データを確認するが、切られたのは装甲部分のみで稼働には影響が無かったことを確認し……ため息を吐く。


 それにしてもおかしい。

 既に1分以上経過している。

 リミッターがある以上、それを超えることは無理だ。


 ―――まさか


「―――リミッターを外してる?」


 私の呟きが聞こえたかのように、まるでそれが答えだとばかりに相手がまた突っ込んできた。






*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。

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[一言] 公式戦に違法改造かよw どうなるかなあ
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