56話 闇の魔女との対決②
「根も葉もないデタラメは止めて下さい、ユニバーサル様」
「あらあら、そんなにお認めにならないなんて、往生際が悪いのですねぇ。でしたら、本人に直接、お話して頂くことにしましょうか」
闇の魔女は人を操る。
操られた人は、闇の魔女のどんな命令も、聞いてしまう。それが、『大好きな友人を裏切れ』でも、『大切な家族を陥れろ』でも、『愛する人を殺せ』でも、何でも――――命令されれば、逆らうことは出来ない。
「ジークさん、今、この場で、『罪を認めて下さい』」
命令されてしまえば、ユニバーサル様の言葉通り、罪を認めるしかない。
(ユニバーサル様には、闇の魔法が打ち破られるはずがないという、絶対の自信がある。だからユニバーサル様は、私とジークが罪を隠している、と、思い込んでいるんでしょう)
「……何のことですか? 僕は、リーゼと不貞を働いた覚えはありません」
「え――」
――その思い込みが、致命傷になるとも気付かないで。
「う、嘘……! どうして……!」
自分の命令に逆らわないジークに、絵に書いたように慌てるユニバーサル様。
自分の力を過信し過ぎるから、こんなことになるんです。小説の中でも、ユニバーサル様は自分の魔法を過信して墓穴を掘っていたけど、今回も簡単に引っかかりましたね。
「『命じます! 罪を認めなさい! リーゼ様を襲ったでしょう!?』」
「いいえ、僕はリーゼを襲っていません」
何度命令しても、結果は同じ。
闇の魔法は、聖女の力で、跡形もなく打ち消された。闇に汚染された土地を癒せることも含めて、ユニバーサル様は、ティアには敵わないんですよ。
「はぁ、もう結構です。リーゼ、ユニバーサル様が闇の魔女だという、貴女の話を信じましょう」
「ありがとうございます、フェルナンド様」
「なっ……!」
小説の読者を舐めないで下さいね、私は、闇の魔女の自信満々の性格を、ちゃんと知っているんですから、正体を暴くのだって、(上手く行くかドキドキしていましたけど)お手の物です!
「や、闇の魔女だなんて、何のことでしょう? 私はただ、思い違いをしてしまっただけですわぁ」
「言い訳は結構です、貴女のことを調べさせて頂きましたが、貴女の周りでは不自然な程、死が蔓延していました。そして、この教会の信者が行く先々の土地で汚染が発生していたことも、判明しています」
闇の魔女がユニバーサル様と打ち明けてから一週間で、そこまでお調べになったんですね……流石はフェルナンド様。
「まぁ、大地の汚染すら、私の所為にしてしまいますの? 思い違いをしてしまったことは申し訳ありませんが、それで私を闇の魔女扱いされるなんて、あんまりですわぁ」
「勿論、証拠もあります」
「それ――何で、こんな所にそんな物があるんですの!?」
ユニバーサル様が発狂して驚いてらっしゃる、それ、とは、フェルナンド様がお持ちになっている、小さな水晶玉のことです。真っ赤に色付いているそれは、闇の魔法を感知すると、紅く光る使用になっている、レアな品物です。
「偶然、手に入れた物です」
「偶然……!?」
違います、私がジークに頼んで、遠くの洞窟で見つけてきてもらった品物です。それを、街中でティアに見つかるように置いて、偶然、発見してもらったんです。
「貴女が先程、ジークを操ろうと闇の魔法を使った時に、紅く染まりました。言い逃れは出来ないでしょう?」
「――っ! ふ、ふふ。こんなに簡単に私の正体がバレるなんて、思ってもみませんでしたわぁ」
「素直に認めますか?」
「ええ、私が闇の魔女です。ですが、正体がバレたところでなんだというんですか?」
正体がバレ、力を抑える必要が無くなったユニバーサル様は、押さえていた闇の力を解放し、辺り一面に、真っ黒な闇の靄を放出した。
「ここに招待した人達は皆、心に悩みを持ったり、悪意を持つ人々ばかりです。全員操ってしまえば、流石のフェルナンド様でも勝ち目はありませんわ。こうなったらもう、とことん、傷付けて差し上げますわぁ」
悲鳴が上がり、黒い靄が人々を襲う、阿鼻叫喚の図。
ユニバーサル様の言う通り、ここにいる人々を全て操られてしまえば、立ち向かうのは困難だろう。
(でもそれも、対策済みなんですよね)
「『皆を……守って……!』」
闇の靄を打ち消すような強い光がティアから放たれると、靄が塵一つ残さず、消滅した。
「な……嘘でしょう!? どうして、聖女になって一年足らずの貴女が、そんなに強い力を使えるんですの!?」
「え……あ、の……旅の途中でジーク兄さんやリーゼ様にプレゼントして貰ったアクセサリーが……私に、力を与えてくれるんです」
「それって、光の魔法を増幅する魔法道具じゃありませんか!」
「そ、そうなんですか?」
そうです、小説の終盤で手に入れる魔法道具を、グリフィン公爵家の力を借りたり、旅の途中で発見したりで、前倒しで全て手に入れました! 小説を読んでいるので、本当は苦労して見つけるはずだった魔法道具の場所も全て知っていますからね!




