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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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33話 雪の降る町ラシアス

 


 ◇◇◇


 結婚生活七ヶ月二十日目――


 雪の降る町 《ラシアス》。

 一年中、雪に覆われた町で、汚染された影響により、死者が出るほどの多くの被害があり、聖女の助けをいち早く求めていた町でもある。


「寒い……」


 吐く息が真っ白。寒すぎて真っ赤に染まる手。

 転生前も雪が降る地域には住んでいなかったから、こんなに沢山の雪を見ること自体、初めて。


「リーゼ、そんな所にいたら体が冷えてしまいます、こちらに来て下さい」

「フェルナンド様」


 町の様子を見れる高台にいた私に声をかけると、フェルナンド様は、そのまま私の手を引いた。


「フェルナンド様、ティアは?」

「今日の活動を終えて、もう宿に戻っています。ジークが傍にいてくれていますよ」

「そうですか」

「ええ、こんなに役に立つのなら、最初から彼を同行させておくべきでした」


 聖女の活動中、今まではどうしても疲労や重圧で弱ってしまっていたティアだが、ジークが傍で献身的に支えることで、以前までとは比べ物にならないくらい明るく、体調を崩すこともなく、効率的に聖女の活動に取り組めるようになっていた。


 ジークには、ティアが弱りそうだなって瞬間が感覚で分かるみたいで、それに合わせてケアを行っているとかなんとか。流石は幼馴染。

 小説とは違い、離れることにならなかった二人。ジークからの贈り物であるひまわりの髪飾りを身に着けているティアを見て、二人が良好な関係を続けられていることが、嬉しい。


「この調子なら、予定よりも早く戻ることが出来そうです」

「それは良かったです」


 ラシアスに来た当初、この地は本当に酷いものだった。

 汚染され、触れるだけで火傷をしてしまいそうな、凍てついた黒い雪。黒い雪が降り積もるラシアスを見た時は、言葉を失った。


 今のラシアスは、ティアの力で、元の真っ白な雪に姿を戻し、住民達も、以前のように外に出れるようになった。とは言っても、まだ汚染された土地は残っているし、完全に元に戻ったわけではないので、あと数日は滞在する必要がある。


「わぁ、触っても痛くない!」

「真っ白な雪だぁ」


 だけど、こうして外に出られるようになり、笑顔で話している子供達を見ると、それだけで、嬉しい気持ちになる。


「やっぱりティアは凄いですね」


 聖女であるティアの力のおかげで、こうして、ラシアスに平穏が戻った。

 ラシアスの人達は皆、心からティアに感謝し、聖女を称えた。


「ええ、ティアの力は、素晴らしいものです」

「そんなティアをいつも支えているフェルナンド様も、素敵だと思いますよ」

「……そうですか、ありがとうございます、リーゼ」


 素直に思ったことを口にしたのだが、フェルナンド様は優しく、微笑み返してくれた。


(気の所為かもしれないけど、最近、フェルナンド様、優しくなった気がする)


「汚染が治ったとしても、ラシアスは普段から雪による自然災害が激しい土地です。気をつけていて下さい」

「分かり……ました」


 前は私を気遣ったりも笑顔も見せてくれなかったのに、今では優しく微笑んでくれて、気軽に触れてくるようにもなった。会話をしながら、自然と手を繋いで、宿に戻る。


 こんな姿を昔のリーゼが見たら、発狂して喜んでしまいそう。


(まるで、本当の夫婦みたい)


 そう思って、すぐに首を横に振った。


(望まぬ結婚をさせたのはリーゼなのに、こんなこと思っちゃ駄目だよね)


「お帰り……なさい、リーゼ様、フェルナンド様」


 ラシアスに用意された宿に着くと、フェルナンド様が教えてくれていた通り、元気そうなティアが出迎えてくれた。


「ただ今、ティア。体は大丈夫?」

「あ……はい。いつもよりも、調子が良くて……リーゼ様と、ジーク兄さんが一緒に来てくれたおかげです」


 はみかむ笑顔。可愛すぎか。推しが可愛すぎて辛い。


「くれぐれも無理はしないで下さいね、ティア。何かあれば、すぐに俺に言って下さい」

「はい……ありがとうございます、フェルナンド様」


 今回の旅は、ジークとフェルナンド様がそれぞれ個室を用意され、私とティアは同室。

 正直、私が個室で、ティアとフェルナンド様が同室でも、私は構わないんですよ。っとは思ったけど、ジークもいるし、言葉には出さない配慮をした。


「リーゼ様……今日もお話、聞いてくれますか?」

「勿論、喜んで聞くよ」


 元気そうなティアを見ながら、少しでも力になれているなら良かったと、そう、思った。



 ――――この時の私は、まだ何も気付いていなかった


 ここが、物語のストーリーの中にいること。

 そして気付かなかったことを、心から後悔することになるとは、思いもしなかった。




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