移動ーーー①
あれから、六日が経った。菜々専用のジャガーノートである『クラウ・ソラス』を扱うための訓練をしたり、ジャガーノートの整備をしたり、何故か裕樹の部屋に聖百合花女学院から来た樹莉とエレナが突貫してきたりと、まぁ色々とあったが、アビス大侵攻前日を迎えた。
工作科の分析と、裕樹の感覚を照らし合わせ、しっかりとアビス大侵攻が始まる日にちを把握し、それを情報共有をして遂に、ヒロイン達は神奈川県箱根市へと乗り込むことになった。
箱根市。神奈川県西部に位置し、足柄下郡に属している町。古くから温泉地として有名な街。カルデラ湖の芦ノ湖や箱根駅伝の通り道として、昔は観光客で賑わっていたが、アビスが出てきてからは今ではその影はすっかりない。
「やはり、というべきだろうが……人一人もおらんのう……」
「本当に、今からアビス大侵攻が始まるんだっていう気持ちが高まりますね……」
緊張した面立ちで、ゴクリと生唾を飲む樹莉とエレナ。彼女達のギルドメンバーも、真剣な顔をしている。
神奈川の空に浮かぶ、大量の軍用ヘリ。一台に二十人以上乗れるほどの大きさのヘリが神奈川の空を埋めつくしている。
「………それで、なんで俺はこのヘリに乗ってるんですかねお二人さん……」
後ろからの声に笑顔で振り向く2人。
「そりゃそうじゃ。儂たちはお主に会いにわざわざ瑠璃学園まで早めにやってきたと言うのに………」
「肝心の裕樹さんは、ジャガーノートの整備や、ご自身のお姫様の訓練ばっかり……少し寂しかったんですよ?」
「あなた達お部屋に突貫してきたでしょうが……」
一昨日の夜。急にドアがノックされたと思ったら、誰から部屋を教えてもらったのか、樹莉とエレナが笑顔でそこにたっており、徹夜で人生ゲームをする羽目になってしまった。
「それで、花火様に融通を聞かせてもらったのじゃ。反対意見が多かったが、そこは何とかしたのじゃ!」
「……………………」
あれ?これってもしかしてこの人達の独断なの?と思ったが、まぁ聖百合花女学院は、瑠璃学園以上のお嬢様学園と聞いている。そんな強行手段をとるなんて、ありえないだろうと思っていたが………。
「まぁ花火様から裕樹様に話へ行く前に拉致らせて頂いたんですが……」
「やっぱりそうだったか!?」
ーーーおかしいと思ったんだよ!出発前一時間前位に呼ばれたのが!
「意外とアグレッシブなんだな……お嬢様ってのは……」
「安心せい。普段は儂らもお嬢様なのじゃ」
「そうですよ。お話しましょうお話。私、まだまだ裕樹様と喋り足りないのです」
ちなみにだが、この2人が裕樹を連れ出す五分後に、花火は裕樹の部屋を訪れていた。
樹莉とエレナから、裕樹を私達のヘリの方に載せて欲しいとの要望に、バッサリと真っ二つに斬らせて頂いたハミングバード一同。
しかし、去っていったのはいいが、あの目は全然諦めていない目だ。そう思った花火は、あの二人が来る前に既に裕樹を確保しとこうと動いたが………。
「裕樹くん!あの二人が来る前に、さっさとこの部屋をーーーー」
既に、裕樹の部屋はもぬけの殻。床には、これみよがしに置かれた、差出人なんて見なくてもわかる紙が。
『裕樹殿は頂いたのじゃ!』
「あんののじゃロリーーーー!!!」
と、言うことがあったのだが、それは裕樹の隣部屋の神楽しか知らない。
「はぁ……まぁもう出発したから何も言わないけど、後で花火先輩に謝りましょうね?」
「う、うむ……分かったのじゃ」
「はい、話もひと段落した所で……:人生ゲーム、やりませんか?」
と、どっから取り出したと言いたくなるほどの大きさのボードゲームを再び取りだしたエレナ。
「……いや、だからなんで人生ゲームなの?」
「………?楽しいですよ?」
「いや、知ってるけど……」
「今、聖百合花女学院には、謎の人生ゲームブームが来ているのじゃ。ほれ、誰かあと一人来るか?三人じゃ中途半端での」
「え?俺強制参加なの?」
「当たり前です裕樹様。夫婦の力、見せてあげましょう」
「待って。それこの前の人生ゲームでの話だから。誤解生む発言しないでエレナ」
「今回こそ、裕樹殿にプロポーズするのじゃ!」
「だから人生ゲームの話だからね!?」
結局その後、セクメトのメンバーの一人が、始まったじゃんけん大会を勝ち上がり、四人で人生ゲームを始めた。
その結果は、その場に居合わせたメンバーしか知らない………。
一つ、言えることがあるならば、まぁとてつもなく裕樹が精神的に疲れたと言っておこう……。




