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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
30/62

30話 最後まで妻でいてもらいます

 


 ◆◆◆



 時は遡り、数時間前――


 星祭りは帝都で開かれる最大級の祭りであり、この祭りには、平民は勿論、各地の貴族達も参加する。


「やぁやぁ、これはグリフィン公爵と聖女様ではありませんか」

「……キングス侯爵」


 星祭りに貴族として参加していた俺とティアの元に、何食わぬ顔で現れ、声を掛けるキングス侯爵。


「こんな所でお会いするとは、奇遇ですねぇ」


(わざとらしい。どうせ、俺とティアが来るのを、今か今かと待ち構えていたくせに)


 キングス侯爵の姿を見た瞬間、ティアは俺の後ろに隠れ、ギュッと、服の袖を掴んだ。


「何か御用ですか?」

「いえいえ、以前、聖女の世話役を携わっていた者として、聖女様にご挨拶をしようと思いましてね。聖女様、その節は娘が失礼しました」


 キングス侯爵の娘――シェリ嬢は、こともあろうに、聖女であるティアを虐めていた。


「い、いえ……」


 今でも、ティアはキングス侯爵令嬢にされた仕打ちを忘れておらず、こうして、父親の顔を見ただけで怯えている。どうせ、キングス侯爵自身も、聖女の世話役になりながら、特にティアの世話をしていなかったのだろう。


「実は娘も大変反省しておりましてね、今では、聖女様と親友になりたいと言っているんですよ」


(随分、打算的な親友だな)


 当人が本当に言っているかも怪しいが、どうせ、父親に言われて仕方なく、と言ったところだろう。


「如何でしょう聖女様? 歳の近い女性がいる我が家の方が、聖女様にとって居心地が良いのではないでしょうか? どうぞ、キングス侯爵家へお戻り下さい、歓迎致しますよ」

「――っぅ」

「申し訳ありませんが、ティアの世話は陛下より正式に、グリフィン公爵家が承っています。貴方が出しゃばることではありません」

「なっ! 何が出しゃばる、だ! 本当に聖女を想うのなら、聖女の気持ちを第一に考え、聖女が望む我がキングス侯爵家で世話をさせるものだろう!」


 この引きつったティアの顔のどこを見て、そう思えるのか、その思考回路を覗いてみたい気分だ。


「歳の近い女性がいるという意味なら、グリフィン公爵家にも妻がいるので心配いりません」

「妻ぁ? ああ、あの噂のリーゼ夫人ですか。貴方も大変ですねぇ、金に目が眩んで、あんなロクでもない女に引っかかるとは」

「……」


 今は人が変わったようにマシになったとは言え、過去のリーゼの悪評は、社交界中に知れ渡っている。全てを払拭するには、まだまだ時間がかかるだろう。


(キングス侯爵の言い分は間違ってはいない、俺も、少し前までは彼女のことをそのように評価していた。だが――)


「妻を悪く言わないでもらおう」


 今の彼女を貶されるのは、腹が立つ。


「は? まさかグリフィン公爵ともあろう方が、あのような悪女に毒されたのですか? あの悪女に毒されるくらいなら、私の娘の方が遥かにマシでしょうに」

「貴方の娘? ご冗談でしょう? 全くタイプじゃありませんね」

「なっ!」

「ああ、本題がずれましたね。ティアですが、俺が責任を持って面倒をみています。キングス侯爵が心配する必要はありませんので、どうぞ、安心して、ティアのことは俺にお任せ下さい」


 そう言って、俺はティアの肩に手を回し、早々にこの場を去った。


 馬鹿の相手をするのは疲れるし、何より、これ以上、ティアをキングス侯爵に関わらせ、怯えさせることが嫌だった。折角、ティアの気分転換を兼ねて星祭りに来ているのに、悲しい気持ちにさせてしまっては、本末転倒というものだ。


「大丈夫ですか? ティア」

「は、はい……大丈夫です、フェルナンド様」


 そうは言っても、彼女の表情は暗かった。


(キングス侯爵は、何も分かっていない。聖女の、ティアが活動出来ないことが、どれほど、国に損害を与えるのか)


 ティアは、精神を病んでしまえば、本当に聖女の活動が出来なくなるような、か弱い女性だ。


 ティアの精神状態を保ち、聖女の活動を問題無く行えるようにすること。これがどれ程の責任を伴うかを理解していないから、ああも無責任に、聖女を寄越せと言えるのだろう。


「夜の景色を少しだけ見たら、早めに家に帰りますか?」

「はい……そうします」

「今日の晩餐には、ジークも招待しましょう。リーゼにも、今日はティアの部屋で休んで頂くよう、声をかけましょうか」

「! いいんです……か?」

「ええ」


 少しでも笑顔が見えたティアに、胸を撫で下ろす。


 以前まで、ティアのケアは全て俺がしなくてはならないと思っていたが、今は、リーゼもティアの幼馴染のことも、使うようにした。それだけで、ティアは以前より簡単に、回復するようになった。


(あのまま、俺だけがティアの世話をしていたら、ティアは俺に依存していたかもしれない)


 ――――あの日、リーゼが部屋に忍び込んだ日、頼って欲しいと言われたことが、心に響いた。そして気付いたら、唇に触れていた。


 彼女に対する気持ちの変化には気付いている。


(リーゼは俺との離婚を望んでいるみたいですが、絶対に、離婚はしません)


 何があっても離さない。


(リーゼが俺との結婚を望んだんですから、最後まで、責任を取って、俺の妻でいてもらいますよ)



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