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龍介くんの日常  作者: 桐生初
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龍介くん真実を知る

卒業式前の日曜日、龍介は竜朗に連れられて高輪にある真行寺の家に行った。


「うわあ、凄え家…。」


真行寺の家は邸宅というのが相応しい様な、立派な洋館だった。


「だろ?結構古いお屋敷なんだぜ?じゃ、入ろうか。」


呼び鈴を押すと、暫くして真行寺が出てきたが、龍介の顔を見るなり、酷く慌て始めてしまった。


「たっ、竜朗!?今日だったか!?」


「はい…。あ、不味かったですか?オネエちゃん来てるとか!?」


「い、いや、今日はオネエちゃんは来て無いんだが、参ったな…。ううーん、と、取り敢えずここで待っていてくれ。」


ーオネエちゃん?


ポカンとしている龍介に踵を返し、走りだそうとした真行寺の真正面から、背の高い男性がバーボンの瓶を片手に真行寺に向かって話しかけながら歩いて来た。

真行寺は後ろ姿を見るだけでも焦っているのが分かる。


「親父ー、これ飲んでいいのー?」


「うわああ!出て来るなああ!」


真行寺は玄関にあった花瓶を投げつけた。

ご老人とは思えない勢いで花瓶は立ててあるまま飛んで行き、男性が顔の前でバシッとそのまま受け取った。


「息子に向かって出て来るなとはなんだあ?」


男性が花瓶を下げた。

その顔を見て今度は竜朗が目を剥き、真行寺は慌てて、竜朗達の視界を遮る。

男性は顔を出して、来客を見ようとし、さながら2人はEXILEのダンスの様になっている。


ーなんつー年齢層の高いEXILE…。


龍介がそんな事を思っている横で、竜朗は珍しく焦った口調で叫んだ。


「たっちゃん…?たっちゃんじゃないんですか!?顧問!」


「顧問は今はお前だ!」


真行寺、焦るあまり、どうでもいい事を口走っている。

竜朗の声を聞き、今度は男性が焦った様に叫んだ。


「お義父さん!?なんで!?」


「やっぱたっちゃんだ!顧問!これは一体どういう事なんです!?」


「ああああー!!!もう仕方ない!龍彦!出て来なさい!」


出て来なさいも何も、真行寺が隠していたのだが。


男性が、申し訳なさそうに出て来て、竜朗に頭を下げた。


「生きてたのかい…。たっちゃん…。」


「ーはい…。生きているのが知られたら、しずかもうちのチームのメンバーも危険だったので、CIAの方に移籍してました…。」


「なんでもっと早く言ってくんなかったんだい…。」


「申し訳ない、竜朗。騙していたつもりは無いんだが、袁がなかなか見つからなくてね…。袁が見つかるまでは龍彦が生きていると知れたら、関係者に何をされるか分からん。結局、袁が見つかったのは数年前だったから、もう出て来ない方がいいだろうという事になってね…。」


龍介一人、訳が分からず、ポカンとなっているのに気が付き、今度は竜朗まで慌て始め、大人3人は円になってブツブツ言い始めた。


「竜朗、龍介君には何も話してないんだろ?」


「ええ…。」


「俺はいいんです。今更家庭を壊す気はありません。だから死んだ事にしといたんですから。」


「それじゃダメだよ。しずかちゃんどうすんだい。しずかちゃんはな、ずっとたっちゃんは生きてるって言ってたんだ。それを俺たちがあの焼死体見ただろって説得しちまって…。今だって言いはしねえが心ん中でそう思ってる。時々泣いてるもん…。ほんと申し訳ねえよ…。どうしよ、俺…。」


「それで良かったんです。生きてるの前提で暮らされてたら危なかったんですから。」


「竜朗、しずかちゃんの事はまた後で話そう。取り敢えず、龍介君だ。」


「この際だから全部話しましょう。たっちゃんをこれ以上1人ぼっちで辛い目に遭わせる訳にいかねえ。」


「いや、それはどうなんだ。加納一佐と最近は親子関係も上手く行ってるんだろ?それにショックが大き過ぎるよ。」


3人がハッと気付くと、龍介は直ぐ近くで、耳をそばだてていた。

3人と目が合うと、龍介は龍彦と呼ばれた自分とよく似た顔立ちの男性見つめて聞いた。


「あの…。貴方、時々俺の事見てませんでした?」


「えっ!?」


「うちの中も覗いて、母さん見てた事あるでしょう?ポチが俺と勘違いして出たら居なくなっちゃったけど…。」


「見…見られてたの!?俺!」


「いえ。気配が同じです。」


「だから気を付けて見に行けって言ったろう!?」


怒る真行寺に、頭を抱える龍彦。


「うわあ…。バレてたのかよ…。参ったな…。」


「やっぱ俺言う!」


竜朗が龍介を振り返り、真剣な顔で言いかけると、真行寺と龍彦が全力で竜朗押さえ込み、竜朗は2人に上から乗られ、ひしゃげたのかと思いきや、腕を突っ張り、2人を跳ね飛ばして叫んだ。


「龍!この人はおめえの本当の父ちゃんだ!」


龍介は大きな目を更に見開き、暫くした後、絶叫の様に叫んだ。


「ええええー!?嘘おおおー!!なんだそれはー!!」


真行寺は唸った後、龍彦の肩をポンと叩いた。


「じゃあ、龍彦から説明しなさい。私はお茶の用意をして来よう。」


「お、親父!?お茶ならメイドさんに頼みゃあいいだろ!?」


「いや!私が!」


「逃げんのか、親父いー!」


「逃げてなどおらんわああー!」


と言いながら、逃げているとしか思えない走りっぷりで行ってしまった。


「全くもう…。じゃあ、向こうで話そう…。お義父さんも…。」




龍彦に付いて行き、アンティークの様な素敵な家具で整えられた応接室らしき部屋に入ると、龍彦は龍介を真剣な目で見つめて話し始めた。


「俺は、しずかが加納一佐と結婚する前に結婚してたんだ。それで…。」


言葉を切り、竜朗を見る。


「あの、この子はどこまで知ってるんですか。」


「ああ、そうだよな。龍太郎のやってる事、その目的は全部知ってる。俺達の事は、その秘密を国内外から守る組織だっての位だ…。じゃあ、たっちゃんが死ぬ事になるまでは、俺から話すわ。でいいかい?」


「はい。お願いします。」


「あのな、龍。

俺達は主に国内で守ってる。

たっちゃんが居た外務省の特別組織は、国外から守ってるんだ。

だから外交官として大使館のある国に居て、情報収集したりして、情報が漏れねえ様に監視してくれてる。

その仕事をしずかちゃんとしててな。

で、チームを持ってやってたんだが、そのチームを持つ前の研修中に、たっちゃんが研修で入ってたチームのリーダーがポカやっちまって、極悪人の重要人物を尋問中に逃しちまった。

その重要人物はこっちに寝返ったと思われて国にも帰れねえし、全財産凍結されて、何処にも行く所がなくなったってんで、逆恨みしたんだろうな。

たっちゃんがチーム持ってから大分経ってから、その研修中に居たチームのリーダーに始まって、メンバーが次々に殺されるって事が起き出した。

犯人はその男、袁て奴だ。

袁を必死に探したが見つからねえ。

何せ袁の復讐ってのは酷くてな。

ターゲットが本人達だけじゃねえんだ。

チーム持ってる人間は、チームのメンバーまで一緒に殺しやがった。

家族もな。

潜伏してた間に準備資金貯めこんでたんだか、パトロンみつけたんだか分かんねえが、軍隊みてえなの使ってな。

で、その矢先、たっちゃんは1人で車に乗り込んだ所で、爆弾がドッカン。

焼死体で見つかった。

たっちゃんが真っ先に死んだ事で、他のメンバーに手え出しても、たっちゃんは苦しめられねえからなのか、袁はそれで消えちまって、たっちゃんのチームは解散。

で、しずかちゃんのお腹の中にはこのたっちゃんの子、つまり龍が居た。

そんで、1人で産んで育てるって言うしずかちゃんが心配で、龍太郎が結婚を申し込み、俺も勧めちまって、現在に至ると。

て、俺が知ってるのはここまでだ。」


龍彦が後を続けた。


「多分、袁が他の人のチームメンバーや家族まで殺したのは、本人を苦しめる為だと、俺も思ったんだ。

必ず本人は最後に殺されていたからね。

だから、袁が見つからない以上、俺が死んだと思わせるしかないと、父と叔父とその時のこっちのトップの人と相談して、しずかの車に仕掛けられた爆弾に引っかかるフリをする事にしたんだ。

予め、地下からしずかの車の下に抜け道を作っておいて、俺と同じ体格の死体を用意しておき、車に乗り込んで、下に潜り、遠隔操作でエンジンをかけ、爆発を起こさせ、死んだという事にしたんだ。

そのまま袁を見つける為にも、姿消す為にも、CIAに移籍した。

ところが袁はなかなか見つからなくて…。

見つける前に俺が生きてるのが分かったら、しずかやメンバーが危ないから、君が産まれたのを聞いても、出ても来れなかった。

袁が見つかったのは、6年位前だった。

やっと帰れると思ったんだけど、しずかは双子ちゃんを産んで幸せそうにしてたし、君もとても幸せそうだったから、出るのはやめようと思ってたのに…。

ごめんね…。」


「それは…俺のせいです…。俺が弟か妹が欲しいって言ったから…。」


「違う。君のせいなんかじゃない。当たり前の事だ。」


「ーその袁て人はどうやって見つかったんですか。」


「シェルターっていう、浮浪者の施設に居た。ボケちゃってて、癌が進行してて、俺見ても全く覚えていなかった。恨みで精も根尽き果てて、金も無くなって、惨めに死んで行ったよ。」


「人の人生メチャクチャにしといて…。そんなもんじゃ飽き足りねえな。」


龍介は異様な程冷静だった。

龍彦の話をまるで自分とは関係無い事の様に聞いていた。

あまりの衝撃に、自分とは切り離して考えてしまっているのかもしれない。

心配そうに見つめる2人に気がつくと、龍介は不思議そうな顔をして笑った。


「大丈夫かい…、龍…。」


「うーん…。それが不思議と今の所は…。どっちかっていうと、納得かな。母さんが俺の事見ながら突然泣き出したり、俺が家ん中で誰にも似てなかったり、なのに、誰もそれには触れなかったり。真行寺さんに初めて会った時、真行寺さん、嬉しそうな顔してくれたのに、突然慌てたみたいに無表情になっちゃったのも、俺のお爺ちゃんだって事バレたら大変て思っての事だったのかなとか…。そういう事ならそれも納得が行くかなって…。本当の父親が殺人犯でしたってなら兎も角、そういうんでもないし、寧ろいい人そうだから…。でも…。」


「ん?なんだい。」


「父さん可哀想だね。あんなに母さんが好きなのに。」


「龍太郎なんかいいんだよ。」


龍彦が目を剥いた。


「良かないですよ!?双子ちゃんだっている!」


「んじゃ、たっちゃんこのままでいいのかい。それこそ良くねえだろ。しずかちゃんだって…。」


しずかの名前を出す度に、龍彦は辛そうな顔をした。


「そっとしずかちゃんや龍の事見てたんだろ?本当は一緒に暮らしたい筈だ。つーかそれが当たり前なんだ。兎に角、俺は龍太郎としずかちゃんに話す。」


龍彦が何か言いかけた時、龍彦の携帯が鳴った。


「すみません。相棒からです。」


龍彦は英語で話し始め、お茶を持った真行寺も入って来て、なんとなく全員で電話の会話を聞いてしまっていたが、受け答えが徐々に緊迫した物になって来ると、爺ちゃん2人の顔付きが変わり始めた。


「うん…。それいつだ…。そうか、あんま時間無えな。分かった。有難う。」


電話を切り、早口で告げる。


「アメリカ側の技術者が拉致されました。加納一佐とは顔見知りの人物です。民間人ですから、口を割る可能性は高い。」


「顧問、龍お願いします。」


「分かった。」


立ち上がる竜朗と龍彦を止める様に立ち上がった龍介は真剣な表情で言った。


「つまり父さんが危ないって事だろ?なんで俺置いてくんだよ。」


「龍。」


竜朗も真剣な目をして龍介を見つめ返し、肩に手を置いた。


「今の龍に何が出来んだい。」


そういわれ、龍介は唇を噛み締めた。

子供の中ではあり得ない程色々な事が出来る龍介だが、大人に比べたら何も出来ない子供だ。

竜朗は微笑むと、龍介を大事そうに抱えた。


「龍、俺はね、何よりも誰よりも龍が大事なんだよ。だから大人になるまでは大人しく隠れてろって言ったら、そうしてくれ。な?」


「ーはい…。」


「恥なんかじゃねえのよ?子供なんだから。逃げてるわけでも無え。ここで待機が今龍に出来る1番の仕事だ。分かるかい?」


龍介は龍太郎が言っていた事を思い出した。

龍介を鍛え上げているのは、龍太郎の素性が悪い事をしようとしている国にバレた時、龍介を人質に取るかもしれないからだと。

龍介がくっ付いて行くのは、足手まといでもあるし、その心配まであるという事だ。


「はい…。分かりました…。」


「ん。じゃあ、ちょっと行ってくっから。」


竜朗と龍彦を見送ると、真行寺は龍介の頭を撫でて笑いかけた。


「じゃあ、待ってる間、龍彦の君位の写真でも見ながら、思い出話でも聞くかい。」


気を紛らわそうとしてくれている上、龍彦を知って欲しいという思いも伝わってくる申し出に龍介も笑顔で答えた。


「はい。どんな人なのか教えて下さい。」


「きっと驚くよ。」














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