31話 排除する
◇◇◇
――あれから、私達四人は、揃ってグリフィン公爵邸に戻った。
「ティアの様子は如何ですか?」
ティアの部屋から出てくる私を待ち構えていたかのように、心配そうに尋ねるフェルナンド様。
グリフィン公爵邸に戻った後、遅めの晩餐を取る前に、ティアは眩暈を訴え、そのまま寝込んでしまったのだ。
「大丈夫ですよ、今は眩暈も落ち着いてるみたいです」
「……そうですか」
「心配いりませんよ、ジークもいますし、安心して下さい」
ティアの体調不調は、精神的な部分からくることが大きい。今回は言わずもがな、キングス侯爵が原因だろう。
どうやらキングス侯爵は、私に声を掛ける前に、ティア達の方にも直接ちょっかいを掛けていたみたいだしね。ほんと、余計なことしかしない。
「シェリ様もいるのに、まだキングス侯爵はティアを諦めていないんですね」
ティアを虐めていたシェリ様がいる限り、ティアがキングス侯爵家に行くことは絶対にないと言い切れるのに。
「自分の欲のことしか頭に無い人なので、諦めが悪いんです」
「ああ、納得しました」
小説でも、キングス侯爵はティアを手に入れるために、様々な手段を使って邪魔してくる悪役の一人だ。
あんな性悪な男に狙われているなんて、そりゃあ怖くて体調も崩すよね。可哀想なティア。
「……まさかキングス侯爵が、貴女にまで声を掛けに行くとは思いませんでした」
「聞いていたんですか?」
「最後の方が少し聞こえてきただけです。助けた方が良いかとも思いましたが、どうやら、その必要はなさそうでしたので」
あー、後先考えず、思いっきり反抗しちゃいましたからね。
「歯向かっちゃいましたけど、フェルナンド様に迷惑がかかりますか?」
「いいえ、あの人は以前から俺を敵視していて、仲は既に険悪ですので、お気になさらず」
なら良かった――って、それは良いことなのかな?
「貴女を平民に落とさせたりしないので、安心して下さい」
「いえ、それは別にそこまで気にしなくて大丈夫ですよ」
転生前は平々凡々の一般人だったので、平民に落ちることに何の抵抗もありません。それよりも、訳あり男爵に嫁がされる方が嫌です、断固お断りです。
「以前までは平民のことを、これでもかと見下していたのに、随分な気持ちの変化ですね」
「えーーっと、その、平民の皆さんにも良い人が多いことに気付いたというか、平民もそんなに悪くはないんじゃないかなー? って思い直したというか」
もう昔のことは持ち出さないで欲しい。言い訳を考えるのが苦しい。
「それは、聖女の幼馴染のおかげですか?」
「ジークですってば、名前で呼んであげて下さい。そうですね、ジークも優しくて、とても良い人だと思います」
転生して人格が変わったのが要因だから、正確に言うとジークのおかげではないけど、否定するのもややこしくなる気がするので、肯定しておく。
「ジーク、ね……聖女の幼馴染でなければ、即刻、排除するんですけどね」
「? 何か言いましたか?」
「いいえ、何も」
「そうですか。では、そろそろ失礼しますね」
フェルナンド様の物騒な発言に気付かなかった私は、頭を傾げながらも、目的の場所に向かい、足を進めた。
「どこに行くんですか?」
「ご飯を食べに行くんです。ティアのことで食べ損ねていたので」
「言って頂ければ、食事を部屋に運ぶことも出来ますが?」
勿論、知っていますよ。ティアの看病にあたっていた時は、片時も傍を離れないよう、部屋で食事を取っていましたから。
「いいんです、たまには、ジークとティアにも二人っきりの時間が必要でしょう」
私がいては話せない、幼馴染同士での積もる会話もあるでしょう。小説には書かれていない幼馴染同士の尊い会話に聞き耳を立てたい気持ちを抑えて、部屋を離れるんです!
「……貴女は本当に、ティアが好きなんですね」
「当然じゃないですか」
何度も言いますが、この小説の一番の推しはティアなんです!
後は、今回、星祭りでジークを振り回してしまったことへの罪悪感からくる、贖罪です。こんな機会でしか、好きなティアと二人っきりの時間を提供出来ない私を、許して下さい。
「あ、良かったら、フェルナンド様も私と一緒にご飯、食べませんか? ティアにはジークが付き添ってくれていますから、心配ありませんよ」
「では、ご一緒します」
断られるだろうな、っと思ってお誘いしたのだけど、意外にも、フェルナンド様は了承してくれた。どういった風の吹き回しだろう。
(少しは、気を許してくれたのかな)
以前までなら、同じテーブルについて食事を取ることもなく避けられていたから、素直に嬉しい。
「ああ、リーゼ、先に行って少し待っていてくれますか? たわいも無い、些細な用事があるのを思い出したので」
「分かりました、待っていますね」
フェルナンド様と別れ、一人、ダイニングルームに向かう。
(このまま円満に離婚が出来たらいいな)
なんて気楽に思いながら、私は上機嫌で、ダイニングルームへ向かった。
◆◆◆
「ミセス」
「はい」
傍に隠れて控えていたミセスに、声を掛ける。
「キングス侯爵家に抗議文を送れ、妻に無礼な発言をしたことを許さない、と。あとは、俺が本気であることを知らしめるために、モンセラット伯爵とも協力して、キングス侯爵家が関連している全ての事柄を一時的に妨害しろ」
「本気ですか?」
「異論は認めない、やれ」
「……はぁ、かしこまりました」
俺の妻に手を出すことがどういうことになるか、その身でしっかりと理解させる必要がある。
「例えキングス侯爵と言えど、リーゼに手は出させない」
彼女を俺から引き離そうとする要因になるものは、全て、排除する。
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