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違わない

違わない


 昼過ぎ、重い足取りで、それでも竜軌のいる病院にやって来た美羽は、喉が渇いたので院内の売店に向かった。飲み物を飲んで、気持ちを落ち着かせて竜軌と話をしようと考えていた。

 そこで、星に遭遇した。

 赤面しつつ、今しもレジに出そうと彼が手に持つ物。

 三冊のグラビア雑誌。

 美羽を見た星は慌てた顔で言った。

「違うんだ、美羽。これは」

 世の多くの男性は、「違わない」場合にそれを言う。


 そのころ竜軌は珍しく気を抜いていた。

 様々な音に、声に、耳を澄ませる作業も休め、純情な青年が恥を忍んで病院の売店でグラビア雑誌を買って来るのをのんびり待っていた。

 星の来院を察した彼は、蘭たち兄弟には不評な要求を呑む従順な子羊が来たと、実は諸手を挙げて歓迎し、舌なめずりして待っていたのだ。

 美羽の顔すら見られない現状で、竜軌は非常に欲求不満だった。苛々していた鬱憤も、ついでに子羊にぶつけた。

 これで雑誌が手に入れば、星への意地悪とお仕置きも果たせ、一挙両得。だいぶ気も晴れる。

 そして扉は開かれた。

 般若のような形相の美羽が、グラビア雑誌を引っ掴んで立っているのを見た竜軌は、凍りついた。――――――心底、驚愕した。

「美羽」

 それしか言えない。それしか言えない、という時が人にはあるのだ、と竜軌はこの瞬間に学んだ。

 美羽は般若から一転して、にっこりと笑った。

 それはそれは艶やかで、美しい笑顔だった。

 生きるか死ぬかという経験を経たあとの竜軌だが、彼には今がまさに生きるか死ぬかという分かれ目のように思えた。

 唾を飲み、口を開く。

「美羽。それは、違う。…違う。そうではないぞ」

 雑誌をバン、と乱暴にテーブルに叩きつけ、美羽はメモ帳に文字を書き殴る。

〝何が?どう?〟

「だから、蘭が。あいつが見たいと言ったんだ。自分で買うのは恥ずかしいから、渡木に買わせようと。実に男らしくない話だ。俺は、そんなことは良くないぞと言ったんだが」

 聴いてくれなくてな…、と細い声で竜軌は続ける。

 良心の呵責など今の竜軌には犬の餌に等しい。

〝表紙の女性の一人、真白さんに似てるわ。ポーズはとっっても、いやらしいけど〟

「…、」

 首を伸ばして雑誌の表紙を覗こうとし、竜軌はハッとした。

 三冊まとめて雑誌を掴み直した美羽は、それを竜軌の頭上に振り仰いだ。



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