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ギルドーーー①

 ヒロインは、学生でありながらも、アビスと戦わなければならない義務がある。


 他の生徒が授業、又は就寝中であろうと、アビスには関係ない。なので、四六時中ヒロインが襲ってくるアビスを交代で警戒をしなければならない。


「!」


 ガンッ!とアビスの腕とジャガーノートが弾ける音が響く。機械型ではないため、いつもの『敢えて受けて流す』という型をしなくてもいいため、きちんと真正面から受け止めることが出来る。


「アンナ!朝凪さん!」


「お任せ下さい!」


「行きます!」


 狼に似た四足歩行型のアビスの突進を、盾に変形させて受け止め、この体を背中から生やしたアビスの腕でがっちりと押さえ込み、その隙を見逃さず、上空からきちんと『連携』で強化させたジャガーノートでアビスを斬り裂いた。


 それを確認した裕樹は、耳元に手を持っていき、インカムの電源を入れた。


「こちら、裕樹だが……そっちはどうだ?」


「あ、はい。こっちも無事に終わりました、裕樹くん」


 通信先は、裕樹達と同じで、どこのギルドにも所属していない、所謂『フリーランス』と呼ばれているヒロインである川瀬加奈恵(かわせかなえ)である。薄紅のサイドテールに少しピンクの混じった薄い紫色の瞳、そして特徴的なぴょこんと生えたアホ毛。校内新聞も片手間に作成している同じ強襲科で同じクラスである。


「なら、大丈夫だな。ありがとう、加奈恵………二人とも。今日はもう終わりだ。引き継ぎをして学園へ帰ろう」


「はい!」


「分かりました!」





 朝の警備も終わり、加奈恵も祐樹とともに合流し、一緒に朝ごはんを食べることに。


「朝凪さんのギフトは、一応、『カリスマ』になっていたよな?」


「? はい。一応はそういうことになってます」


 アビス大侵攻から数日。瑠璃学園もスッキリと元の形に戻り、ヒロイン達も各々と普通の生活に戻って言っている。


「カリスマ……ヒロインとジャガーノートの性能を著しく上げると言われていますが、具体的な事は全て謎。実際はカリスマなのかすらも怪しい共鳴系のギフトですね」


「加奈恵さん、あなたお詳しいですのね?」


「それは、一応校内新聞を作らせてもらっている身ですから」


 サンドウィッチを食べながら、上品に笑う加奈恵。祐樹は、一度食事を止めて、腕を組んだ。


「………なるほど、分かった」


「?」


 じーっと見つめられる祐樹の視線に、首を傾げた菜々。やがて、何かを決めたのか祐樹は言った。


「朝凪さん、君はギルドを作るべきだ」


「………はい?」


 ギルド。六人以上十二人以下のヒロインで構成される、危険度A−以上のアビスを相手取る際に、最も効率的な布陣であり、ヒロイン最大の攻撃である『ヒロインズ・チェイン』の使用も許可される。


 では何故、祐樹は戦闘経験豊富なアンナではなく、新人の菜々に言ったのか。それは、ギフトの性質による。


 ギフトには強化系、知覚系、共鳴系、放出系に分けられるが、その中でも一番希少なのが共鳴系のスキルだ。


 共鳴系は総じて自分だけではなく、他人の事も強化できる上に、ギフト名に『カリスマ』とあることから、リーダー向きの人が多いのだ。


 例えば、瑠璃学園最強ギルドのハミングバードに当てはめる。


 ハミングバードにも当然三年生はいるが、リーダーは2年の新名花火だ。


 彼女は、共鳴系の『カリスマ』持ち。普段の言動はちょっとあれだが、しっかりとみんなを引き入れるほどのカリスマ性を持っているのだ。


「だから、朝凪さんはメンバーを集めて、ギルドを作って。別に十二人じゃなくていい。六人いればギルドは作れるから」


「メンバーを………」


 それを理解したのかどうか知らないが、菜々は勢いよく立ち上がった。



「分かりました!お師匠様のギルドですね!」


「ンブ!?」


 全くもって違う言葉に、飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった祐樹。


「いや、違っーーー」


「分かりました!早速メンバーを集めに行ってきます!」


「だから、違っーーー」


「いいですね!祐樹くんのギルド!私、フリーランスでよかった……!」


「当然、私も入りますわ!そうと決まれば、早速メンバーを集めに行きましょう!」


 おー!!と三人元気よく手を挙げてスタコラサッサと消えていく。


「……いや、だから俺じゃなくて朝凪さんの……」


「へぇー?祐樹、ギルド作るんだ」


「っ、神楽先輩……」


 カッチーンと固まっていた祐樹に、後ろからしなだれかかるように抱きついてきたのは、三年である七瀬神楽だ。


「いや、俺じゃなくて、朝凪さんのーーー」


「多分もうそれ通じないよ?」


「………………………」


 一応の抵抗として否定してみるが、神楽はバッサリと封殺する。その顔を見た神楽は、ニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべ始めた。


「祐樹のギルド……私、今からあの子に声掛けて入りまーすって行っちゃおうかな~」


「え?」


「ほら、一応私もフリーランスだから、どのギルドにも入れるのよ?」


 そういえばそうだったな……と、記憶を掘り起こした祐樹。


「……まぁ、俺のギルドじゃないにせよ、神楽先輩が入ってくれるなら、大分心強いかと」


「多分、もう話広まっているから無駄ね。諦めなさい」


 カクン、と祐樹の首が落ちた。

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