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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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38話 当て馬的モブ悪女になります②

 


 ◇◇◇



「普通に楽しくティアとデートしてしまった……」


 帰宅後、全く思い通りにならず、自分の不甲斐なさを痛感し、ベッドに伏せる私。


 リーゼになろうとしてるのに、全くリーゼになりきれず、途中で断念してしまう自分が情けない。でもかと言って、もう一度、アルルやティアに酷いことが出来るかというと、それは出来ない。

 大好きな人に酷いことするなんて、精神衛生上よくない。


「こんなんじゃ、当て馬的モブ悪女になれない!」


 ここで諦めてしまったら、小説通りの展開に戻すことは出来ない。


「……大丈夫、まだリーゼには、もっと重要な要素があるもの!」


 寧ろ、それこそが、リーゼを象徴していたと言っても過言ではない。


(リーゼは、それこそ、どんな手を使っても手に入れたいくらい、フェルナンド様が大好きだった)


 結婚後もそれは変わらず、嫌がるフェルナンド様に、場所や時間を問わず、何度も何度も、ちょっかいをかけていた。


(小説のリーゼがしそうなことその三、フェルナンド様の仕事の邪魔をする!)


 リーゼは、フェルナンド様の都合なんてお構いなしで、ところ構わずちょっかいをかけて、仕事の邪魔を平気でするような女だった。真面目なフェルナンド様からすれば、大事な仕事の邪魔をされて、鬱陶しいことこの上無かったでしょう。


(だから私も、リーゼみたいにフェルナンド様の仕事の邪魔をします! そしたら、こんな鬱陶しいな女とは離婚する! って、思われるはず!)


 大事な仕事の邪魔をするのは大変心苦しいけど、やるしかない。


「そうと決まれば――」


 気を新たにベッドから起き上がり、部屋を出る。その足で向かうのは、現在お仕事真っただ中のフェルナンド様がいる、執務室だった。


(よし、行きます)


 辿り着いた執務室の前で、覚悟を決めるように、深く深呼吸してから、扉を開ける。


「失礼します!」

「リーゼ様?」


 執務室には、フェルナンド様以外にミセスの姿もあって、私が執務室に来たことに驚いた表情を浮かべ、紙にペンを走らせていたフェルナンド様も、顔を上げ、こちらを見た。


「どうされたんですか、リーゼ様。こちらに来られるのは珍しいですね」

「そ、そう? 前はよく、仕事の邪魔をしに来てたんじゃない?」


 記憶が無いから定かではないけど、確か、小説ではそうだったはず。


「そう言われればそうですが……最近は執務室は愚か、フェルナンド様自身を避けていたように見えましたけど」


 鋭い指摘、流石はグリフィン公爵家執事ミセス。

 避けていたというか、あんな事があって、どうやって顔を合わせればいいか分からなくて、逃げていただけです!


 だけど、そんなことを素直に言うわけにもいかないのが、今の私です。なんて言ったって、今の私は、当て馬モブ悪女のリーゼですから!


「そ、そんなことないけど? だって私、フェルナンド様に会いに来たんだから」

「珍しいですね、どのようなご要件で?」

「要件、は、その――フェルナンド様と中々会えなくて寂しくて、構って欲しくて……」


 自分で言っていて、語尾が小さくなっていっているのが分かる。

 こんなの恥ずかし過ぎて、死んでしまう! いっそのこと、もうこの時点で、ミセスに、仕事の邪魔だから出て行って下さい! って追い出されたい!


 そんな風に期待していたのに、ミセスから出て来た言葉は、予想とは反したものだった。


「それはそれは、仲がよろしいようで、大変、喜ばしいことです」

「え? えーーっと、私、仕事の邪魔に来たんだけど……」


 笑顔で歓迎される意味が分からない。


「丁度良かったです、フェルナンド様の機嫌が悪くて仕事にならずに困っていたところだったんです、さっさと仲直りしてして下さいませ、リーゼ様」

「え?」


 背中を押され、フェルナンド様の前に出されると、ミセスは一礼し、執務室を去った。


(こ、これは……)


 意図せず、部屋に二人っきり。

 いえ、フェルナンド様に愛想をつかされるためにちょっかいをかけに来たので、これは想定内! の、はず。


「――俺に、会いに来たんですか?」


 どこか面白そうに微笑むフェルナンド様は、持っていたペンを置き、座ったまま、椅子を後ろに引いた。


 機嫌が悪い? これのどこが? 寧ろ、機嫌良さそうだけど。


「……はい。そうです、よ」


 取り敢えず、ここまで来たんだから、やれるところまでやるしかない。


(以前のリーゼが嫌いなんだから、元に戻ったって思ったら、すぐに、離婚したくなるはず!)




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