54話 説得
「――フェルナンド様は、闇の魔女の存在を信じますか?」
「闇の魔女?」
「闇の魔女の正体はユニバーサル様で、大地を汚染させている元凶であり、人を操る闇の魔法を使う、恐ろしい魔女です」
これ以上、闇の魔女の存在を隠し通す気は始めから無かった。寧ろ、信じてもらわないと、この先には進まない。
私達の目的は、人を操り弄ぶユニバーサル様を、痛い目に合わせることだから――――
ティアへの説明は、ジークが担当した。
だから私は、フェルナンド様に何とか私の話を信じてもらわなきゃならないんだけど、明らかに私の方が、難易度高くない?
「……ユニバーサル様が何かおかしいというのは感じていましたが、あまりにも突拍子もない話ですね」
ですよね、フェルナンド様がそんなに簡単に信じてくれるはず無いですよね! 想定通りです!
「こんな話、急に信じてもらうのは無理だって分かってます。だから、フェルナンド様自身に、判断して欲しいんです」
「どうやって?」
「今度のロスナイ教会の宴で判断して下さい。ユニバーサル様は、ティアの弱体化と、フェルナンド様と結婚することが目的ですから」
「……どいつもこいつも、俺を何だと思っているんですか?」
「それは、本当にごめんなさい」
リーゼも無理矢理、フェルナンド様と結婚した身なので、耳が痛いです。
「俺は、貴女と離婚するつもりはありません」
「操られちゃえば、離婚するしかありませんよ」
「今、操られていないことから推測するに、操るには何らかの条件が必要ということでしょう? 俺は、簡単に操られるつもりはありません」
「それを何とかするために、ユニバーサル様は、ジークに私を襲わせようとしたんですよ」
「――――は?」
公爵夫人がそんな目に合うなんて、グリフィン公爵家の名誉が汚されてしまいますもんね。それはもう、フェルナンド様は烈火の如く怒るだろうし、憎悪だって生まれるでしょうから、そこを付け込む気だったに違いありません。恐ろしい話です。
「兎に角、私は、ユニバーサル様のことを許せません。自分が犯してきた罪の分、どうにかして、辛い思いをさせたいんです」
小説の中でも、闇の魔女は数々の酷いことをしていたけど、きっと、小説には描かれていなかった以上の、酷いことをしていると思う。どれだけの人が傷付き、壊れ、命を落としたんだろう。それは周りの人々も同じ。残された家族や友人のことを思うと、いたたまれない。
私は、ユニバーサル様に、自分が犯してきた罪の分、苦しんで欲しい。
(何の力も持たない私は、結局、フェルナンド様達を頼るしかないのにね)
本当は、最初から最後まで、全部自分達の手で何とか出来たら格好良いんだろうけど、私はただの当て馬的モブ悪女で、ジークもただの聖女の幼馴染の立場。
闇の魔女を封印することが出来るのは聖女であるティアだけだし、辛い苦痛を与えるために実行に移す力があるのは、フェルナンド様だけ。だから私達はどうしても、フェルナンド様とティアに、ユニバーサル様を敵だと認識してもらう必要がある。
「…………へぇ、リーゼの言うことが事実なら、全力で俺に喧嘩を売って来られたんですね」
「フェルナンド様?」
「気が変わりました、もう少し詳しく、貴女の話を聞かせて下さい、リーゼ」
「は、はい」
話に興味を持ってもらえるのは嬉しいことのはずなのに、笑顔なのに、目の奥が笑っていなくて、怖い。
その日は朝が来ても解放されず、次の日には、ジークから説明を受けたティアも加わった。
「リーゼ様になんてことを……ジーク兄さんにも……酷い、許しません……! 私が、聖女の力で闇の魔女を封印します……!」
(あの温厚で優しいティアが怒ってる!)
「安心して下さい、もし事実だと確認出来れば、俺が死よりも辛い苦しみを与えてあげますよ」
(怖い! 望んだのは私だけど、怖い!)
私とジークを前に、私達以上に燃え上がっている二人を見ると、頼もしい気持ちと同時に、恐怖も湧き上がるのは何故だろう。
「悪いことをした人には……お仕置きが、必要……ですよね、フェルナンド様」
「ええ、力を合わせて頑張りましょう、ティア」
ヒロインと男主人公が力を合わせる。
こうなったらもう、闇の悪女に勝ち目はない。小説では、闇の魔女は聖女に封印されてお終いで、お仕置きなんて話は無かったけど、目的通りの展開。
最終難関であるフェルナンド様の協力を手に入れた今、私に怖いものはない。首を洗って待っていなさい、ユニバーサル様!




