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悪ノリ

 朝はやく美冴に呼ばれたのと、途中でぐっすり寝てしまったせいなのと、時間帯の都合もあり、菜々のお腹の虫が盛大に訴えたことにより食堂へと移動しようと、個人ラボから出て、地上に戻り、エレベーターの扉が開いた瞬間、ヒロインの視線が一斉に祐樹を捕らえる。あまりにも鬼気迫ると言った感じだったので、思わず身構えてしまった。


「……え、なんでお師匠様こんなに見られてるんですか……?」


「………わ、分からん……俺にもさっぱりなんだが……」


 あまりの眼光に思わず冷や汗をかいてしまう祐樹。自身を見ているという訳でもないのに、あまりの空気感に菜々まで冷や汗をかいてきた。


「………あ、祐樹さん!」


「! 沙綾」


 そこで、祐樹達が所属するクラスのある廊下からやってきた沙綾が、祐樹の姿を見るなり駆け寄る。


「な、なぁ沙綾。俺、なんでこんなに見られてんのかさっぱり理由の検討がーーー」


「あ、あの!」


 祐樹が喋っているのにも関わらず、鬼気迫ると言った表情で祐樹に詰め寄った沙綾。あまりの剣幕に一歩下がった。


 というか、なんかこれ物凄い既視感があるようなーーーと、祐樹の記憶を刺激仕掛けた所で大声で沙綾が言った。


「だ、大運動会で最優秀賞とったら、祐樹さんと1日デートって本当ですか!?」


「……………………………は?」


 脳の処理が追いつかず、呆然と呟いたその言葉はーーーー一気に周りにいたヒロイン達の黄色い悲鳴によって掻き消された。


「聞いた聞いた!?祐樹くんとデートだって!」


「しかも、噂の出所は沙綾さんなんでしょ!?」


「ま、待て待て!なんだその根も葉もない噂は!?」


 俺はそんなものうんともすんとも返事した覚えはねぇ!?と叫ぼうとしたが、聞き覚えのある「号外!号外でーす!」の声に口を噤んだ。


 ーーーなんか、すごい嫌な予感がする!!


「学園長直々に認めました!大運動会で最優秀賞とったヒロインには祐樹くんとの一日デート券を与えるだそうです!」


「ちょっと待てぇぇえ!!!」


 声の発生源は、我らが隣にいる菜々がリーダーをやっている朝凪隊に所属するメンバーである加奈惠だった。


「お、お師匠様!?これどういうことですか!?」


「わ、分からん……俺にもさっぱりわからん………」


 どんどん流れる冷や汗。とたんに、ポケットがプルプルと震える、取り出すと、端末がメールを受信しており、送信元は美冴だった。


 そこはかとなく嫌な予感がしつつも、恐る恐るメールを開くとーーー


『ごっめんねぇ☆祐樹、面白そうだから便乗しちゃった!テヘペロ(๑>؂<๑)♪』


 祐樹の端末が割れた。




「……?何か騒がしいわね」


 同時刻。保健室にて、フェンリル研究所から救出した金星の看病をしていた綾瀬は、突如として聞こえてきた黄色い悲鳴に首を傾げた。違う棟にまで聞こえるほどとは、どれだけの人数があそこにいたのだろうか。


「ん、……んぅ……」


 そして、その騒音によって金星の意識は目覚める。ぐっすりと眠っていた金星は徐々に目を開ける。


「ここ………は」


「! あら、起きたの?」


 金星と綾瀬の視線が合う。


「お姉ちゃん…だれ?それと、王子様どこ……」


「………王子様?」


「うん、金星の……王子様……」


 王子……?と聞いて綾瀬は一瞬眉を寄せたが、直ぐに該当人物を思い浮かび、納得。


 ーーー確かに、王子さまよね祐樹くん……ほんと、罪作りな男の子ね。


 謎の実験施設から救い、まるでお姫様を救うように現れた祐樹。確かに、王子様である。


「私の名前は片桐綾瀬よ。よろしくね」


「金星は、相澤金星……綾瀬お姉ちゃん……王子様は……」


「王子様はね、少しお出かけしてるの。少し待っててね。今呼び出すから」


 と、綾瀬は端末を取り出し、祐樹へ金星が目覚めたことを教えようと思ったが、祐樹の端末は、祐樹の怒りによって握りつぶされたので、当然、帰ってくるのは相手が見つかりませんである。


「………あら?」


 もちろん、首を傾げた綾瀬。それを心配そうに見つめる金星。


 ーーーおかしいわね、なんで……まさか、また何か学園長がやらかして祐樹くんが端末を……?


 当たっていた。


 ーーーど、どうしましょうか……あ、金星ちゃんがだんだん泣きそうな目に………。


 綾瀬を見つめる目がどんどんうるうるとなっていく金星の目。悩んだ挙句、綾瀬はーーーー


「……!金星ちゃん、体調の方はどうかしら?」


「……? うん、大丈夫だと思う、けど」


「それなら、見つけに行きましょうか、王子様を」


 綾瀬はニコリと笑うが、金星は頭にはてなマークを沢山つけていた。


 綾瀬は何かを美冴にメールをすると、立ち上がる。


「ごめんなさいね、少し待っててね」


 と言うと、綾瀬はヒロインとしての身体能力を全力で生かし、学園長室へと向かった。

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