作戦会議ーーー①
次の日の放課後、全ギルドリーダーに対し、緊急招集の通達が出た。中等部高等部合わせて50を超えるギルドがあり、高等部で30近く。中等部で20個ほど。
しかし、中等部に関してはギルドでも一定の実績を上げたギルドリーダーしか呼んでいないため、中等部の生徒は五人程度の、計36名の生徒が会議室へと集まった。
各々が好きな席に座り、雑談を始めるが、その顔は皆真剣な顔付きだ。
会議室の後ろから全体を眺めている祐樹の隣に、見慣れた人影が目に入った。
「お隣、失礼するわね」
「花火先輩」
新名花火。瑠璃学園最強ギルド、ハミングバードのギルドリーダーである。
三人がけの机の、右隣に座る花火。いつもなら、祐樹が先輩と呼ぶとお姉様と呼べと注意するのだが、今回はなかった。
「祐樹くんは、なんで今日呼ばれたか知ってる? ………と言っても、私ももう何となくは予想ついてるんだけど」
「それじゃあ、答え合わせ、してみます?」
うーん、と花火は言うと、周りをキョロキョロと見渡し始めた。
「まず、この人数だから大型一体という線はないし、そのぐらいなら私たちの『ヒロインズ・チェイン』でどんなアビスだろうと一撃ね」
「それは頼もしいことで」
「だから、おおよそ侵攻じゃないかなーってお姉さん思うんだけど」
「流石ですね。ほとんど正解です」
祐樹たちの会話を聞いている者はいない。一部の生徒は祐樹達を見ているが、少し気になっている程度だ。
「危険度Bクラスの大量のアビスと、SSのーーーー恐らく、ホエール型のアビスだと思います」
「へぇ……ホエール型……それは分析?」
「いえ、俺のアビスとしての《《勘》》です」
鯨型。世界最大の哺乳類である鯨がアビス化したもので、姿は多種に渡る。
まんま鯨の姿のままのアビスだっているし、機械型の鯨だっているし………なんなら明らかに鯨でもないのにホエール型と呼んでいる個体もある。
祐樹は、忙しなくチリチリ感じ取れる首筋に手を当てながらも、今この瞬間にも、少しでも優位にたとうと同胞達の情報を得ている。
「……あんまり、無理しないでね」
「いえ、この程度」
と言っても、いつもと同じように返す祐樹に、全くもう……と呟いた花火。
「祐樹さん、お隣……よろしいですか?」
次に左から聞こえたのは、唯一、一年生のみのギルドである『アルフヘイム』のリーダー加藤沙綾。
「いいよ、座っても……でもごめんな。あまり話は出来ないかも」
「どうしてーーーとは、聞かなくてもいいですね。大丈夫です。私は祐樹さんの隣にいたいだけなので」
と、言うと気持ち祐樹に近づいて椅子に座った。
「花火様。まだ来てないギルドリーダーは何名くらいでしょうか?」
「んー……私も全てを把握しているという訳でもないから……えと、ひぃふぅ……」
祐樹を挟んで会話をする沙綾と花火。それに耳を傾けながらも、祐樹を情報の捜索をする。
大きさは分かる。危険度も首筋に伝わってくる感覚でわかるが……如何せん、どのくらいの規模かどうかが分からない。
何せ、相手は難易度SS級。1つの学園が総力を上げても、ジャガーノート半壊以上は免れない危険な相手である。
討伐に失敗すれば、アビス達は神奈川を拠点に本土へ侵攻してしまう。それだけは避けなければならない、必須事項だ。
ーーーもっと。もっと深く、意識をアビスに向けて。
「祐樹さんっ」
「っ」
肩を叩かれ、思考の渦から戻った祐樹。隣をむくと、予想以上に距離が近い沙綾と目が合った。
「祐樹さん、もう会議が始まります。学園長と生徒会長達が立ってます」
「あ、あぁ……ありがとう、沙綾」
「いえ、お構いなく」
とりあえず、一旦情報のことを後回しにして、祐樹はこれから会議に意識を向ける。
「それではこれから、緊急会議を行う。美結、頼んだ」
「分かりました」
美冴が、美結へ目配せすると、部屋の電気が暗くなり、後ろの電子黒板に神奈川県地図が現れる。
「一週間後、再びこの日本にアビスの大侵攻が行われると察知した。日本最大の悪夢、練馬区崩壊事件から五年の時が経った」
無意識のうちに、腕を組んでいた祐樹に力が入る。
練馬区崩壊事件。またの名を日本最大の悪夢。
死者80万人、行方不明者5万人以上もの被害を出し、練馬区周辺を焦土に変えた悪夢の日である。
この事件で、東京の半分は人が住めない土地となってしまった。なぜ練馬区なのかは、侵攻の始まりが練馬区だったからである。
あまりの大規模に、瑠璃学園含む、三つの学園が練馬区へ赴いたが、ヒロインの方も被害は甚大。死者こそ出なかったものの、八割はジャガーノートは全壊し、しかも親玉のアビスは取り逃がすという事態だった。
「我々は、あの日の悪夢を繰り返す訳には行かない。既に、神奈川県全域に政府からの避難命令は発令され、現在大慌てで神奈川県民は各地に避難しているだろう。更に、他の学園にも声をかけておいたので、総勢1000人以上のヒロインが揃う、大規模な迎撃作戦となる」
その言葉に、会議室がヒソヒソと少しざわつく。
「静粛に。これより、その学園ともテレビ通話を繋げる」




