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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
50/62

50話 闇の魔女の楽しみ

 


 ◆◆◆



 ――気付かなかった。


 闇の魔女が、知らず知らずのうちに、魔法をかけていたことに。


「お願い、止めて! 目を覚まして!」


 人が傷付くのを見るのが大好きな闇の魔女。

 相手がどれだけ傷付くか、悲しむか、怒るか、苦しむか、全てが、闇の魔女にとっては暇潰しで、手段で、楽しみの一つでしかない。


 壁に追い詰められ、強い力で抑えられて、ビクともしない。


「ジーク!」


 生気の無い瞳。

 ジークの意思がそこに無いことは、明らかだった。


「お願い……止めて……ジークに、こんな酷いこと、させないで……んっ!」


 ジークには似合わない、噛み付くような乱暴な口付けをされる。


「はぁっ」


(許せない……! 優しいジークに、こんなことさせるなんて、絶対、許さない!)


 そう思うのに、何も出来ない自分が、無力だと思った。


 誰も来ない、二人っきりの部屋。

 何の力もない、ただの当て馬的モブ悪女の私には抗う術が無くて、これから先のことを思うと、絶望しかなかった。



 ◇◇◇



 ロスナイ教会から帰宅後、ティアは体調を崩し、暫く寝込むことになった。

 元々の宴予定だった日にも体調は戻らず、延期になり、ジークもグリフィン公爵邸に泊まり込んで、ティアの看病に当たっていた。


「ジーク、ティアの調子はどう?」


 丁度、ティアの部屋から出て来たジークを見つけて、声を掛ける。


「ああ、問題ないよ。もうすぐ回復するだろうって、お医者様が」

「良かった」


 長く時間がかかってしまったけど、順調に回復に向かっているようで、胸を撫で下ろす。


「フェルナンド様は?」

「ティアの部屋にいるよ。少し休めって、変わってくれたんだ」

「そう、次は私の番だから、早目に行って変わるよ」


 基本は私とジークで交互でティアに付き添い、フェルナンド様は、仕事で手が空いた時にだけ、顔を出していた。


「ティアが倒れたのは、僕の所為だ」

「ジーク?」

「僕がいなければ、ティアは無理しなくて済んだんだから」

「……聞いてたの?」


 ティアはジークの為に、早く聖女の活動を終わらせようとしていた。


「自分が情けないよ。ティアを守るために、ティアの力になるために、ここに残ったのにね」

「ジークは充分、ティアの力になってるよ。ティアが倒れたのは、間違いなく、ユニバーサル様とシェリ様の所為だから。ジークだって、分かってるでしょ?」

「分かってるん……だけど」

「ジーク、大丈夫? 顔色が悪いよ? ジークも、体調を崩してるんじゃないの?」


 普段、弱音を吐かないジークがそんな悲しい顔をしていると、心配になってしまう。


(無理もないか。ジークは、ロスナイ教会で酷い扱いを受けていたもんね)


「いや、大丈夫……そう言えば、闇の魔女のことで聞いておきたいことがあるんだけど」

「闇の魔女? 何?」

「ここで話して、誰かに聞かれたら不味いし、リーゼの部屋に行ってもいい?」

「え……でも、それは」


 確実にフェルナンド様に怒られるよね? ジークだって、怒られたくないからって、私と部屋で二人っきりになるのを嫌がってたのに。


「じゃあ、庭園ならいい?」

「それならいいけど……どうしたの? そんなに、聞きたいことがあるの?」

「うん、まぁね」


 実際に闇の魔女と対面して、そう思ったのかな? 確かに、私も凄く怖かった!


「私が知ってることで良ければ、教えるよ。何が知りたいの?」


「色々聞いておきたいけど……そうだね、闇の魔女は、操られた人の行動、全てを把握してたりするの?」


「ううん、流石に千里眼的な力はないから、自分がいる場所で、命令を実行させたりすることが多いかな。闇の魔女は、人が不幸になるのを見るのが好きだから」


 闇の魔女は、人を操る。


 これは小説の中でもあった、闇の魔女の力だけど、その能力は未知数だった。

 ただ、小説を読んだ読者としては、決して、万能だとは思わなかった。人を操りはするけど、操った人の記憶を読み込めるわけではなかったし、ずっと、全てを見通せるわけではない。


「操られた人を解除する方法は?」

「聖女しか、闇の魔法は解けない」


 だから、闇の魔女に対抗出来るのは、光の聖女であるティアしかいない。


「闇の魔女が本当に恐ろしいのは、人を人とも思わない、残忍な性格だと思う」

「それは……怖いね」


 誰かに聞こえたら不味いからと、二人しか聞こえないよう、小声で会話をする。


「ねぇリーゼ、庭園に行く前に、僕の部屋に寄ってもいい? 忘れ物したんだ」

「いいよ」


 ――この時点で、少しでも異変に気付いていれば良かった。

 でも、気付かなかった。

 変に小説の知識がある分、闇の魔女が何かするなら、見える場所でするはずだと、思い込んでいた。




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