57話 闇の魔女との対決③
「何なんですの……! あり得ませんわ!」
「ユニバーサル様、今後、貴女の身柄は皇室、しいては、グリフィン公爵家が預かることになります。抵抗せず、大人しく捕まって下さい」
「……ふ、ふふ、私を捕らえようと言うのですね? でも、私を捕らえるのは不可能ですわぁ。皆様を傷付けられなかったのは残念ですが、私は、闇さえあれば、自由に逃げ出すことが出来るんですの。私を捕らえるには、特別な魔道具が必要なんですよぉ」
ユニバーサル様の言う通り、闇の魔女は、少しでも暗闇があれば、そこから逃げることが出来る。
確かに、小説でも、闇の魔女を捕らえるのは至難の技だったんですが……
「闇の魔女を封印するための器は、ここにあります」
「何でですの!? それは、封印が解かれた時に、念入りに隠しておいたはずなのに!」
(……なんかもう、段々、可哀想になってきたな)
この物語を終結させるための最大の要素は、闇の魔女を封印すること。その対策を、最終決戦まで最短でお膳立てした私が、用意していないはずがない。
魔法道具でレベルアップしたティアの力で、色々誘導しつつ辿り着いた闇の祠で、封印の小瓶を、軽く手に入れて来ました!
「この私が……闇の魔女が、こんなに簡単に追い詰められたというの? 信じられませんわ……!」
ここ数か月、私とジークがどれ程、この日の為に準備を重ねてきたことか! 全ての物語の流れを無視して、すっ飛ばして、最短で準備した、努力の賜物です!
本当は、もっとフェルナンド様とティアの恋物語とか、見たい挿絵のシーンとかいっぱいあったけど、もう手段は選ばないと決めました! 掟破りだろうが関係ありません! 小説の読者を敵に回したことを、心底、後悔して下さい!
「観念して下さい、逃げられませんよ」
「……ふふ、リーゼ様、全て、貴女の仕業ですわね?」
「……何のことでしょう?」
私はお膳立てしただけ。
後は当て馬的モブ悪女なんて放っておいて、主要キャラで決着をつけて欲しいのに、何故、私を巻き込む。
◆◆◆
「最初にリーゼ様にお会いした時から、嫌な予感はしたんです。貴女は初めから、私を警戒し、敵視していました。だから私は――貴女を苦しめようと、最初から思っていました」
大切な友人に襲われ、愛する人に離婚され捨てられ、大好きな聖女がボロボロになり、苦しむ貴女の姿を、この目で見ようと思った。
私の世界には、私に優しくて、私に従順で、私に都合のいい人間しかいらない。全てが闇に覆われた、私だけが特別な、私に優しい世界。
私を嫌う人間なんて、この世に必要無い。
だからリーゼ様も、苦しめて苦しめて排除しようと思ったのに、どうして上手くいきませんの? 自分に逆らう人間、嫌う人間を排除することの、何が悪いというのです? 私はただ、自分が生きやすい世界を作ろうとしていただけですのに。
「……」
「リーゼ様に……手は、出させません」
「リーゼ!」
三者三様、フェルナンド様もティア様もジークさんも、リーゼ様を守るその光景が、気に食わない。
リーゼ様はただの、聖女でも闇の魔女でもない、何の力も持たない、人間ですわ。それなのにどうして、リーゼ様を守りますの? 私ではなくリーゼ様が、特別扱いされますの? 愛されますの?
ああ、やっぱり初めて会った時から、リーゼ様のことが大嫌いですわ。
◇◇◇
「――ふふふ、でも、負けは負けですわね。今回は潔く負けを認めますわぁ」
自分の正体が明かされ、闇の魔法も打ち消され、封印の器も用意されている。
闇の魔女にとっては絶体絶命な状況のはずなのに、ユニバーサル様は、ちっとも気にしていないように、負けを認めた。
「素直に負けを認めるんですね」
「ティア様の力は私の闇の魔法よりも遥かにお強いようですし、封印の器もある以上、私に抵抗する手段はありませんわぁ。ふふ、折角、長い封印から目を覚ましたばかりでしたのに、今度、目を覚ますのは、いつになるのでしょう」
闇の魔女は、不老不死だ。
だから、闇の魔女は封印することしか出来ず、人々が闇の魔女の脅威を忘れ去った頃に封印が弱まり、また、闇の魔女は目を覚ます。これの繰り返し。
「封印される前に、リーゼ様の苦しむ姿を、この目で見ておきたかったですわぁ」
「……」
この期に及んで口にするのが、そんな言葉だなんて、悲しい人。
ユニバーサル様は何も反省していない、きっと、また目を覚ました時、同じことを繰り返すのだろう。何度も何度も、懲りることなく。
(絶対に許さない、死ぬほど辛い苦痛を味合わせて、犯してきた罪の分、苦しんで欲しい――――そう思ったけど、私にはこれ以上、何も出来ない)
小説でも、闇の魔女は封印されて、お終いだった。当て馬的モブ悪女に出来る限界は、ここまで。
「では、ティア、闇の魔女の力を、封印して下さい」
「……はい、分かり……ました」
フェルナンド様の言葉に合わせ、ティアは祈るように呪文を唱えた。
眩い光が辺り一面を照らし、闇の魔女は小説通りに、封印されることになった――――




