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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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36話 リーゼの相談

 


 ◇◇◇



 一夜明けると、フェルナンド様の言った通り、吹雪は止み、無事に下山することが出来た。

 ティア達とも合流し、グリフィン公爵邸に戻った私は、そのまま何事もなく毎日を過ごしていた――――はずもなく、毎日を悶々として過ごしていた。


 結婚生活八か月目――


(今でも信じられない……! 夢であって欲しかった!)


 自室にて、頭を抱えながら、悶絶する。


(私、初めてだったのに……! いえ、リーゼの体でいうなら初めてじゃないけど、私自身は、初めてだったのに!)


 声が枯れるまで離してくれなくて、何度も何度も……!

 思い出すだけで恥ずかしくて、穴があったら地中深くまで潜って隠れたい! てか、無かったことにしたい!


(ティアは!? 今、二人はどうなってるの? 何で私なの!?)


 小説なら、星祭りでフェルナンド様が告白して、あの夜に初めて結ばれるはずっだった。

 なのに、キングス侯爵の邪魔が入った所為で告白は無かったみたいだし、フェルナンド様と結ばれたのは、私だし。小説とはだいぶ話が変化していて、分からなくなってる。


「離婚しようって何度も言ってるのに……!」


 一切、応じてくれない。離婚を拒まれる。


「何で……」


 私の夢は、普通の恋愛をして、普通に結婚して、普通の幸せを手に入れること。ちゃんと恋をして、私のことを好きな人と結婚したい。


(それに、フェルナンド様はティアと結ばれるのが幸せなの! 邪魔したくない!)


 ラシアスから帰って来てからというもの、ずっと同じようなことを考えてモヤモヤしていて、しんどい。


「誰か、助けて……」


 普通なら、こんなこと誰かに話したりしないのに、この時の私は、正常な思考が出来ていなかったんだと思う。

 誰かに助けて欲しくて、何か解決策を教えて欲しくて、つい、話を聞いてくれそうな相手に、相談をしてしまった。




 ◇◇◇



 場所は変わり、モンセラット伯爵邸――


「……うん、何が問題なの?」

「だから、その……私が、フェルナンド様と結ばれることが……」

「うん、夫婦だから、問題ないよね?」


 私が相談相手に選んだのは、ジークだった。

 モンセラット伯爵邸で侍従として働いているジークの休みを狙って里帰りした私は、誰にも会話を聞かれたくなくて、モンセラット伯爵邸で今もまだ残されている私の部屋にジークを呼び寄せて、話をした。


「だから……フェルナンド様は本当は、ティアと結ばれるべきで……!」

「ティアに不貞を働けってこと?」


 転生のことを話さず、色々と包み隠して話していたが、それで話が通じるわけもなく、とんでもない誤解をされた。


「違ーーう! ここは小説の中で、私は転生しちゃって、本当はもう離婚してるはずの当て馬的モブ悪女なの!」

「――どういう意味?」


(あ、全部、言っちゃった)


 誤魔化すことも出来なくて、自暴自棄なのもあって、ジークっていう信頼感もあって、私はそのまま、全てを白状した。


「リーゼは、この世界が、小説の中だって言うんだね」

「……信じてくれる?」

「正直、信じられない話ではあるけど……でも、リーゼがこんな嘘をつくはずがないって思うから……信じるよ」


 茶化すこともなく、最後まで私の話を聞いてくれたジークは、こんな突拍子もない話を受け入れてくれた。やっぱりジークは優しい! ジークなら、何か解決策を提示してくれるかもしれない。


「リーゼがフェルナンド様から逃げるのは無理だと思うよ」


 そう思ったのに、返ってきた答えは、無情なものだった。


「何で!?」

「何でって……本当に分からないの? フェルナンド様はリーゼのことが好きなんだから、離婚するはずがないよ」

「……え?」

「転生する前のリーゼのことは知らないけど、フェルナンド様は、今のリーゼが好きなんだよ」

「――」


 文字通り、絶句する。


(好き? フェルナンド様が私を?)


「な、何で!? いつから!?」

「僕は最初に会った時から、何となくは気付いてたけど」

「嘘! 絶対、嘘!」


(もしかしたら、って、勘違いしてたこともあるけど、あり得ないって思い直してたのに!)


「小説とは内容が変わってるみたいだけど、それでフェルナンド様が良いなら、無理にティアと結ばせる必要はないと思うよ」


 混乱で頭の中が回って、思考回路がショートしそう。もうジークの話は、頭に入ってこなかった。


「こう言ったらなんだけど、フェルナンド様って執着が強そうだし、自分が気に入った相手をやすやす手放すような人じゃないから、早めに諦めた方が良いと思うよ。リーゼも、本当はフェルナンド様が気に――」

「分かった! 私が、過去のリーゼに戻ればいいのね!?」

「……ん?」

「転生前のリーゼなら、フェルナンド様に離婚を言い渡されるはずだもの! それで、物語は修正されるもんね!」


「いや、そうなったら、リーゼは訳あり男爵の元に嫁がされることになるんじゃ――」

「話を聞いてくれてありがとうジーク! 私、頑張る!」


 パニックになっていた私は、話半分に会話をぶった切り、部屋を出た。


「行っちゃったけど……大丈夫かな?」


 一人取り残されたジークは、暴走気味の私を、心配そうに見送った。




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