26話 星祭り
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あれから、ティアの聖女としての活動は、前のような無茶な日程を組まれることはなくなり、ティアの体調や心のケアを考えられながら、行われることになった。
旅から戻った後はやっぱり、まだしんどそうにしているけど、私やジークが付き添っていると、自然と、元に戻っていった。
フェルナンド様は、以前よりもティアを私達に任せてくれるようになり、フェルナンド様自身も、少しは、休めているように見えた。
そんな中、私の大好きな小説のシナリオが、始まろうとしていた。
結婚生活六か月目――
「お祭りが……あるんですか?」
「ええ、とっても楽しいお祭りよ」
グリフィン公爵邸の庭園、真っ白な丸いテーブルに、四つの椅子。
その内の一つに私が、私の隣にはティアがいて、私はティアに、帝都で行われる《星祭り》について、お茶を飲みながら話をした。
「昼間は屋台とか出てて楽しいし、夜は夜で、綺麗な装飾が帝都全体にされてて、光る街を散歩してるみたいで、すっごいロマンティックなの」
「そう……なんですね」
「――平民も参加するような卑しい祭りには興味ないと言っていたのに、随分、詳しいんですね」
もう一つの私の隣の椅子に座っているのはフェルナンド様で、フェルナンド様は、私の言葉に、怪訝な表情を浮かべた。
「えーーっと、実は、心の中ではすっごい、素敵だなぁって思っていたんです」
「ふぅん」
(リーゼったら、そんなこと言ってたのね)
過去のリーゼの発言は知らないので、こうして話を振られると、毎回、何て言い訳しようか、とても戸惑ってしまう。
「……リーゼ様は、そのお祭りに、行きたいんです……か?」
「私? うん、そうね。行ってみたいかな」
転生したばかりの私が、星祭りを知っているのは、勿論、小説の知識によるものだ。
(昼間のお祭りもだけど、夜の星祭りは綺麗で幻想的って描かれていたから、この目で見てみたかったんだよね。まさか転生して、その願いが叶うなんて!)
お祭り自体、転生する前も、幼い頃以来行っていない気がする。
一人で行ってもいいけど、どうせなら、誰かと一緒の方が楽しそう。そう思って、私は自分の目の前に座る人物に声をかけた。
「ジーク、私と一緒にお祭りに行こうよ」
四つ用意された椅子の最後に座っていたジークは、私の誘いに、飲んでいた紅茶のカップを口から離し、むせたように咳き込んだ。
「だ、大丈夫? ジーク」
「大丈夫だけど……」
大丈夫と口にするものの、どことなくジークの顔色は暗い。体調不良とかから来るものじゃなさそうだけど、何? 一体、どうしたの?
因みに、何故このメンバーで集まってお茶会が開かれているかというと、発案者はティアで、普段なら絶対に断りそうなフェルナンド様が参加しているのは、聖女であるティアのお願いだからである。
「私と一緒に行くのが嫌なの? 私は、ジークと一緒ならすっごく楽しいだろうなって思ったのに……」
「違う、嫌とかじゃないよ。でもほら、僕よりも一緒に行くのに適任の人がいるんじゃないかな? って思っただけで」
「私には、ジークしかいないけど」
だってティアはフェルナンド様と一緒に行くだろうし、邪魔は出来ないし、させない。アルルは侍女の立場から遠慮しちゃうだろうし、ミセスなんてもってのほか。消去法でジーク以外、一緒に行く相手いなくない? 他に友達いないし。
「あ、嫌なら無理強いしないから大丈夫だよ! ジークが駄目なら、私、一人で行くから」
ジークの雇い主であるお父様の力を借りて、無理矢理連れて行くなんて真似しないから! ……最も、今のお父様なら、頼んでもしてくれない気がするけど。
「いや、それはそれで……」
言いにくそうに言葉を濁すジーク。
「……リーゼ様は……私よりも、ジーク兄さんと一緒の方が良いんですね」
「……」
私の両隣で、ティアが落ち込み、フェルナンド様が不機嫌になっているのに、私は全く気付かなかった。
「……ティア、よろしければ、俺と一緒に行きませんか?」
「フェルナンド様……はい、よろしくお願いします」
(おお! 小説通りの展開です!)
フェルナンド様が推しのヒロインをデートに誘う瞬間を、この目で見れるなんて! と、興奮する。
「……はぁ、分かったよ、リーゼ、僕達も一緒に行こう」
「ほんと? ありがとう!」
ティアを好きなジークには悪いけど、これは小説通りの展開! 大切な物語の筋書きなので、覆すことはさせません! なんていったって、この星の祭りには、フェルナンド様がティアに愛の告白をする大切な挿絵のシーンがあるんです! 小説のファンとしては、このシナリオを覆させるわけにはいかないんです!




