戦闘訓練ーーー①
ギフト。それは、ヒロインに宿った特殊能力のようなもの。
例えば、未来を少し見通せるようになるとか、遠くのものが見えるようになるとかそんな感じである。
しかし、ギフトがあるからと言って、全員が全員、戦闘に向いている訳では無い。そのための後方科があるのだ。
ギフトの種類には、大きくわけて四つの能力がある。
『知覚系』『放出系』『共鳴系』『強化系』の四つ。
知覚系は、主にギフトが目に宿り、遠くまで見通せたり、未来を見通せたり系な能力のこと。
放出系は、魔力を圧縮し、それを攻撃方法に変えることのできる能力のこと。
共鳴系は、他人のギフト能力を強化したり、ジャガーノートを強化したりする系である。天秤の御剣もこれに当たる。
強化系は、ジャガーノートとヒロインのシンクロ率を強制的に引き上げ、自身のみを強化することの出来る能力である。
椎奈のギフトは強化系の『アクセレラシオン』という、思考能力を加速させる能力。
アンナは知覚系の『脆弱を測る目』という、アビスの弱点を正確に見抜けるという能力。
梨々花は放出系の『バースト』という、ジャガーノートに溜まっている魔力を放出し、弾丸よりも強力なビームを出すことができる。
ヒロインの魔力は一人一人違うが、ギフトの効果は同じで同じギフト持ちは何人もいる。
ヒロインに備えられているギフトは基本的に一人一つ。ごく稀に、デュアルギフトと呼ばれる、ギフトを二つ持つヒロインが現れることがある。
「へー、それじゃあ、私のギフトってなんですかね?」
「分かるのは、まだ後ですわ。工作科に行って、色々と検査をすれば分かります。後で一緒に行きましょうか」
「ありがとうございます!」
話していると、ブザーの音が鳴り響き、フィールドを覆っていた格子が地面の中に身を隠すと、中から無傷の沙綾と、粉々に粉砕された人工アビスが出てきた。
「……ありゃりゃ」
これ、後で真奈戦闘荒れるなぁ……と人工アビスの残骸を見て思う裕樹。こういったのは、基本的に多才な真奈が作っており、色々と人工的に(遊びで)作っているのだが、何故か作った物への愛着がすごい。
「……あの」
「……ん?どうした?朝凪さん」
いつの間にか隣に座っていた菜々に声をかけられ、目と目が合う。
「あの、小鳥遊さんにギフトってあるんですか?」
ヒロイン全員に、ギフトが備わっているのは事実。ならば、男でありながらヒロインである裕樹にあるのかどうかは気になることだろう。
「…………『ルナティックレッドアイズ』」
「……へ?」
「こんなギフト。あってはならないものだ」
行ってくる。といい、裕樹は立ち上がり、フィールドへと歩き始めた。
そんな菜々は、何かいけないものを聞いたのか、と不安な様子で後ろにいるアンナ達を見つめる。
「仕方ないですわ。気になるというのは必然のこと、特にあなたが気にする必要はありませんし、裕樹様も、怒っているという訳ではありません」
と、先程まで裕樹がいた場所にアンナが座り、菜々の頭を撫で始める。
「そう、ただーーーーー私達も、裕樹くんも、あの力が嫌いなだけ」
「えぇ。裕樹くんをあんなふうにしてしまうアレは、出てこない方がいいんです」
「お疲れ様です。裕樹さん」
「沙綾」
逃げるように、歩いてきた裕樹を出迎えたのは、先程アビスを粉々にしていた加藤沙綾だ。
水色のショートカットヘアーに、翡翠色の瞳に、少しだけ幼さを残したような顔は、可愛いという言葉がとても似合う。
右手に千将、左手に莫邪の二刀流スタイルで戦う少女だ。
「お疲れ様は、俺よりも沙綾に言うべき言葉だろう。相変わらず、踊るように綺麗に戦っていたな」
「そんな…褒めても、私の所属するギルドに入れることしか出来ませんよ?」
「ははっ……遠慮しておこうかな」
沙綾は、全員が一年生のみのギルド『アルフヘイム』というギルドを作っており、人数は11人。残りの一枠には裕樹を入れたがり、ハミングバード同様、積極的にーーーーというより、同年代である強みを最大限活かして、こうして隙さえあれば勧誘をしている。
「……もう。どうしてそんなに頑なに拒むんですか?」
「いや、俺が入っても迷惑だろ」
「そんなわけないです。迷惑なら皆さん裕樹さんを積極的に勧誘なんてしませんよ」
アルフヘイムは、中等部の頃から存在しているギルドで、結成当初から裕樹の事は積極的に勧誘していた。
「それに、俺は性質上、個人的に動き回った方がいい」
「そ、それでも!私たちは裕樹さんと一緒に居たくてーーーー」
「ありがとう」
「…………ふぇ?」
裕樹は、沙綾の頭に手を置いて撫で始める。
「いつもありがとう、沙綾。こうして、沙綾達が嬉しいことを言ってくれるから、俺はーーーー」
ーーー俺は、俺の心は壊れないでいられるんだ。




