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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
37/62

37話 当て馬的モブ悪女になります

 


 ◇◇◇



 小説のリーゼは、早くに物語から追放されたけど、我儘で傍若無人ぶりな振る舞いは、しっかりと小説の前半に描かれていた。


(小説のリーゼがしそうなことその一、使用人に対して横暴に振る舞う!)


 グリフィン公爵邸に戻ると、私は早速、転生する前のリーゼに戻って小説通りに修正する! を実行に移すため、行動に出た。


「アルル、私、今日は美味しいアップルパイ以外、食べたくないの!」


 お茶の時間、用意されたお茶菓子に手を付けず、そっぽを向いて、我儘を言う。


「アップルパイ……ですか?」

「そうよ! こんな不味そうなお菓子用意されても、一口も食べないから!」


(うう、ごめんね、アルル)


 今日、アルルが用意してくれたお茶菓子は、いつも通り私が好きなお菓子ばかりで美味しそうなのに、こんなに酷いことを言う自分が、自分で許せない。


(でも、これも物語を修正するため! 私がフェルナンド様に離婚を言い渡されるまでの間だから、辛抱してね!)


「分かりました。料理人にアップルパイが用意出来るか聞いてきますので、少々、お待ち下さいね」

「い、急いでよね!」


 早くフェルナンド様に離婚を告げてもらわなきゃ、この振る舞い、胃も心も痛む!


「お待たせしました、リーゼ様」

「……わぁ、美味しそう」


 暫くして用意されたのは、頬っぺが落ちそうなくらい美味しそうなアップルパイで、酷い振る舞いで不味そう! とか言わなきゃいけないのに、思わず、本音が零れた。


「料理人に聞いてみましたが、材料がなく作るのにどうしても時間がかかってしまうとのことで、急いで人気のお店に馬車を走らせ、並んでいた方にお願いして順番を譲って頂き、買ってきました」

「そ、そこまで……」


 分かってはいたけど、公爵夫人の我儘なら、多少無理をしてでも叶えないといけないんだな、と、実感する。大変そう……いや、我儘を言ったのはこの私ですけど!


「如何ですか?」

「……美味しい、よ」

「良かった。最近、リーゼ様元気がないから、心配していたんです。美味しいものを食べて少しでも元気になって頂けたら、嬉しいです!」

「アルル……」


 私が悩んでいることにも気付いてくれていて、優しく気遣ってくれるアルルに、素直に感動する。


「また何かあれば、すぐに仰って下さいね。リーゼ様は弟の恩人であり、私の大切なご主人様ですから」

「うぐっ」


 優しい言葉が、真っ直ぐに胸に突き刺さる。


 小説通りのリーゼになるためには、こんなことで満足せず、もっと我儘を言って横暴に振る舞わないといけないのは理解している。理解してるけど――


「ありがとう、アルル。本当に嬉しい」


(無理! 私にはもう、これ以上アルルを困らせることは出来ない!)


 こんなに良くしてくれて慕ってくれているのに冷たくするなんて、普通に無理でしょ!? これで横暴に振る舞うなんて、鬼の所業よ! 無理!


「我儘言ってごめんね、アルル……アルルも一緒に、食べない?」

「仕方ありませんねぇ、リーゼ様は。使用人の私がリーゼ様と席を共にするのは、いつものように内緒ですよ?」

「ええ、勿論」


 使用人に横暴に振る舞うことを早々に諦め、そこからはアルルと楽しく会話しながら、お茶の時間を楽しんだ。





 ◇◇◇



(小説のリーゼがしそうなことその二! ティアを虐める!)


 まだ諦めていない私は、今度こそは! と決意を胸に抱き、ティアと待ち合わせをしていた町の広場で、ティアを待った。


 今日は前々からティアと約束していた、街を散歩する日。


(ティアを虐めたら、フェルナンド様だって絶対に怒るし、私と離婚したくなるはず!)


 小説でも、離婚の直接の原因になったのは、リーゼがティアを虐めたからだ。

 これが引き金となり、小説のリーゼは訳あり男爵に嫁ぐことになってしまうのだが、混乱している私の頭からは、一切、その部分は抜け落ちていた。


「ティアを虐めるのは心が痛むけど、やるしかない! それが、ティアとフェルナンド様の幸せのためよ!」


 ちなみに私の服装は、定番になったお忍びの平民服。

 落ち着かなくて約束の時間よりも一時間も早く着いていた私は、自分に言い聞かせるように、何度も何度も、同じ言葉を繰り返し口にした。

 それから、一時間後、約束の時間に、ティアは待ち合わせ場所に現れた。


「……リーゼ様、お待たせ……しました」

「! ティア……かわ」


(可愛い!)


 最後まで声に出さず、寸前で思いとどまり、心の中で完結させる。


 いつもと違う、平民に寄せた、質素な服装を身に纏ったティアは、それでも、内面の儚さも可憐さも可愛さも隠し切れてなくて、これはこれで最大限に可愛い!


「ど、どうしたの? その格好」


 何とか平常心を保ち、声を振り絞る。


「あ……私、リーゼ様とお揃いで、お忍びでデートがしたくて……今日、夜も眠れなくなるくらい、凄く、楽しみにしていたんです」


 頬を赤らめ、恥じらうように声を出すティア。


「に、似合いません……か?」

「…………すっごい似合う! 可愛い! 最高! この世で一番可愛い!」


(推しにこんな可愛いこと言われて、虐められるかーーーー!)


 思わず、心の中で絶叫する。


(無理! 何度も言うけど、私、ヒロイン推しなの! 推しを虐められる!? 無理無理! フェルナンド様に離婚を告げられる前に、私の精神が崩壊するわ!)


「ティア、今日はいっぱい、楽しもうね」

「は……はい」


 早々にティアを虐めることを諦めた私は、当初の約束通り、ティアとのデートを心から楽しむことにした。



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