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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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55話 闇の魔女との対決

 


 ◇◇◇


 結婚生活一年目八日目――


 ロスナイ教会、聖なる空間にある大ホールで開かれる、聖女を歓迎する宴の日。

 教会の内部でだけで行われる小さな宴だと思いきや、教会に招待されたであろう貴族や教会関係者が多く集まる、大々的なものだった。


「あの、ティアではなく、私がパートナーでいいんですか?」


 いつもはティアがフェルナンド様のパートナーだったのに、今日は私が、フェルナンド様のパートナーとして、彼の手を取り、大ホールに足を踏み入れた。


「ティアが、自分からジークのパートナーになると言ったんですよ」

「ティアが?」


 ふと振り返ると、慣れない礼服に身を包んだジークを、優しく微笑みながらエスコートするティアの姿が見えた。


「彼を近くで、守りたいそうです」

「そうなんですね……」


 いつもは気弱で、守られてばかりのティアだけど、ジークのことになったら強くなる気がするのは、私の気の所為じゃないだろう。ティアにとって、ジークはやっぱり、特別なのだ。


「やっぱり私、ヒロインにはジーク派だなぁ」

「何か言いましたか?」

「いいえ、何も」


 危ない危ない、つい、心の声が口に出てしまいました。いけないいけない、こんな敵陣のど真ん中で、呑気にしている場合じゃない。


「――フェルナンド様、リーゼ様、お久しぶりですわぁ]


 ほら、来た。声を聞くだけでゾクリとする、声の主。


「……ユニバーサル様」

「お元気そうで、とても安心しましたわぁ」


(嘘つき)


 私達が傷付いた姿を見るのを楽しみにしていたくせに、平然と話し掛けてくる、この人の神経が信じられない。


「そちらは、ティアの活躍によって信者の数が減って、大変そうですね」

「……ふふ、そうなんですの。でも、悩める子羊さんがいなくなるのは、良いことですわぁ」


 ユニバーサル様の姿を確認したティアとジークも、私達のすぐ傍まで近寄り、警戒するように、ユニバーサル様を見つめた。


「ロスナイ教会の支援者だったキングス侯爵が失脚してからというもの、他に支援して下さる貴族も見付からなくて、資金繰りも苦労しているんです。よろしければ、フェルナンド様が代わりに支援者になって頂ければ助かるのですが、いかがでしょう?」

「残念ですが、お断りします」


 そりゃあそうでしょう。ロスナイ教会に支援しようとする貴族に圧力をかけて邪魔している張本人は、フェルナンド様ですからね。そのことをユニバーサル様が知らないはずないのに、わざとらしく聞いてくるあたりが、怖い。


「あらあら、私は随分、フェルナンド様に嫌われてしまったようですねぇ。とても悲しいですが、それは、夫人であるリーゼ様が原因でしょうか? 私は、リーゼ様に最初から嫌われていましたからねぇ」


 話の話題が自分に向けられ、意識していなくても、緊張が走って体が強張る。


「私はリーゼ様と親しくなりたかったのに、残念ですわぁ」


 黒い髪の間から光る、冷たい紅い眼差し。

 当て馬的モブ悪女の私がラスボスと対峙するなんて、無謀にも程があるのは、分かってる。分かってるけど、譲れない!


「ユニバーサル様と親しくなるなんて、死んでも御免です」

「……ふふ、これだから、意識を持った人間は嫌なのよ。傷付きますわぁ」


 小声で発した言葉が、酷く、恐ろしく感じた。


「ところで、実はこの宴が始まる前、私に懺悔をしてきた者がいるのですが、知っていますか?」

「懺悔?」

「ええ、何でも、既婚の友人と一晩を共に過ごしてしまったそうで、深く、後悔しておられるんです」

「……懺悔してきた内容を公にするのは、教会の信用問題になるのでは?」

「ええ、勿論、いつもはそんなことはしませんが、今回ばかりは、お相手がお相手でしたので、お伝えしておこうと思ったんです。お心当たりはございませんか、リーゼ様?」

「……」


 私が黙り込むと、ユニバーサル様は笑みを深めて、言葉を続けた。


「愛する夫を裏切る行為なんて、絶対にしてはいけませんわぁ。しかも、それを隠蔽しているなんて……いけないことだと思いません?」

「何が仰りたいんですか?」


「ふふ、リーゼ様、貴女がフェルナンド様を裏切り、別の男性と関係を持った、と、言っているんです」


 人の目も耳も気にせず、世間話の一つとして平然と話すユニバーサル様の言葉は、宴に集まった多くの人の耳に届いた。グリフィン公爵夫人である私の不祥事――それはそれは、噂話が大好きな貴婦人達に深く刺さるお話だろう。


(わざわざ宴の最中にこんな話を切り出すなんて、とことん、私を追い詰める気なのね)


 不貞を働いた令嬢、襲われた令嬢、どちらにしろ、私の尊厳も名誉も心もボロボロにするには、もってこいの内容だ。


「……何のことですか? 私には身の覚えがありませんけど」

「嘘は駄目ですよ、リーゼ様。神は全てをお見通しなんですから」


 自身の優位を疑わず、ユニバーサル様は満面の笑顔で、話し続けた。


「洗いざらい、全てを認めて、お話下さい。大丈夫です、例え貴女が別の男性に汚されようと、神は慈悲深い心で、全てをお許しになりますわぁ」


 それを企てたのはユニバーサル様なのに、よくそんなことが言えるよね。私が本当にジークに襲われていたら、どれほど傷付いていたと思う? こんな人目に晒されるように辱めを受けて、どれほど、傷付くか……!



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