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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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43話 推しとキス

 


 ◇◇◇



 秘密の会議を終えた私達は、早速、行動に移すため、グリフィン公爵邸の廊下の曲がり角にて、息を潜め、ティアが通るのを待った。


「……リーゼ、何してるの?」

「通りすがりの角でぶつかって、気付いたら唇と唇が触れ合ってるっていう、古典的な手を使おうかと思って」

「古典的って……ぶつかっただけで上手く唇が触れ合うの?」

「漫画とかではよくある展開だから、多分、上手くいくはず」


 通りすがりのメイド達が変な顔でこっちを見てるけど、気にしない。


「ロスナイ教会の出発に向けて、ティアもお休みで家にいるでしょ? 今がチャンスなの!」

「そんなに上手くいくかな……?」

「あ、ティア来たよ!」


 自室から出て来るティアを確認し、突撃する体制に入る。


「ジークは、くれぐれもティアが怪我しないように、受け止めてね」

「はいはい」


(私だって本当は、こんなことしたくないけど、それもこれも、闇の魔女の魔法にかからないため!)


 闇の魔女は、人の心が無いような、冷たくて残忍な性格をしてる。

 操った人達の心を弄び、周りの人達も巻き込んで、地獄へ落とす。その様子を見て、楽しそうに笑う闇の魔女の姿は、本当に怖かった。


(私を利用してティアやフェルナンド様を傷付けられるのは嫌! だからごめんね、ティア!)


 心の中で謝罪しながら、タイミングを見計らい、曲がり角から飛び出た。


「……あれ?」


 ティアにぶつかりに飛び出たはずなのに、何の衝撃もこない。

 不思議に思い自分の体を確認する、眩い光の膜のような物に包まれ、体が宙に浮いていた。


「大丈夫です……か? リーゼ様」

「ティア、これって……」


 眩い綺麗な光は、聖女の力の証。


「光の魔法?」

「は、はい。私も……少しずつですが、使えるようになったんです」

「ティア、凄い! もうこんなに魔法を使えるようになったの?」

「まだ……そんなに上手くは使えないんですけど、リーゼ様やジーク兄さんが傍で支えてくれるから……私も、頑張らなきゃって思って……」


 光の魔法が消え地面に下ろされると、ティアは私の顔を見て、優しく、微笑んだ。


「リーゼ様に怪我が無くて……良かったです」

「うぐっ」


 ティアの純粋無垢な笑顔が、胸に突き刺さる。


「大丈夫、二人とも?」

「ジーク兄さんも来ていたの? 二人に会えて嬉しい……」


(可愛過ぎる! 私の推し!)


「あの、良かったら……私と一緒に、皆でお茶しませんか? この後少し予定があるので、少ししか時間は無いんですけど……」

「お茶ならさっきリーゼと飲ん――」

「飲みましょう!」


 ジークの言葉を遮り、返事をする。

 推しのティアの誘いを断るなんて、私はしません! 二杯だろうが三杯だろうが、お茶は飲みます!



 ――場所は変わり、ティアの部屋。

 用意されたお茶を前に、のんびりと過ごしていたら、段々、冷静になってきた。


(本人の意思を無視してキスしようとするなんて、私、最低では?)


 闇の魔女に気を取られ過ぎて、大切なことを忘れていた気がする。


(でも、闇の魔女が脅威なのは変わらない)


 光の魔法は闇に対抗出来る魔法で、闇の力を無効化することが出来る。

 ティアの力で操られた人達の目を覚ますことは出来るけど、操られている間にした行動は消せないし、現に小説でも、闇の魔女は上手く操った人達を使って、ティアとフェルナンド様を酷い目に合わせた。

 だから、予め闇の魔女に操られないように予防出来たらって思ったんだけど……


(闇の魔女の思い通りにさせるなんて、嫌。ティアに酷いことしたら、許さない。フェルナンド様にだって――)


「――ねぇ、ティア、お願いがあるの」

「リーゼ様が私に、お願い……ですか?」


 ティアの意思を無視して、無理矢理、キスするなんてやっぱり出来ない。だから私は、こうするしかない。


「私ね、ティアとキスしたいんだけど……駄目?」


 ド直球でお願いする。もうこれ以外、方法が思い付かない。


「げほっ、ごほっ」


 隣でジークがまた咳き込んでいたけど、無視した。


「……リーゼ様と、キス……」

「あ、いいの! 無理しなくて大丈夫だから! えーーーーっと、ちょっと、友情の証として! って、思っただけだから」


 我ながら苦しい言い訳。こんなの、気持ち悪いって思われても仕方ない。

 これからティアに避けられたらどうしよう、なんて考えて悲しくなっていたら、まさかの返事が耳に届いた。


「……私……リーゼ様となら、しても、いいです……よ」


 頬を赤らめ、恥じらいながら頷くティア。


「いいの!?」

「は、はい」


 聞いてみてなんだけど、絶対に断られると思っていたのに!


「私……リーゼ様、大好きですから」


 え、何この可愛さ。私、今日で死ぬの?


「ほ、本当にいいの?」

「は……はい。どうぞ……」


 受け入れるように目を閉じ、私のキスを待つティア。許可が出たものの、いざ目の前にしたら、緊張する。


(お、推しとキスする日が来るなんて……!)


 第一、こんな風に自分からキスすることなんて、今まで一度だって無いのに! (フェルナンド様は数に入れていない)


「じゃ、じゃあ、行くね」


 ティアの方に向き直し、ゆっくりと顔を寄せると、私はそのまま、ティアと唇を交わした――




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