第11話
■side:京都府立田神高校 3年 泉 那奈
「……ここから先は正直賭けね」
山岳基地の上層部。
日当たりが良い巨大な広間で私は持ち込んだ飲み物を飲み干した。
ここに来るまでの撃ち合いで主要な武器を失った。
現在は、右手にある腕部取り付け型武装。
左手にはハンドガン。
背中から伸びるサブアーム2つにあるシールドがどちらも健在なことだけは、マシだと言えた。
あとは仕掛けたトイフェルファウスト1つが、しっかりと決まるかどうか。
シールド2枚を前面に展開し、いつでも飛びかかれるように姿勢を低くする。
しばらくするとキャタピラの駆動音が聞こえてきた。
どうやら距離にモノをいわせた長距離射撃はしないようね。
姿を現したタンク脚部型の雷鳴。
右手に最初は持っていなかった小型ガトリング。
左手には結構耐久値が削られているであろう盾。
背中部の滑腔砲2門も健在だ。
「鬼ごっこはおしまいかしら?」
相手がオープン回線で声をかけてきた。
「ええ、流石に時間をかけ過ぎましたからね。そろそろ決着をつけても良い頃でしょう?」
「そう。やっと正面から戦う気になってくれたのね」
短い言葉のやり取りの後、回線が切れて静寂が辺りを包む。
ゆっくりと相手が上半身を前に倒すようにして姿勢を低くするような動きをする。
と同時にガトリングとシールドを構え直す姿勢で誤魔化しつつ滑腔砲の砲身を急にこちらに向けてきた。
―――来るッ!
直感でそう思った私はスラスターで真横に移動しつつブースターを起動させ、斜め移動で相手に突っ込みながらハンドガンを撃つ。
すると滑腔砲が火を噴いた。
1発が左側のシールドに命中する。
サブアームは衝撃に耐えきったが機体の体勢が耐えきれなかった。
後ろに大きく転倒しそうになったため、ハンドガンを捨て機体を傾けて左腕を支えに完全転倒を回避する。
そしてスグにブースターを起動して強引に立ち上がる。
しかしそんな隙を相手が見逃すはずがない。
2門目の滑腔砲から砲弾が放たれる。
咄嗟に右側シールドの方を前面に押し出して防御する。
シールドに直撃した瞬間に爆発が起こり右側シールドはサブアームが破損して吹き飛ぶ。
その隙に脚部スロットからナイフが飛び出してきて、それを左手に持つ。
そして残っている左シールドと左手のナイフを構える。
すると相手はこちらに小型ガトリングを向けてきた。
ガトリングを撃たれる前にブースターとスラスターで一気に移動しつつ相手との距離を詰める形で射線からも逃げる。
相手はこちらに釣られるように旋回しようとしたタイミングで、私は遠隔操作ボタンを起動した。
逆側の柱の影から飛び出してきたトイフェルファウスト。
遥がやった罠と同じようなものだ。
相手はそれに気づくと両肩にあるスラスターや各種バーニアをフルで使用して急旋回し直すと、左腕の盾でトイフェルファウストを受け止めた。
爆発による黒煙で相手の状況が一瞬解らなくなるが、それでも手を止める訳にはいかない。
側面を取った私は、そのまま相手の後方に回りつつ接近用ナイフを構えたままブースターで突撃する。
―――だが次の瞬間
砲撃音と共に左シールドを弾丸が貫き、左腕に命中。
腕ごとシールドまで吹き飛ばす。
「―――いったい何が」
相手側の黒煙が晴れていくと、その答えが解った。
トイフェルファウストは確かに相手に直撃していた。
左腕はシールドごと吹き飛んでいたし、何なら左側の滑腔砲も潰れているようだ。
右手の小型ガトリングも盾の破片か何かが刺さっていて使い物にならないように見える。
それでも右側の滑腔砲が活きており、露骨に銃口がこちらを向いていた。
それが先ほどの攻撃の正体であるのは容易に想像がつく。
もう武装は右手のアレしか残っていない。
ここからはもう勝ち目の薄い博打。
「―――それでも、やるしかない」
こんな無謀な挑戦は何時ぐらいだろう?
そんなことを考えてしまうぐらいに今の自分はきっと冷静ではない。
でも、例え冷静でないにしても……親友や後輩の前で何もせず諦める姿なんて見せたくない。
ブースターやスラスターを最大稼働させる。
相手もこちらが武器らしいものを持っていないのに降参もせず突っ込もうとしている時点で警戒しているでしょう。
だけどそんなことは些細なこと。
勢い良く突撃したブレイブファイター。
コックピット内に強い揺れや衝撃があるけど、そんなことを気にしていられない。
相手はこちらに使えなくなったと思われる小型ガトリングを投げつけてきた。
それをスラスターとバーニアで何とか最小限の速度低下で回避する。
しかし次に見えたものは衝撃的な光景だった。
相手はタンク脚部からもう1本小型ガトリングを取り出したのだ。
確かにタンク脚部は鈍足になりがちでキャタピラによる走破性も安定した完全二足歩行には勝てないとされている。
しかしこうした重武装の予備を搭載できるという点だけ非常に優れていた。
右手1本でガトリングを持った相手がガトリングを撃ってくる。
無いよりはマシだと左右のサブアームを正面に出して僅かばかりの弾避けとしつつ突撃。
流石にサブアームだけではどうしようもなく、ガトリングの連射によってスグに破壊される。
そのまま継続して連射してくる銃弾に左脚部も破壊され、頭部も大破。
スラスターとバーニアのバランスが崩れて左側面から地面に叩きつけられるように機体が倒れる。
そして稼働しているブースターによって地面を抉りながら相手へと滑っていく。
その間も撃たれ続けるガトリングに機体が耐えきれるか不安になる。
機体は相手のタンク脚部にぶつかるとようやく停止をした。
相手が銃撃を止める。
……いや止めるしかなかったというべきか。
もはやメインモニターは潰れ、サブモニターもノイズだらけでほとんど周囲は見えない。
それでも恐らく相手のガトリングがオーバーヒートもしくは弾切れしたのであろうことぐらいは予想がつく。
そして、もしそうなら今この瞬間しかない。
「いっけぇぇぇぇッ!!」
もう立ち上がることも出来ないであろうボロボロの機体の中でたった1つだけ動かせるもの。
そう、右腕だ。
それを相手のコックピットに向かって突き出す。
肩部分が不調だったのか、大した威力が出せずただ軽くぶつけただけといった感じになったパンチ。
しかし―――
右腕にある小型装甲が爆発する。
すると銀色の巨大な杭が真っ直ぐ飛び出していく。
『撃ち出し式小型パイルバンカー』
大型のものとは違いゼロ距離で使わなければ威力を発揮せず、ほとんどが銃撃戦で終わってしまうBattle Dollsでは不人気な武装。
何より使用すると搭載してる腕ごと壊れる時点でリスクが高すぎる。
メリットとしてはパイルバンカーだと解らない見た目であるということ。
そしてもう1つは―――
あれだけ重装甲でガチガチだった雷鳴のコックピットに小型とはいえ銀色の巨大な杭が突き刺さっていた。
完全に貫通している訳ではないものの、かなり深くまで刺さっているように見える。
そう……もう1つはこの火力だ。
ロマンの域を出ない武装ではあるものの、一撃必殺性能を秘めている。
いつの間にか会場も静まり返っていた。
相手のガトリングは、こちらの機体を捉えたままだ。
これでもしコックピット破壊判定が出なければ、撃たれて終了ね。
自身の心臓の音すら聞こえてくるほどの痛い静寂。
だが、時間にしてほんの数秒。
永遠に続くかのような時間の果てに審判AIの声が響いた。
―――試合終了
勝者:京都府立田神高校
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