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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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46話 聖女の活動

 


 ◇◇◇


 結婚生活九か月八日目――


 ロスナイ教会への滞在は、一週間後の宴、終了の翌日まで。


 フェルナンド様は宴だけ参加して終わりたかったみたいだけど、陛下がそれを許さなかったらしい。それだけ、教会の影響力が大きい証だろう。


 聖女として招かれたティアは忙しく、着いた初日から、神殿の内部の案内に挨拶回りと駆け巡らされ、挙げ句、礼拝に訪れた人々に向かって、まるでティアが教会の関係者のように紹介された時には、こいつ等、頭いかれてんのか? と、割と本気で思った。

 その他にも、過剰な教会への勧誘に、聖女の力を見せて欲しいやら、色々。

 フェルナンド様が都度、ティアを庇うように守ってはいたが、それでも、ティアの心の負担は大きかった。


「ティア、大丈夫?」

「……大丈、夫……です」


 ロスナイ教会で用意された私とティアの部屋。

 そこに備え付けられていた豪華なベッドで、顔色を真っ青にして、横になっているティア。


 予想はしていたが、案の定、ティアは精神的に疲労し、二日目の朝には体を壊してしまったのだ。


(推しに負担を与えるなんて、何様のつもりなの!? ほんと、許せない!) 


「今日の予定は全てキャンセルさせますので、ゆっくり休んでいて下さい」


 ティアの体調が悪そうだと報告するため、部屋に来てもらったフェルナンド様は、ティアの様子を確認し、今日の活動は出来ないと判断した。


「いいえ……私なら、大丈夫です。ちゃんと、聖女として……頑張ります」

「無理しなくていいのよ? ティア」


 無理して起き上がろうとするティアに心配して声を掛けたが、ティアは拒むように、首を横に振った。


「私……早くここでの活動を終えて、帰りたいんです。ここは、ジーク兄さんにとって……嫌な場所だから」


 ティアがそう思う理由は、分かる。

 ここに来た当初からだったけど、聖女でもない、公爵でも公爵夫人でもない、ただの平民のジークに対する当たりは、見ていて分かるほど、酷いものだった。

 誰もジークに声をかけず、空気のように扱われ、ジークに用意された部屋も食事も、私達とは区別され、一人だけ質素な物だった。


 この酷い扱いに対して、また文句を言うとしたけど、ジークは大丈夫だから、と、文句一つ言わずに受け入れ、ここに留まった。

 ティアの傍にいるために――


「ティアのお気持ちは分かりました。では、どうしても外せないものだけにしましょう」


「ありがとうございます、フェルナンド様。でも、ジーク兄さんには……何も言わないで下さいね。ジーク兄さん、気にしちゃうから」


(嫌な場所)


 それが、私達の共通認識だろう。

 慈愛の神を祀り、弱い者の味方と謳っておきながら、人を区別し、見下す。



「――お早うございます。皆さん、早い集まりですね。どうかしたんですか?」


 集合場所になっている、私とティアの部屋の前。

 約束の時間十分前にも関わらず、そこにいたジークは、フェルナンド様も一緒になって部屋から出て来たことに、驚いていた。


「あー、えーーっと、私がフェルナンド様に会いたくなっちゃって、早目に来てもらっていたの」

「会いたくなったって……リーゼが?」

「そ、そう。私がフェルナンド様を好き過ぎて無理矢理、結婚したんだから、別におかしくないでしょ?」


 不審な目で私を見る視線を、逸らすようにそっぽを向く。


 そうよね、ジークには離婚したい、とか、転生のこととか、全部話してるのに、今更、リーゼの初期設定を通すのは無理があるよね。

 でも、他に何も思い付かなかったの!


「俺がティアに確認することがあったので、早目に部屋に行っただけですよ」


「ああ、そうだったんですね」


 フェルナンド様の言い分は、すぐに信じるジーク。

 最初から余計なことは言わず、口の上手いフェルナンド様に任せておけば良かった。



 ◇◇◇



 今日のティアの活動は、昨日に引き続き、教会の活動の見学が主だった。


「ユニバーサル様! この前は私の悩みを聞いて頂き、ありがとうございました!」

「ユニバーサル様、今度は私の悩みを聞いて下さいませ」


 一般の礼拝堂――

 礼拝に訪れた人々は、ユニバーサル様の姿を見るなり、囲むように集まり、次々とお礼やお願いを口にした。


「ふふ、お力になれたのなら何よりだわぁ。今日は予定があるけどぉ、今度、必ず、貴女の悩みを聞かせて頂戴ね」


「ああ! ありがとうございます! ユニバーサル様!」

「ユニバーサル様が話を聞いて下さるからこそ、私達は生きていけるのです!」


 その光景は、傍から見れば、人々に慕われている素晴らしい司教の姿に見えるんだろう。

 まるで崇め奉る神様のように、彼女を褒め称える。


「如何ですか? ティア様。私達は、こうして、悩める人々の話を聞き、力になっているのです」


 一般の礼拝堂を抜け、上流階級のみが許される聖なる空間に着くと、ユニバーサル様はティアの隣に立ち、笑顔で、声をかけた。


「あ……素敵だと……思います」

「そうですか、ご理解頂き、ありがとうございます。よろしければ、ティア様も是非、教会の一員として、ロスナイ教会にお越し下さい。教会は聖女を心より歓迎しますわぁ」


(またか……執拗いなぁ)


「ユニバーサル様、ティアはグリフィン公爵家が預かっています。余計な勧誘はお止め下さい」

「あら、失礼致しました」


 このやり取りも、もう何度目だろうか。

 二度目? 三度目? 四度目? 隙あらばティアを教会に引き抜こうとして、フェルナンド様が止める。もう飽き飽きしてる。


 


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