61話 結末を変えたのは私
◇◇◇
結婚生活一年目二か月目――
あれから、色々なことがあった。
ユニバーサル様との対決、封印、その後の後処理――――ロスナイ教会大司教であるゲル様は、ユニバーサル様に操られていた、人形だった。
長い操りから目を覚ましたゲル様は、私達に頭を下げ、今までの行動を謝罪した。
教会は本当に、悩める者達を救うために存在していた。
だけどそれを、ユニバーサル様に目を付けられ乗っ取られ、表向きはゲル様の意向ということにされ、ユニバーサル様の好きなように形を変えた。それが、選ばれた人間しか入れない、聖なる空間を作ることにもなったのだろう。
ゲル様が直接悪いわけではないのに、ゲル様は責任を取り、大司教を辞任し、教会を去った。
影響力が強かったロスナイ教会の失脚に、闇の魔女の存在、そして、ユニバーサル様に操られ、罪を犯してしまった人々がいたことが明らかになり、世界は一時期、騒然になった。
普段、仕事はティアのこと以外手伝ってこなかった私も、操られた人々への説明や、名誉の回復など、忙しなく、毎日が過ぎていった。
「疲れた……」
(働けど働けど、やることが尽きない!)
夜、さっとお風呂だけ済ました私は、私室に戻るなり、ベッドに倒れ込んだ。
(以前は、フェルナンド様もミセスも、リーゼに家のことなんて任せられない、って、何もさせなかったのに、今では自然と仕事を持ってくるのは何故!?)
特に執事のミセス! 遠慮なく、良い笑顔で、『今までグリフィン公爵夫人として機能していなかったんですから、働いて下さい』って、次から次へと持って来るんだけど! 働いてないことはなかったでしょ!? 聖女の活動に同行してたし、皆が気付いていないだけで、私がどれだけ、闇の魔女に勝つために裏で暗躍していたか!
(小説のことも転生のことも、ジーク以外には話していないから、内緒だけど!)
「はぁ、ジークもティアも忙しそうだし」
闇の魔女がいなくなり、大地の汚染は消え、世界には平和が戻った。
ジークはその人当たりの良さをフェルナンド様に見込まれて、闇の魔女の被害者への説明に駆り出されているし、ティアは功績の褒美として、皇室から爵位を与えられることになり、今では、各地の貴族から婚約の打診が来ていて、違う意味で大変そうだった。
「……結局、フェルナンド様とティアの恋って、どうなってるんだろう」
闇の魔女のことがあって、全ての物語をすっ飛ばしちゃったから、今、現状どうなっているのか、想像もつかない。小説では、フェルナンド様とティアはとっくに婚約していたし、確か、闇の魔女を封印した次の日には、結婚してた気がする。
「離婚……しなきゃ」
本当に、離婚しないと駄目なのかな? なんて、最近はそんな風に思ってしまうことがあって、自分が嫌になる。
「――貴女も執拗いですね、離婚はしないと言っているでしょう」
「きゃあ! フェ、フェルナンド様!?」
誰もいないはずの部屋で、独り言に返事か返ってきて、驚いて声が出た。
(いつの間に部屋に入って来たの!?)
考え事をしていた所為で、全くノックの音に気付かなかった。
「帰ってたんですね」
「今さっき帰ってきたんです」
フェルナンド様は、ここ数日、ユニバーサル様に会うために、外出していた。
「大丈夫でしたか? 操られていませんか?」
「ティアが闇の魔女の力を封印してくれましたから、心配ありませんよ」
ユニバーサル様との対決の日、フェルナンド様とティアは、闇の魔女の力を封印はしたけど、ユニバーサル様自身は封印せず、皇室が管理する牢獄に捕らえた。小説では、今までと同じ、封印されてお終いになるはずだったから、小説とは違う展開に、内心、とても驚いていた。
「……あの、ユニバーサル様を、どうするおつもりですか?」
「しっかりと反省して頂いていますよ」
「ユニバーサル様が、簡単に反省なんてするでしょうか?」
「しないでしょうね」
牢獄に捕らえられたことまでは知っているけど、そこから先、今、ユニバーサル様がどうなっているのかは、何度聞いてもはぐらかされるだけで、何故か、教えてくれない。
「何だかんだ言って貴女は優しいですから、誰かを地獄に落とすことなんて出来ないでしょう? 安心して下さい、ちゃんと、死よりも辛い苦しみを与えていますから」
「そ、そうですか」
自分で言葉にしたのに、結局、全てをフェルナンド様とティアに丸投げしてしまった気がするんだけど……
「それよりも、まだ俺と離婚しようと思っていることに驚いています」
「だって、私が無理矢理、結婚してしまいましたし……」
「……そうですね、最初は、貴女と結婚したことを悔やみましたし、恨みました。貴女と離婚して、訳ありの男の元に嫁がせようと思っていたこともありました」
(知っています! 小説のリーゼがそうですから!)
「ですが今は、貴女が妻で良かったと思っています」
「……え」
「貴女は変わりました、俺は、そんなリーゼが好きですよ」
「っ!」
薄々と、もしかしたらそうかな? とは思っていたけど、こうやって面と向かってハッキリ言われると、思った以上に恥ずかしい。




