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離婚しましょう、私達  作者: 光子
離婚しましょう
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29話 負け犬の遠吠え

 


「何か私にご用でしょうか?」

「いや何、実はさっきグリフィン公爵と出くわしましてね。聖女様と仲睦まじく、肩を抱いて歩いていましたよ」

「はぁ」


(それが?)


 それを聞かされても、物語の通りに進んでて良かったなぁ、って感想しか生まれないんだけど。


「こんなに可愛らしい奥様がいるのに、聖女を優先するなど、許せんと思いましてなぁ。どうです? 聖女様を追い出したくありませんか? 私が知恵をお貸ししますよ」

「は、い?」

「聖女様は心が弱い方なようなので、ちょっとキツい言葉で暴言を吐けば、すぐに逃げ出すでしょう。公爵夫人はそういうの、お得意でしょう? 後は――」


 それからも、フェルナンド様を取り戻したければ、聖女を虐めて家から追い出せやら、一方的に話すキングス侯爵。


(――ああ、私を利用して、自分がティアの世話役に戻りたいのね)


 私のためと称しておきながら、その魂胆が見え見え過ぎて、吐き気がする。


(まともに関わったことはないけど、私、実はこの人のことを前から知ってるんだよね)


 だってキングス侯爵は、小説の中でヒロインとフェルナンド様の仲を邪魔する、悪役の一人だから。


(そんな相手の言うことを真に受けて、ティア最推しの私が言うこと聞くわけないでしょ、馬ー鹿)


「色々と気遣って頂いて申し訳ありませんが、私は、グリフィン公爵家からティアを追い出す気はありません」

「おや、いいんですか? このままでは、金の力を使ってまで無理矢理、手に入れたグリフィン公爵を聖女に奪われるかもしれないんですよ?」

「彼が私ではなくティアを選ぶのなら、仕方ありませんね。それなら私は、喜んで彼との離婚に応じます」

「――は? 離婚に応じる!? どれだけ悪どいことをしてもグリフィン公爵を手に入れようとしていた、貴女が!?」


 そんなに驚くこと? リーゼはどれだけ、フェルナンド様を手に入れるために好き勝手してたのよ。


「無理矢理、手に入れた結婚に意味なんてないことに気付いたんです。私は、フェルナンド様が幸せになれるのなら、それで構いません」


「馬鹿な、それでグリフィン公爵と聖女が本当に恋に落ちたらどうするんですか!? そんなことになったら、益々、あの男から聖女を引き離せなくなる――!」


 ほら、本音がポロリ。

 私を利用して、フェルナンド様から聖女を離す? フェルナンド様を陥れようとする? 馬鹿にしないでよね。全面的に私が悪いとしても、貴方に利用される筋合いはありません!


「ティアを任せられるのは、この国のことを一番に考えている、フェルナンド様だけです。貴方みたいに、自分の権力や地位ばかりを考えている人ではありません!」


 聖女が現れなかった時から、フェルナンド様は、汚染された土地の人々のために出来る限りの支援を行っていて、それが原因で、リーゼに付け込まれて無理矢理、結婚させられてしまった。

 国を想う、優しい人。

 私を理由に、彼の足を引っ張らせたりしない!


「このっ! この私が、お前のようなくだらない女に声を掛けてやったというのに!」

「声を掛けて頂かなくて結構です、話がそれだけでしたら、どうぞ、お帰り下さい」

「愛されていない公爵夫人の分際で私に楯突いたこと、覚えておけ! 絶対に許さないからな!」


 典型的な負け犬の遠吠えを吐き、その場を去るキングス侯爵。


「リーゼ、大丈夫!?」

「あ……うん、大丈夫。今になってちょっと、震えてきちゃったけど」


 面と向かって、侯爵に楯突いてしまった。


(今はフェルナンド様の、グリフィン公爵家の保護の中にいるけど、離婚して他人になった後が怖いな)


 何とか、お父様には迷惑をかけないようにしなきゃ。大丈夫、今のお父様なら、フェルナンド様は守って下さるはず。


「……ジークは、私が平民に落ちても、友達でいてくれる?」


 いざとなったら、家に迷惑がかからないよう、平民に落ちる覚悟だってしてる。なんなら、平民の方が気楽に生きれそうと思っているのは、内緒です。


 でも、平民に落ちれば、フェルナンド様は勿論、気軽に、聖女のティアにも会えなくなるだろう。私が会えるのは、同じ平民であるジークだけになる。


「……いっそ、そうなってくれたらいいのに」

「え?」


(それって、私に、平民に落ちて欲しいってこと?)


 意味が分からなくて困惑している私に、ジークはすぐに、笑顔を返した。


「大丈夫、リーゼが平民に落ちることはないよ。フェルナンド様が、それをお許しにならないだろうから」

「それは……」


 やっぱり、小説のシナリオ通り、訳あり男爵のもとに嫁がされる運命? そんなことになるくらいなら、平民に落として欲しいんだけど。


「そうですよね? フェルナンド様」

「――え?」


 ふと後ろを振り向くと、そこには、険しい表情を浮かべているフェルナンド様と、悲しい表情を浮かべているティアの姿があった――――



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