一日目ーーー④
「さすがは瑠璃学園。祐樹だけじゃなく、精鋭が色々と揃っているな」
紅茶を飲みながら、梨々花の走る様を見つめる金髪の少女、撫子女学校生徒会長のハリエットが呟く。
「ほんとね、さすが日本の最前線の瑠璃学園。序列一位は伊達ではないわね。はい、アメリアちゃん王手」
「む、むぅ……」
そして、雛罌粟学園生徒会長の若菜が、梨々花の走りを見ながらも、アメリアの相手をしている。
先ほど名前を出した全員、この前行われた学園会議で護衛役を努めたヒロイン達であり、本来なら祐樹のような例外はのぞいたら生徒会長=一番強いヒロインという認識である。
「ところで、祐樹くん何してるのよ空羽さん。彼、あれから戻ってこないんだけど?」
と、祐樹に合うのを楽しみに待っていた若菜が不満げに空羽へ苦情を入れる。
「祐樹くんは今頃お掃除よお掃除。文句があるなら私たちじゃなくて、ちょっかい出してくる団体に言いなさい」
と、空羽はすげなくあしらい、梨々花を応援するために視線を戻す。
「ちぇー。折角祐樹くんともっと仲を深めるいいチャンスだったのに。アメリアちゃんも寂しいよね?」
「む、今考えてるから、あまり勇者の名前を出さないでもらいたい……っ!そちらに意識が言ってしまう!」
と、耳を塞いで目の前の将棋盤に集中する。
「……あなた、祐樹にアイアンクローされたのに、まだ仲良くしたいと?」
「当然だよ!あれは祐樹くんの一種の愛情表現だと思ってるから!」
「ちょっと!ウチの祐樹くんに変なイメージ持つのやめてくれる!?」
ーーーこれでラスト。
梨々花は、最終関門である、高速に動く人工アビスの腕の雨を躱す所まで来た。
最初は、一目見てあまりの速さに驚いた。だけどーーーー
ーーーこの程度、アビス20体に囲まれた時に比べると、どうってことない!
一度、任務中に梨々花の不注意で臨時の隊の皆とはぐれてしまい、さらに境界にまで遭遇してしまうということをやらかしたことがある。
しかし、梨々花はこれを無傷で鎮圧。祐樹にみっちり怒られるということがあったが、結局褒められた。
ーーーギフトは………ううん、大丈夫。これなら見切れる。
そして梨々花は、未だノーダメージでくぐり抜けたヒロインがいないゾーンへと突入する。
「……流石にやりますね梨々花さん」
「うわっ!凄い!え!?あれも避けました!凄いです!梨々花さん!」
「梨々花さんは、戦闘のセンスだけを見れば、学年最強のカタリナさんにも並ぶほどの才能がありますから……まぁ、普段の様子が残念すぎるのですが………」
梨々花は、冷静にアビスの腕を止まったり、回転したり滑り込んだりしながら華麗に交していく。
そしてついに、初めて梨々花がノーダメージで突破したのだった。
「やったね!梨々花さん!」
「わぷッ!?」
戻ってきた梨々花を出迎えたのは、菜々のハグだった。あまりの突然に、反応することが出来ず、ぴょん!と飛んできた菜々を躱すことが出来ず、そのまま菜々の胸に顔を突っ込むことに。
「…………………」
ほよん、ほよん、と自身にはあまりない女性の象徴とも言えるものに顔を埋め込まれている梨々花。何故か、その時の梨々花は生気を感じられなかったという。
「あちゃー。アデル、無傷突破梨々花ちゃんに取られちゃったね」
「別に」
つんつん、と無表情すぎる女の子の方をつついている工作科の真奈と、朝凪隊に所属しているアデル。
どうやら、二人もこの障害物に出るようだった。
「梨々花なら、それくらいできる」
「信用してるのね……少し妬いちゃうかも」
「なんで?」
「そりゃほら、私とアデルって知り合った時からなんだかんだペアで動いてたじゃん?」
「一番は祐樹」
「うん、アデルが祐樹くん大好きなのは知ってるから、引き合いに出すのやめて?私絶対勝てないから」
あははー、とアデルのほっぺつんつんなら、ほっぺふみふみびよーんと無抵抗なのをいいことに色々とやっている真奈。
「まぁそんなことは置いといて、私がなんで妬くのかというとーーー」
「ふぇつに、ふぉうひふぁい」
「あらま」
出番が近づいたので、アデルは真奈の手をやんわりと外してからスタートラインへ行く。
「一応言うけど、気をつけてね。私は怪我しちゃうかもだけど」
「大丈夫」
パァン!とスタートの音が鳴ったが、アデルは走らずに真奈に顔を向けた。
「真奈も、出来る子」
「あらま」
そして、アデルはギフトを使って一気に先頭に躍り出る。さすがは縮地のギフト持ち。スピードが段違いである。
そして、1人残された真奈は、アデルの言葉に確かに胸を撃ち抜かれた。
「うっ……アデル可愛い……尊いよ、祐樹くん!」




