準備期間ーーー④
無事に訓練も終わり、終わったら個人ラボに来るようにと裕樹から言われていたので、学園地下4階を目指す一同。
ギフト発動による疲れも、少ししたらすぐに無くなり、しっかと自分の足で立って歩いている菜々。ひとえに、もうあんな恥ずかしい思いはしないという、一か月前の反省をしっかりと生かし、トレーニングを続けていたからだ。
やがて、小鳥遊裕樹と名前の書かれた部屋の前にたどり着いた一同。コンコンコンとノックを三回し、扉を開いた。
「お師匠様、無事に終わりましたーーーって死んでるーー!?」
扉を開けた瞬間、目に入ったのはジャガーノート整備機械に体を預けている椎菜と、机に思いっきり倒れている裕樹の姿だった。
「し……しんでない、ギリギリ生きてる……」
「はい……生きているのが不思議なくらいに働きました……」
「だ、大丈夫ですか!?お師匠様!椎菜さん!」
「ごめん、ぜんっぜん大丈夫じゃないから、話はこの体制でいいか……?もう普通に座るのもクソきつい………」
だらーん、と両腕を投げ出し、普段聞かないような言葉に一瞬だけ菜々の口角が引きつったが、すぐに頷いた。
「疲れてるなら、それでも大丈夫です!お師匠様!」
「ありがとう、朝凪さん……と言っても、要はすぐに終わるんだけど……」
と、裕樹は言うと、だらーんと投げ出している右手をプルプル震えさせながら、ジャガーノート整備機械の方を指さした。
そこには、椎菜がだらーんと寝転がっているが、その後ろには、一振のジャガーノートがある。
「そのジャガーノートがどうかしましたか?今まで見たことがないジャガーノートですけども……」
学園にいるヒロインが使っているジャガーノートなら全て頭の中に入っているアンナが、そこジャガーノートを見て、首を傾げる。
色は、菜々と同じ濡羽色の等身に、コア部分はオニキス色。剣型ではあるのだが、一般の剣型よりも少々刀身が短く、幅が狭い。
「まぁそうだろうな……朝凪さん、それあげる」
「……………え!?」
突然のことに菜々が声を上げる。
「俺特製ジャガーノート、『クラウ・ソラス』だ。遠慮なく使ってくれ」
少し回復したのか、何とか机から頭を上げて、椅子に寄りかかった体勢になった裕樹。ゆっくりと振り返ると、全員が驚いた顔していた。アデルは無表情だったが。
「………アンナさん、私が新人ヒロインだから知らないんでしょうか……ジャガーノーって一人で作れるんですか?」
「普通は無理ですわ。なんのためにジャガーノート製造会社があると思ってるんですの……?」
「相変わらず、裕樹くん凄い……」
「私は慣れた」
「裕樹くんですからね……この際、納得する時は『裕樹くんだから』でいいと思うんです、私………」
「…………とりあえず朝凪さん。それ持ってみてよ」
先程の椎菜のセリフに色々と突っ込みたかった裕樹だが、今はそんな元気ないので、菜々に持つように促すが、菜々は戸惑っていて中々クラウ・ソラスを持とうとしない。
「………朝凪さん?」
中々持たない菜々に、声をかけると、おずおずとした感じで菜々は裕樹に聞いた。
「……あの、本当に私が使っていいんですか?」
「………逆に使ってくれないと、今この俺の疲れが全て無駄になるんだが……」
あまり意図した言い回しでは無いが、優しい菜々にはその言葉にグサッ、と胸を貫かれた。
「そ、それではありがたく使わせていただきます………」
緊張からか、プルプルと震えた手で恐る恐るジャガーノートへ手を伸ばしていく菜々。柄に触れると、コア部分に紋章が浮かび上がると、菜々のから急激な何かが吸われていくような感覚に陥った。
「お、おおお師匠様!?」
「安心して、特に害はないから」
と、裕樹に言われた瞬間、吸われていく感覚が急に弱くなり、集中しないと気づけない程度になる。
「そのジャガーノートは、会社が作る万人から個人専用になるのではなくて、最初から朝凪さん専用のジャガーノートだ」
本来、ジャガーノートというものは、『ケラウノス』や『レッドグレイヴ』のような企業がつくり、それをヒロインに提供した後に、そのジャガーノートがヒロインの魔力を覚えていってから、そのヒロイン専用のジャガーノートとなっていくのだが、今回裕樹が一ヶ月かけて自ら手がけたジャガーノートは、最初から菜々のために作ったもの。
菜々が使っていた初心者用ジャガーノート『ロンギヌス』のデータを逐一更新していき、二週間まえにそのロンギヌスが完全に菜々専用のジャガーノートとなった数値と、魔力をデータ状にしてコピー。後は菜々の成長速度を加味しての細かな調整を行えば、それは完全に菜々専用となる。
「有意義に使ってくれ。それは、君と一緒に成長する、生きたジャガーノートだ」




