準備期間ーーー③
今現在、判明している祐樹のルナティックレッドアイズ含めて30ほどのギフトの中でも、特にその全容が分かっていないのが、共鳴系であり、菜々が持っているカリスマ。
味方のジャガーノートや、ヒロインとしての能力や、ギフトの効果を高める……ということは分かってはいるのだが、実際には人によって色々と違うため、似たような波長のものは全て『カリスマ』と分類している。
中々希少性も高いことから研究も進んでいないこともあり、全世界でのカリスマ持ちが発覚しているのは、菜々を含め100人程度。学校に一人いるかいないかの確率である。
「カリスマは、一人一人色々とできることが異なりますが、根幹な部分は変わりません。まず、私達を強化することをから始めましょう」
「はい!」
とは言うものの、どうすれば発動できるかなんて分かりはしないーーーので、先程アンナがやっていたように声に出してみることにした。
「え、ええっと……『か、カリスマ』!」
……………………………………。
「ふぇぇ……何も起きないよぅ……」
「ま、まぁ菜々さん。最初ですから仕方ないですわ」
「そうだよ!私も最初はそんな感じだったから!」
「私は一発でせいーーーー」
「アデル様は一旦お口チャックですわ!」
「ーーームゴゴ」
折角二人して励ましていたのにアデルが余計なことを言いそうになったので、アンナが急いでアデルの口を塞いだ。
「そういうのじゃなくて、もっと菜々さんの励ましになることか、アドバイスをくださいまし!」
「………分かった。アドバイスなら」
と、小声で話し合うアンナとアデル。こくんと頷いたアデルを信じて、アンナはアデルを解放する。
「菜々」
「アデル様……」
「ギフトは、ヒロインの生き様の表れだとも言われている。だから、自分と向かい合って、焦らないで」
と、確かにアドバイスを口にしたアデル。ふむふむと頷いた菜々は、アデルの教えに従い、ゆっくりと目を閉じた。
―――生き様?私の生き様・・・。
朝凪菜々という少女は、自身にヒロインの適性があるということを知るまで、ただ普通の、そこら辺にいる平凡な少女だ。比較的、アビスの被害の少ない、静岡の山に囲まれた村に生まれ、15歳までの人生を歩んできた。
「え?ヒロインの適性審査?」
「そう!菜々ちゃん!一緒に行かない?」
当時、仲の良かった友達に誘われ、無料で受けられるヒロイン適性。たまたま近くに来ていたので、付き添い的な感じで行ったのだが―――――まさかの適性あり。
それも、かなりのシンクロ率の高さだったのか、当時の職員が慌てていたのをよく覚えている。
それから、あれよこれよと流され、瑠璃学園の戸をたたいた。
「あなたもヒロインですの?よろしくお願いいたしますわ」
最初に出会ったのはアンナだ。校門で右往左往していたのを発見され、人懐っこい笑顔で声をかけられたのを覚えている。
「袖振り合うもなんとやら・・菜々さん。これからお互いに頑張りましょう!}
「は、はい!」
「フフッ。いい返事ですわ」
そして、そこから怒涛のように、平凡だった少女の日常は変わった。普段はおバカだが、ジャガーノートを持つと性格が変わったかのように冷静で、冴える梨々花。無表情だが、どこか優しい気配のするアデル。何かと気にかけてくれる椎菜に、瑠璃学園最強とも言われるギルドに所属しているカタリナ。
そしてーーーーーーー
ーーーお師匠様。
祐樹。入学式初日に背中で守られ、その姿に憧れたイレギュラー。
アビスかもしれない?人間じゃない?そんなもの、この少女にとってはどうでもいい事だ。
今はただ、憧れに追いつくためにーーーー。
「……っ、これは……」
「成功、だね」
菜々の体から、ほんのりとだが光り輝き、その光が空気に乗ってアンナ達に届く。
しかし、それも一瞬のこと。
「ーーーっ、はふぅー……」
大きく息を吐くと、へろへろへろ~と地面に倒れ落ちた。
「……ま、最初はそんな感じですわね。私も、最初は色々と見えすぎて困ったものです」
「私も、壁にぶつかるなんてしょっちゅう」
「後はギフトになれるだけだから。頑張ろうね!菜々ちゃん!」
「は、はい~……」
いつもは元気な菜々も、この時ばかりは声に心が通ってなかった。
「……それでですが菜々さん。発動のキーは分かりましたの?」
「あ、うん……皆の姿を思い浮かべて、皆の力になりないなぁ~とか、お師匠様のように~とか思ってたら、こう、胸の奥が暖かくなって」
「わぁ!ありがとう!菜々ちゃん!」
と、その言葉に嬉しくなった梨々花が抱きついた。
「え、あの!今、私こうして座っているのも中々限界でーーーーむきゅ!?」
容赦なく抱きつかれた菜々は、梨々花と一緒に倒れた。




