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かくして、大運動会は始まるーーー②

 日本上空約4000メートル。1か月前に起きたアビス大侵攻のように、たくさんの軍用ヘリが日本の空を埋め尽くすように移動を開始している。


 しかし、またまた大侵攻が起きたとか、そういう話ではない。


 今日から、椿原学園で行われるヒロイン大運動に参加するために、こうして大掛かりな移動を行っている。


「………ねぇ、菜々。祐樹、祐樹のとこ行きたい」


「だ、ダメだよ!金星ちゃん!お師匠様は今違う意味で忙しいんだから!」


 相澤金星。彼女が目覚めて一週間がたち、その間、朝凪隊の全員で彼女面倒を見ていた。


 最初は、祐樹のことを王子様呼びをして、新たな波紋を引き起こしたり、まぁなんだかんだ色々とあったが、現在はしっかりと美冴が金星の特別に編入を許可し、瑠璃学園へ所属することになった。


 彼女が編入するのは、祐樹達と同じクラスである。そこら辺色々と大丈夫なのか?と思ったが、どうやら彼女は凄く頭が良かったので、飛び級的扱いになっている。


 真実は、金星が祐樹達と離れたくないと駄々をこねたからであるが。


 そして、現在金星は朝凪隊の一員となり、色々と可愛がられている。


 そして、金星がお求めの祐樹は、今日も今日とて生徒会長達と一緒に美冴の世話をしていた。


「なんで!学園長はヘリ酔いが凄いのにいつもいつもヘリに乗るんですか!?大丈夫です!?」


「フフっ……大丈夫じゃないからあまり大声出さないで貰えるか?祐樹……ンプッ」


「学園長。祐樹くんに吐いたりなんかしたら、私もう二度と学園長の命令聞きませんから……頑張って耐えてください」


「そ、空羽……冗談きついねそれ……ンプッ」


 わざわざ、海上都市(メガフロート)から本土までの海底トンネルは開通しているのにも関わらず、みんなと一緒に行きたいからという理由で、酔いが凄いのにヘリにのる美冴。そして、毎度毎度面倒見てるのも祐樹と生徒会長組である。


「椿原まであと数分です。学園長、耐えてください」


「ギフト、使いますか?」


 後方科生徒会長である綾瀬のギフトは他人の精神状態を安定させる能力がある『メンタル』がある。酔いに効くかどうか知らないが、試してみる価値はあるだろう。


「いや、大丈夫だ………いざとなったらこの前と同じ要領で乗り越えるから……」


「俺は今からフェリシアに連絡とるんで、抱きつくなら先輩方にしてくださいね」


 と、祐樹は既に待機してるであろうフェリシアに連絡を取ることにした。


「ーーーはい、もしもし祐樹さん?フェリシアです」


「久しぶり……でもないか。毎日電話してるもんな」


「はい、そうですね。してますもね、毎日」


 画面の越しでもフェリシアが微笑んだのが分かる。祐樹は、フェリシアが毎日電話したいという要望があったので、きちんとそれに応えている。祐樹から電話をかけることだってあるし、我慢できずにフェリシアから……なんてこともある。


「フェリシア、悪いけど、もう一人人を準備できるか?うちの学園長がヤバい」


「………なるほど、全て理解しました。あと二人ほどこちらに人員をよこすようにアメリアに行っておきます」


「助かる」


 フェリシアは、学園会議が行われた日に、盛大にトイレでリバースしていたことを知っているので、全てを聞かなくても理解することが出来た。


「………今日は全校生徒待ち構えてるなんてないよな?」


「はい。今日は大丈夫ですよ。しっかりと学園長とアメリアが勧告を出しましたから」


 つまり、逆をいえば勧告を出さなければ行けないほどだったということである。祐樹は冷や汗をかいた。


「………そ、それじゃあまた後ほどで。会うの、楽しみにしてる」


「はい。私も楽しみにしてますね」


 と、電話を切り、祐樹は再び美冴のお世話に戻った。


「学園長。椿原についたら思いっきりリバースしていいですからね」


「私がリバース前提はやめて貰えないか?祐樹。私にも、学園長の威厳がーーーーうぷッ」


「はい、学園長。無理して喋らないでいいですから……吐かないことだけを考えてください」









 椿原学園所属のフェリシア・コーネリアは、頭上を見上げ、今か今かと祐樹が来るのを待ち遠しにしていた。


 ーーーコーネリア様……何やら普段より楽しそうです。


 と、隣にいた美冴をトイレに連れていくためだけに呼ばれた同じギルド『ヴィクトリア』に所属している黒髪の少女、玉森彩春(たまもりいろは)は頭上を見上げているフェリシアの姿を見つめる。


 きっと、フェリシアの頭の中にはあの少年についてで頭がいっぱいなんでしょうねと、自身のギルドリーダーを優しく見つめた彩春。ふと、フェリシアの眉根が顰まったのを確認した彩春は、同じように頭上を見上げた。


 そして気づく。


「………………え!?」


「裕樹さん!?」


 二人の目に、空高くから裕樹が飛び降りてくるのがしっかりと見えた。

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