波乱の入学式ーーー④
「ごめんなさい。まさか1mもあるあの壁を破壊するとは思わなくって」
この瑠璃学園には、三つの科がある。1つは、大部分の生徒が属し、主にアビスとの戦いの時に最前線を走る強襲科。
次に、ジャガーノートの修理や、作成、開発、又はジャガーノートを作ってる会社との交渉を行う工作科。
最後に、戦闘向きではなく、サポート向きのギフトを持っているヒロインが属する後方科。
菜々達が待機している部屋に入った、桃色の髪の少女ーーー高島真奈は工作科に所属する生徒である。
「今回のアビスによる被害はどんな感じでしたか?」
「ジャガーノート半壊が3人。全壊が2人。怪我人ゼロって所かな……まぁでも、危険度A-でこの被害は少ない方さ」
普通ならば、危険度A-を相手取る際に、被害を減らすために、短期決戦を行い、ギルド最大の攻撃である『ヒロインズ・チェイン』という、ジャガーノートの耐久力と魔力を著しく消耗させる諸刃の剣がある。
その時に、ジャガーノート半壊が必ず半分は超え、最悪全員が半壊状態も有り得るため、確かにその結果から見れば上々だ。
「所でアデルー。ティルヴィングの調子はどうだった?」
「文句なし。流石いい腕をしてる」
「あっはー!学園最強とも言われるアデルにこんなに言って貰えて私は嬉しいよー!!」
ガバッ!とアデルに抱きつき、頬をすりすりとさせる真奈。アデルの方も特に抵抗しないでボーッとしている。
「…えと、アデル様が学園最強……?」
もちろん、そんなことを知らない菜々は、隣にいたアンナに聞いてみた。
「えぇ。アデル様の並外れた身体能力と、特別なギフト。一人で何体ものアビスをバッタバッタ倒しますから、『瑠璃学園にアデル有り』と、エル・ドラドでは有名ですわよ?」
しかし、何故かアンナはどこか不機嫌そうだった。
「個人的には祐樹様をもっとも強く押したいのですけれど」
「祐樹君はエル・ドラドでも危険人物扱いをされてるからね。仕方ないといえば仕方ないさ」
アデルの頭を撫でながら話を聞いていた真奈は言う。
「実際、一度祐樹君を殺せー!っていう命令が全ヒロインに対して強制的に出そうとしてたんだよー」
「そ、そんなの無茶苦茶ですよ!」
「そう。無茶苦茶。だから、ウチの学園長がそれを全力で止めたんだ」
二年前、一度祐樹が暴走しそうになり、瑠璃学園の生徒が祐樹を助けるために三分の一が怪我をしたという事件があり、それを知ったエル・ドラドが、祐樹討伐命令を出す一歩手前まで行ったのだが、そこに瑠璃学園学園長が乗り込んで、中止にさせたのだと言う。
「あの子はいい子だから。殺すのはすごく勿体ないよ……さて、少ししんみりしちゃったけど、そろそろ祐樹君のことを迎えに行こうか!丁度、向こうも終わった頃だと思うしね」
重い空気を吹き飛ばすかのように、真奈は元気な声をあげる。
「あ、そうそうカタリナ。早く行けば神楽姉様に会えるぞ」
「神楽様に!?」
「ヘブっ!?」
神楽の名前が出た瞬間、前にいたアンナを押しのけ、真奈へ詰寄るカタリナ。
「……あの、どうしてあんなにキラキラしてるんですか?」
と、小声で今度は逆の隣にいた椎菜へと聞く。アンナは先程突き飛ばされ、話を聞ける状態ではない。
「カタリナさんは、三年生にいる七瀬神楽さんっていうヒロインに憧れて、この瑠璃学園に入ってるんです……そして、カタリナさんが祐樹くんを虐めていた原因にもなる人です」
「んぐふっ!?」
小声で話していたはずなのに、キッチリと黒歴史を拾ったカタリナは胸を抑えた。
「ぐっ……ようやく落ち着いたと思っていたのに、この仕打ちですか、椎菜さん……」
「さて、なんのことでしょう」
この子、意外と根に持ちますわね……と呟いたカタリナ。
「ほーら、遊んでないで早く着替えていくよ!このままだと祐樹くんが神楽姉様に取られちゃうけどいいの!」
「取られるってなんですの!?」
復活したアンナが突っ込んだ。
「………楽しそうだね、祐樹」
「………そだね」
先に何もかも準備が終わったので、菜々達を迎えに来た祐樹達。祐樹が来たことに雄一外にいた真奈が気づくと、祐樹くんが来たぞ!と部屋の中に向かって言うと、何故か検査服を着たままの菜々がダッシュで出てきた。
そして、そのまま祐樹の手を両手で掴んで一言ーーーー
「私!絶対に小鳥遊さんのこと嫌いになりませんから!!」
「……? お、おう……?」
と、大声で宣言した。
「………とりあえず、その格好じゃ今の季節少し肌寒いから、早く制服着ておいで、朝凪さん」
「ちょっと菜々さん!制服も着ないで何してますのよー!!」
「わわっ!ごめんなさーい!!」
そして部屋の中から聞こえるアンナの声に顔を赤くして部屋に戻った菜々。扉が閉まり、上には着替え中の電子文字が浮かんだ。
「ははっ。中々面白いやつが入ってきてるな、祐樹くん」
「……まぁ、そうっすね」
『私!絶対に小鳥遊さんのこと嫌いになりませんから!!』
「…………」
祐樹は、無意識のうちにその言葉を反芻し、先程握られた手を見ていた。
「……おや?なんだか嬉しそうだね、祐樹」
「……え? そうでした?」
「フっ。何年貴方と一緒にいると思っているのかな?」
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