※スペシャリスト
京都に来た竜軌と美羽。
一芯らと鉢合わせし、そして竜軌は京都に道三の生まれ変わりがいると知る。
血気に逸る竜軌。京洛で、森家兄弟を始め戦国武将たちが動き出す。
京洛は神霊も死霊も生霊も多い。
兵庫は早速、花見小路で芸妓の霊に捕まりそうになった。
「死霊を切りて放てよ梓弓、引き取り給え経の文字」
呪歌を唱えると、霊は淡い光に包まれて消えた。
あとは来世を待つだけである。
前生が陰陽師でもあった荒太に教わることは多い。
彼は闇方面のスペシャリストなのだ。
「ふうん。流石ですねえ。兵庫さん」
「―――――――凛。お前、どこからついてきた」
「旅館出てからずっと尾行してましたー兵庫さん、油断―」
「……大人の色事にがきが首突っ込むんじゃない」
「にしてもお手並み鮮やかでしたね~。荒太様の薫陶の賜物か、ぐええ!」
絞めるようにして凛の首に腕を回し、兵庫は歩き始めた。
『都路里』にでも行って、この生意気な後輩の口を塞ごうという魂胆である。
「荒太様や道三ほどじゃない。道三も呪術は相当やるって聞いた。知ってるだろ?」
「ああ、元々お坊さんでしたっけ?」
「詳しくは知らんが、宗教系だったのは確かだ。昔取った杵柄だな。〝表〟には出回ってなかった情報だが、裏社会じゃ有名な話だ」
「義龍が呪術に詳しかったのもそのへんが理由かな」
「それはどうだか。………親子の交わりなど無きに等しかったようだからな。ただ、この土地は呪術を行うに持って来いの場ではある。特有の磁場が術行為を助ける。道三がここにいるのが果たして偶然か、それとも狙っているのか―――――――」
「となると、荒太様がいないのは痛いですね」
全くだ、と兵庫は胸の内で相槌を打った。
ほぼ同時刻。
伝兵衛は茶室にて、招かれざる客と対峙していた。
茶室の筈が、異様に広い。そして暗い。
伝兵衛の周囲だけがぼう、と明るく闇に浮かんでいる。
鱗家の敷地に一歩、踏み入った襲撃者たちは、次の瞬間、眼前に広がった茶室の異様さに動揺した。
有り得ないことが起きると、人は恐慌状態に陥るしかない。
「ようこそ、お客人方。ここ鱗家で客をもてなすは私の務めにて」
暗色の衣服に身を包み、手に手に刀を携えた男たちを迎えても、伝兵衛は顔色一つ変えず柄杓を持ち端坐している。
「そろそろ当家にもいらっしゃる頃だと思っておりました」
柄杓を縦横に振ると、襲撃者たちが見えない檻に囚われる。
結界術の応用だ。
「お相手致しましょう」
男たちが刀を振りかざしても、目視出来ない壁に阻まれる。
再び、伝兵衛が柄杓を縦横に振った。
見えない檻はますます縮小し、そこここで悲鳴が上がる。
骨が折れ、砕ける音が響いた。
伝兵衛は息一つ乱すことなく端坐したまま、微笑を浮かべる。
糸目よりもっと細められた双眸に宿る静穏な光。
「安心なさい。菩提はまとめて弔うゆえ」
それは観音菩薩の如き微笑だった。




