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波紋ーーー③

「私達はそういう腐った人間のために戦っている訳ではありません。家族や、親しい人達。そして、家族でもあり、仲間でもあるヒロインを守るために戦っているのです。覚えておいてくださいませ」


 その言葉に、菜々の顔が徐々に落ちていく。


「……まだ、菜々さんには早かったかも知れませんわね」


 と、アンナは菜々の近くにより、軽く抱きしめた。


「今、無理に納得する必要はありませんわ………考えて、それこそほかのヒロインに相談したりしても構いません……私達のこの思っている気持ちがダメなのかどうかは、貴方が決めることです」


「アンナさーーーー」


「しばらく、一人で考える時間が必要ですわね。菜々さんは体調不良ということで、先生に言っておきますわ」


 と、アンナは菜々からゆっくりと離れ、背中を向ける。他のみんなも、菜々に優しい視線を送ってからアンナの後に着いて行った。


「あーーー」


 とっさに手を伸ばしたが、足は進まない。菜々の足を竦ませているのは恐怖か、それとも意外な一面を知ったヒロインに対しての失望か。


 ーーーいや、多分違う。これは……。


「………驚き」


 全員が、死んで当然だという気持ちを持っていたことに対する驚き。常人なら忌避すべきであろう感情を当然の如く持っている。


 菜々は、あまりにも知らなすぎる。ヒロインのことについても、アビスのことについてもーーーこの世界のことも。


 ぬるま湯に浸っていた今までの人生では考えられない程に、頭を使っている。


「……お師匠様……」


 その足は自然と、祐樹の元に向かっていた。








 朝になっても、金星が目覚める様子がなかったので、外に出た祐樹。保健室では代わりに綾瀬が付きっきりで金星のことを見てくれているので、少し外の空気を吸おうと散歩に出ていたらーーー


 ーーーーグイッ。


「うおっ」


 急に、袖を握られる感覚。眠気のせいか、辺りの警戒が疎かになっていたのか、触られるまで気づかなかった。


 振り返りと、思ったよりも近くにあった濡羽色の髪。日の辺りようによっては、青にも見えるその髪色の持ち主を、祐樹は一人しかしらない。


「……朝凪さん?」


 一目見て、違和感に気づいた。いつもなら、祐樹を見つけると「お師匠様ー!」と元気に手を振り、おしりら辺に犬のしっぽがブンブン振っているのが見えるが、今は全体的に萎れている。


 このことから、菜々は美冴から自身についてと、ヒロインが抱えている闇を見たのだろうと結論付けた。


「おいで。二人っきりで話したいだろう?」


 本来なら、菜々ので握り先導する祐樹だが、自身のことを人殺しと知った彼女の手を進んで握ろうとはしなかった。


 菜々も、そのまま袖を握ったまま祐樹について行き、案内された場所は学園地下の祐樹の個人ラボ。


「……さて、念の為に聞くけど、どこまで聞いた?」


「お師匠様のことと、フェンリルのこと……それに、アンナさん達が持っている心についてです………」


「うーん……参ったな。全部か……Н一度に話すにはボリュームが大きすぎる気がするが……」


 頭をボリボリとかいて、悩む祐樹。


「……ねぇ、朝凪さんなどう思った?この話を聞いて……俺の事、嫌いになったか?」


「……っ!い、いえ!そんなことは無いんです!無いんです、が………」


 最初は大きい声で反論したが、徐々に小さくなる。


「……分からないん、です。私の気持ちが」


 考えても、考えても、結論は出ない。人殺しはダメ。分かっている。でも、彼女達の気持ちだって分かりたい。共有したい。仲間だから。


 その相反する気持ちが、菜々の心を蝕み、負の連鎖に陥れさせる。


「………フェンリルは、アビスの次に俺たちヒロインの敵だ。俺たちは既に、フェンリルに属するやつを、人だとは思っていない。害獣だ」


 欲に支配された人間など、ただの獣と同じ。本能に生きて本能のままに死ぬ。それと同じ。それが、鹿や熊と同じで、人に危害を加える。


 だから、《《駆除》》しなければならないのだ。被害が出るから。《《迷惑だから》》。


 瑠璃学園は、アビス討伐以外にも、 裏では祐樹以外でもフェンリル監視任務を行っており、なにかすれば殺害しても良いという許可を貰っている。神楽だって、アデルだって……少なくとも両手では数え切れないほどの害獣を殺している。


 まだアンナたち一年生組は経験していないが、二年になればこういう任務が出てきて、殺すようになるが、きっと彼女たちはなんの感情を持たずに殺し、冷たい目で見下ろすのだろう。ジャガーノートに、アビス以外の体液を滴らせながら。


「………朝凪さんが思っていることは、どっちも正しいんだ。ただ価値観が違うだけ」


「どっちも……正しい」


「あぁ。ヒロインに染まりきっていない君だからこそできる答えだ」


 祐樹は、菜々の頭を撫でる。


「今日一日、一緒に悩もう。ガーディアンとして、俺がずっとそばにいる」


「………はい、ありがとう、ございます」


 祐樹が菜々の隣に座ると、菜々はゆっくりと祐樹によりかかり、眠りについた。

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