仕事
「お疲れ様、祐樹」
「いえ、そんなに疲れてないですけど……」
アビスを討伐した各々は、各学園長の元へ行き、労いの言葉を貰う。学園会議が終了したので、もう何時でも解散してもいいのだが、ヒロイン同士のコミュニケーションがあるので、普通は泊まっていくのだがーーーーー
「……祐樹、《《仕事》》だ」
美冴の口から出た言葉に、祐樹はどんどん表情を無くす。
「悪いな、私達は今日は失礼する」
「あれ、泊まっていかないの?」
「まぁね。私たち、ちょっと瑠璃学園でやることがあるから」
ごめんね、と言って手を振って去る美冴。祐樹もみんなにペコリと黙って頭を下げると、そのまま美冴の後を追った。
「………変、だな」
「変?」
ポツリ、と呟いたアメリアの言葉に首を傾げた正吾郎。
「はい、上手く言い表せませんが……祐樹、少し変かと」
そのアメリアの予感は、しっかりと当たっていた。
「通り道、森があっただろう?」
「はい。群馬に確かありましたね」
「あぁ、その森には、フェンリルの極秘研究所がある………言いたいことは分かるかい?」
「………………………」
祐樹の目は、徐々に細目になっていく。拳は、ギリギリと震えるほど握りこんでいる。
「小鳥遊祐樹ではなく、危険度SSSの騎士に仕事だ。フェンリル極秘研究所を殲滅し、非人道的な実験の被害にあっているヒロインを解放せよ」
「………|YES Your Highness《あなたの仰せのままに》」
群馬県、とある森のフェンリル極秘研究所。そこではアビスに有効な武器開発という建前の元、日夜少女を誘拐し、実験漬けにしているという情報が美冴の耳に入った。
真実はクソどうでもいい。フェンリルの奴らは腐った人間ばかりなので、例え行っていないとしても、フェンリルと言うだけで潰すには値する。
しかし、一応フェンリルは国際機関なので、下手には動けない。だからアビスのせいにしてしまおうというのが、美冴の考えである。
「すまない……こうしていると、君のアビスの部分まで認めているようで」
「気にしないでください」
現在の祐樹の格好は、全身がまるで中世の騎士のような鎧を体全身に纏っており、傍から見ても人型のアビスで、万一にも祐樹とバレる事はない。
エル・ドラド特別指定危険度SSS騎士。それが、祐樹の隠れた二つ名である。
時刻は夕刻。群馬の上空二千メートルから祐樹は、フェンリル研究所に向けて出発する。
「心配はしていないが………怪我には気をつけてな」
「……………」
祐樹はもう返事はせずに、黙って飛び降り、機械の羽を広げた。
研究所の見取り図は既に頭の中にインプット済みである。一体どこから見つけ出したんだと突っ込みたいが、それには深く突っ込まないことにしている。
スタッと優しく着地し、背中から二本の腕と機械型アビス特有の刃を作り、天井を切り裂いた。
まず、祐樹が狙ったのはコントロール室。そこには警報装置やら、監視カメラの映像やらをコントロール出来る部屋なので、一人残らずに殺すには、ここの制圧が一番大事だ。
「んなっ!なんーーーぐわぁぁ!!」
「ひぃ!?な、騎士が何故ここにーーーヒギャァァ!!」
断末魔を上げながら死んでいく研究員。逃げようとしていたやつもいたが、例外なく全て一太刀の元にひれ伏した。
そこから祐樹は慣れた操作で警報のスイッチを切り、監視カメラの電源も全て落とした。
ーーーこれで完璧。
残りは、この施設の職員の殲滅のみだ。
「ギャァァァァ!!!」
「い、嫌だァ!!死にたくなーーーー」
歩く度に血しぶきが舞う。祐樹の後ろには血の道が出来上がり、どれだけ人を殺したのかさえ判断ができない。
ーーーこれで、1階と2階は全部潰した。
後は地下のみである。ここまでで、職員たちはのんびりと実験の話や仕事をしていたので、祐樹が来たという事実は広まっていなかったので、一人残らず殲滅できている。
祐樹は地下の階段へと足を進めた。
ーーー………!?
地下に踏み入れた瞬間、異臭が祐樹の鼻に突き刺さり、臭いを遮断した。
ーーーなんだ、これ……。
腐乱臭とは違い、どんなものなのか説明すら難しいが、積極的には嗅ぎたくはない臭いだが………どこかで嗅いだことのある臭い。
耳を澄ますと、パンっ、パンっとなにかがぶつかる水音、それに続くように聞こえる呻き声ーーーー
「っ!?」
次の瞬間、祐樹の背中から無数の腕が飛び出し、その音の発生源へと伸びていき、数秒後には細切れになった男の悲鳴が聞こえた。
「………この下衆共がっっ!!」
何が行われていたなど、ここまで来れば明白。
誘拐した少女達への陵辱である。
祐樹は、声を出しては行けないということも忘れ、大声を出し、更に背中から腕を生やす。
「殲滅しろよアビス………どうせここにいるのは男だけだろ…?なら、男だけを殺せ」
心臓がドクン!と鼓動すると、今だけは祐樹の言葉に賛同したようにアビスが唸る。
背中の腕が祐樹から離れ、それぞれ自律し、牢屋へと雪崩込み、次の瞬間には様々な悲鳴が聞こえる。
「………酷い有様だ」
牢屋の一室に入ると、二人の少女が既にもう息絶えた様子で裸のまま放置されている。その体には、この酷い臭いの発生源となるものが大量に付着していた。
どこの牢屋も似たような感じだった。次の牢屋へ入ると、そこにはいちばん最初に細切れにした男の死体が転がっており、まだ胸が上下している少女の姿。
歳は17くらいだろうか。汚れた体なんて気にせずに、祐樹は優しく二本の腕で抱き起こした。
「あっ………」
最初は焦点が合わなかったが、次第に瞳に光が戻り、祐樹の顔を見ると、安堵したかのように笑う。
「きし……さま……」
今までの陵辱からやっと解放され、少女は望む。
「おねがい……ころ、して……」
震える手で祐樹の頬を撫でる。祐樹は黙って背中かは腕を生やす。
「あり…がと……う、きし……さーーーー」
せめて、痛みがないように一瞬でその首を斬り裂いた。




