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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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42話 ヒロインのキス



 ◆◆◆


 リーゼは、この世界に転生してきた人間らしい。

 最初にリーゼから小説の話をされた時はとても驚いたけど、嘘を言っているようには見えなかったし、リーゼの言うことを信じることにした。


 平民である僕にも自然に接してきたリーゼは、初めて会った時から、貴族には見えなかった。

 明るくて優しいリーゼのことを、ティアはとても慕っているし、フェルナンド様も、リーゼのことが好きなんだろう。あんなに露骨に愛情を向けられてるのに、それに気付きもしないリーゼ。

 それは、転生した先の自分が、当て馬的モブ悪女? だったことが大きいのかもしれない。


 僕に小説や転生のことを話してから、前よりももっと気楽に話せるようになったのか、色々と相談されることが増えた。リーゼが話す内容は驚くものや意味が分からないものが多くて、僕はいつも、困惑しながら話を聞いていた。



 ――場所を移した僕達は、庭園のど真ん中、どこからでも僕達の様子を見渡せる場所にテーブルやらお茶やらをアルルに用意してもらい、隣り合わせに座った。


 わざわざ隣り合わせで座らなくても……とは思ったけど、話を聞かれたくないからなんだろうな、と、納得した。


「ここには誰も近付けさせないでね。あ、でも、私達が何もいかがわしいことしてないって、ちゃんと見ててね!」

「かしこまりました」


 人払いも終えた後、僕は用意されたお茶に口をつけながら、早速、本題に入った。


「話って何?」


「あのね、どうやったらティアとキス出来ると思う?」


「げほっ、ごほっ!」


 唐突なリーゼの言葉に、変なところにお茶が入った。


「な、何で、そんなこと……」

「ティアとキスしないと、闇の魔女の魔法にかかって、操られるかもしれないの」

「闇の魔女? 操られる?」


 意味が分からない言葉が、次々と並ぶ。

 リーゼから唐突で、驚くような言葉が出るのは初めてじゃないが、これは予想外過ぎて意味が分からず、動揺が大きい。


「言ってなかったけ? 小説、光の聖女と闇の魔女は、ヒロインのティアとフェルナンド様が愛を育みながら、様々な困難に立ち向かって幸せになる話で、そのラスボスが、闇の魔女なの。闇の魔女が、闇の魔法で土地を汚染させ、この世界に混沌を巻き起こしている元凶よ」

「その情報、初耳だね」


 リーゼの話は、信じてる。

 信じてるけど……あまりにも話が大き過ぎて、ついていけない。それに、何でティアとキス? 意味が分からない。


「闇の魔女は、人の心の弱みや悪意に付け込んで、心を操るの。それを解除出来るのは、光の聖女であるティアだけ。恋愛小説にありがちの設定で、ヒロインのキスには、そんな闇の魔女の魔法を防ぐ素敵な効果があって、それで、フェルナンド様は闇の魔女の魔法にかかるのを防げたのよ!」


 ……半分以上、言っている意味が分からない。


「要約すると、闇の魔女に操られないようにするには、ティアとキスしなきゃいけない……ってこと?」

「正解」


 ヒロインのキスには、悪い魔法から身を守る力がある。


 どんな設定? とは思ったけど、転生前のリーゼの世界ではそれが普通だったのかもしれないと思い、黙っておくことにした。


「だから、何としてでも、ティアとキスしたいの」


 凄い台詞だな。

 本人は、闇の魔女に気を取られて何を口走っているのか気付いていないみたいだけど。


「ティアの意思だってあるし、無理に出来ることじゃないよ」

「分かってる。だけど……もし闇の魔女に操られて、ティアやフェルナンド様に何かしたら、って思うと、怖いの。本当は、操られないためにも、ロスナイ教会には行かない方がいいんじゃないか、っとも、思ってるんだけど」

「それは……」

「分かってるよ、行くよね。闇の魔女のことを知っていて一緒に行かないのもって思うし、何が正解か分からないの。小説の内容とは違うことも増えてるし、そもそも、私達の存在がイレギュラーだし」


 リーゼの話しか聞いていない僕と違って、小説を読んでいるリーゼは、闇の魔女の恐ろしさを知っているから、こんなに必死なんだろうか? 人の心を操る闇の魔法。確かに恐ろしいけど……


「気持ちは分かるけど、だからってティアとキスするなんて――」

「さっきから他人事みたいだけど、ジークもだからね?」

「僕?」

「ジークだって、操られたら困るでしょ?」

「そりゃあ、操られたら困るけど……」

「でしょう? だから、一緒にティアとキスしましょう!」


(うん、リーゼ、暴走してるね)


 普段なら、キスの話題一つで顔を真っ赤にするのに。


「どうする? 事故に見せ掛ける? 寝込みを襲う?」

「……はぁ」


 とりあえずは、リーゼが納得するまで付き合うしかないか、と、深くため息を吐いた。



 ――――でも僕は、何も分かっていなかった。

 リーゼのことを信じてると言っておきながら、闇の魔女の力を、軽視していた。


 それを死ぬほど後悔することになるなんて、思ってもみなかったんだ。




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