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学園会議ーーー③

 突然消えた祐樹の姿に、ザワザワと別の意味で騒がしくなる椿原学園生。その中にはぽかんとしている者もいたが、ぽかんとしているのは祐樹も同じである。


「ふぅ……このような出迎えで仕方ないなミスター」


「いや、それはまぁいいんだけど……」


 これ、どういうこと?と祐樹は呟いた。目の前には、先程急に現れたアメリアーーと、そのアメリアと手を繋いでいる一人の黒髪の少女。


 祐樹と目が合うと、ぺこりと頭を下げたので、祐樹もついつい頭をぺこりと下げた。


「これは、彼女のギフト『ステルス』による効果だ」


「……なるほど、ステルス」


 強化系ギフト『ステルス』。存在感を極限まで薄くすることで、まるで風景に同化するようにその場に溶け込むギフトで、アビスに対し暗殺や奇襲を仕掛ける際に重要なギフトだ。


 制限は、自身と、自身に触れている人と更に触れている人の合計五人まで。だから、祐樹はアメリアの手を握るとステルスの能力使用範囲内になるので、祐樹は姿を消せれたということだ。


「ゆっくり移動しよう。あんまり早く動くとバレるし、何より彼女が付いていけない」


 と、アメリアが言うとその少女はすこし申し訳なさそうにした。


「気にしないで大丈夫だ。どうせ学園長も今トイレで色々とキラキラが出てるだろうから、少し遅れても」


 現在の美冴。フェリシアに背中をさすられながら少しモザイクがかかってしまうものを口からキラキラしていた。


「フフっ……すまないフェリシアくん。こんな見苦しい姿見せてーーーーうっ」


「はい、大丈夫ですから……はい、楽にしてくださーい」


「うっーーーーピー(自主規制)」


 とまぁ、こんな感じで格闘している。出てくるにはまだまだ時間がかかりそうだ。


「俺は小鳥遊祐樹だ。よろしく」


 と、アメリアに握られていない方の手を差し出すが、少女はおずおずと握手するだけで、名前を名乗ろとしない。


 何かあったのか?と思うと、直接祐樹の脳内に語りかけるように声が反響した。


『私は、高坂沙織(こうさかさおり)です。よろしくお願いします、小鳥遊さん』


「ぬおっ!?」


 突然の声にびっくりして思わず声を上げてしまった。そして一旦冷静になり、沙織と名乗った少女をまじまじと見つめる。


「先天性……いや、後天性か……運が悪かったか」


 首に見つけた、目立ちはしないがよくよく見ると傷がついている喉。それに触ろうとしたが、沙織がさっと身を引いた。


「あっ……ごめん、あんまり無作法だったな」


 ふるふる、と頭を横に振る。大丈夫、ということだろうか。まぁそれにしてもいきなり男に喉は触れられたくはないが。


「沙織がこうして会話ができるのは、瑠璃学園に提供してもらった、ギフト受け渡しの開発データがあったからなんだ」


 三年前。中学一年生でありながらも優秀なヒロインとして活躍していた沙織だが、慢心のせいか、三体のアビスに襲われ、首をアビスの凶刃が掠めてしまった。


 幸い、命に別状はなかったが、喉仏がやられ、二度と声を出すことが出来なくなった沙織だが、それを知った美冴が、瑠璃学園で開発中だったギフト受け渡し機械の開発データを椿原学園へ送り、それを解析していた椿原学園の工作科気づく。


 あれ?これギフトが行けるならその応用でテレパシー行けんじゃね?と。


 魔力を通じてギフトを受け渡すなら、こちらは魔力を通じて思念を送る。祐樹のジャガーノートが『所有者の思念を読み取り形を変える』という成功例だったので、しっかりとそのデータも美冴が渡して、こうして声は出せないが、会話が出来る。


『私、ずっとあなたにお礼が言いたかったんです』


 沙織が、祐樹の手を握った後に、声が聞こえる。


「……別に、俺はお礼言われることなんて何もしてないよ」


『いえ、あなたのダインスレイブのデータが決め手だったと、工作科の皆さんから聞いてます』


 いや、本当に何もお礼を言われる程じゃ……と思う。なぜなら、あれは祐樹とケラウノス社員が男のロマンを追求して作った偶然の産物なのだから。


『だから、私はあなたに感謝をしています。ありがとうございます、小鳥遊さん』


 彼女の黒い瞳が潤み、涙がこぼれそうになる。祐樹は慌てて沙織の手を解き、ポケットに手を突っ込んでからハンカチを出して、涙を拭った。


「それならば、俺も、ここにいて良かったと思えるよ…………俺からもお礼を…ありがとう、俺のおかげって言ってくれて……」


 その時、確かに沙織の気持ちで、祐樹の心は救われた。今ではだいぶ薄れている、『自分はなんのためにいるのか』ということに、悩んでいた気持ちが、確かに救われたのだ。


『祐樹さん……と呼んでも?』


「構わない……俺も、沙織って呼んでいいか?」


『はい、大丈夫ですよ、祐樹さん』


 そんな2人を、アメリアは暖かい目で見つめていた。

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